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第三二話 反動
しおりを挟む「ただいま戻りました……」
カトリーヌが受付のカウンターを離れ、俺たちの座っている長椅子まで戻ってきた。
……しかしなんか浮かない顔だな。冒険者登録所に微妙な空気が流れる。まさか、外れスキルを貰っちゃったんだろうか。
「お、おかえり、カトリーヌ」
「お、お、おかえりなさい、カトリーヌさん!」
俺の動揺がミケにも伝染してしまったらしい……。
「ふわあ……ねむねむ……カトリーヌ、どんなスキルを貰ったのだ? もったいぶらずに早く言うのだ! もがっ!?」
「こらこら!」
寝ぼけ気味のエリンがルザークから口を押さえられた。本当にマイペースなやつだ。
「はい。私のスキルは【復活】でした……」
【復活】……? 剣術に秀でたカトリーヌのことだから、剣士っぽいスキルを貰えるとばかり思っていた。ついてきたみんなもそう思っていたのか、意外そうにお互いの顔を見合っているのがわかる。
「……うう……」
カトリーヌが赤い顔で目頭を押さえる。どんな効果か知らないが、この様子だときっとどうしようもない効果だったんだろうな。惨めになって泣きたくなる気持ちは痛いほどわかる……。
「か、カトリーヌさん、大丈夫です! 最初はぱっとしなくても、隠し効果でなんとかなる場合もあります!」
「そ、そうそう、ミケの言う通りだ。俺の【転送】もそうだったしなあ」
「……い、いえ、違うんです。ミケさん、ケイスさん……」
「「えっ……?」」
俺とミケの素っ頓狂な声が被る。
「私、嬉しくて……」
……嬉しい? じゃあ嬉し涙を流すほどの当たりスキルだったんだろうか……。
「きっと、運命だったのだと思います。これは、石化状態や永眠状態になった者を復活させるスキルなんです」
「……そ、それってつまり……」
俺は無意識に立ち上がっていた。
「ファルナスも目覚めさせられるってこと……?」
「……そうなります」
なんてこった……。これじゃ、俺がファルナスの体から出なければならなくなる。
それはつまり、また新しい体を探さなければならないということ。少々気が引けるが、また仲間の体を借りるしかなさそうだな。なんかルザークの目がギラついてるように見えるのは気のせいか。気のせいだと思いたい……。
「安心してください、ケイスさん」
「え?」
「その体はもう、ケイスさんのものです」
「……カトリーヌ?」
信じられない。ファルナスを敬愛していたはずのカトリーヌがそんなことを言うなんて……。
「それは、無理して言ってるのか?」
「……いえ、本音です」
カトリーヌは真っすぐ俺を見つめていた。嘘をついているようには見えない。
「ファルナスに会いたいだろ。カトリーヌ……」
「そりゃ会いたいですよ。でも、ファルナス様は目覚めることを望んでないと思います」
「どういうことだ?」
「……ファルナス様が愛するユリス様はもうこの世にいません。そのうえ、ギルドメンバーも全員亡くなられたんです。あの方がそれを知ってどれだけ嘆き悲しむかと思うと……」
「……眠ってたほうが幸せってことか」
「はい。それに、【復活】には代償もあるんです」
「代償?」
「もしファルナス様を目覚めさせる場合、私も眠らなくてはならないでしょう。三年以上も眠った方を起こすとなれば、影響が大きすぎてもう二度と目覚めない可能性のほうが高いと思います」
「……反動か」
「そうです。永眠状態になって間もないのであれば、そこまでの反動はないわけですが……」
「……」
つまり、あれだ。ファルナスは起きた瞬間カトリーヌまでも失い、地獄を味わう可能性が高いというわけだ。
「私はどうなっても構いませんが、ファルナス様を二度殺すようなことはできません」
「……そうか。そのスキルを貰えて嬉しいって言ってたから、てっきり……」
「……それはもう二度と、あのような悲劇を見なくて済むと思ったからです。手に負えないような特殊な状態異常でも、このスキルは回復してくれますから」
「なるほどな。……あっ……」
カトリーヌの今の発言で良いことを思い付いた。
「どうされましたか、ケイスさん?」
「……それって、記憶の部分的な喪失とかも回復してくれる?」
「それなら反動も少なく処理できるかと……」
「よし、早速エリンの記憶を回復させてやってくれ。『サンクチュアリ』の連中からリンチされた記憶だけどな」
「えっ……」
カトリーヌがぽっかりと口を開けるのも無理はないか。ほかのみんなも同じような反応だ。ただ、これにはちゃんと意味がある。
「エリンにとってはきついかもしれないが、やつらが消した記憶の中に何か都合の悪いものもあるかもしれない。それに、『サンクチュアリ』打倒に向けて団結力を強める意味合いもある」
「……なるほど。わかりました。って、エリンさん!?」
「大人しくしろ、この――」
「――いっ、嫌なのだああああ!」
……よかった。足元に魔法陣が出ていたエリンをルザークが妨害し、捕まえてくれていた。【空気】が発動しちゃうと厄介だからな。
「エリンさん、大丈夫ですよ、死ぬわけじゃないですから!」
……ミケのフォロー、あんまりフォローになってないような……。
「リンチされた記憶なんて戻されたくないのだあ……うぅ……」
体は大人なのに、駄々をこねる子供みたいだな、エリンは……。
「では、いきますよ、エリンさん……」
「う、うわああああっ! カトリーヌ、来るでない! 来るでないぞおおお!」
近くで寝ていた冒険者が飛び起き、受付嬢が目を丸くするほど、登録所内はエリンの悲鳴で埋め尽くされてしまった。
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