外れスキル【転送】が最強だった件

名無し

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第二九話 我が家

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「あそこです」
「あ、あれが……」

 まさか、王都中心部にある大手ギルドの居住区に再び足を踏み入れることになるとは夢にも思わなかった。

 夜が明けたあと、カトリーヌに『アニュス・デイ』の拠点まで案内してもらうことになったわけだが、その広い面積や彼女の指差す宿舎の大きさに驚いていた。

 中央区といっても『サンクチュアリ』の拠点とは違う場所にあるが、その規模はほぼ変わらなかったのだ。『アニュス・デイ』が当時いかに新興ギルドとして隆盛を誇っていたかを裏付けている。

「あれがエリンの新しいおうちか! 凄いのだ……」
「ふふ。みんなのおうちですよ!」
「よーし! ミケ、早速見て回るのだ!」
「あ、エリンさんずるいです。一番乗りは私ですよ!」

 エリンとミケが目を輝かせて宿舎のほうへ走っていく。二人ともまだまだ子供だな。そういう俺も正直心が浮ついてるが、一応こういう場所に立ち入るのは二度目だからまだ自分を抑えられている。

「なあカトリーヌ、本当に俺たちがあんなところに住んでいいのか?」
「はい。中身は違えど、居住権はファルナス様にありますので……」
「なるほど……」

 居住権を持つ者か、そのパーティーメンバーかギルドメンバーじゃないと宿舎には入れないようになっているんだよな、確か。

「まさかまたこういう場所に来られるとはよお……」

 ルザークのやつが目を細めて懐かしそうに周りを見渡してる。そういや、カトリーヌとは面識がなかったんだろうか。一度立ち寄っただけなら会ったことがなくても不思議じゃないが。

「……また来られた? ルザークさん、それはどういうことですか?」
「それがよ、一度シルウに連れられてこういうところへ来たことがあるんだよ。あの宿舎じゃなくて、溜まり場になってる広場のほうにだけどよ」
「……ルザークさん、あなたはもしや……」
「お、おいおい。カトリーヌ、そんなに睨むなっての。シルウとは昔ちょびっと野良パーティー組んでただけの関係なんだぜ? それに、あんな悪魔みたいなやつと今でも仲間でいるなんて、よっぽどの変わり者じゃないとありえねえだろうよ」
「……確かに。それもそうですね……」
「……」
「どうしました? ケイスさん、そんな青い顔して……」
「あ、いや。なんでもない……」

 じゃあ未だにシルウに片思いしちゃってる俺って相当な変人なんだろうな……。



 ◇◇◇



「……ゲフッ、ゲフッ……」

 物凄い量の埃が舞い上がり、窓から射し込む光の中でキラキラと輝いている。俺の担当になっている宿舎一階通路を箒でちょっと掃いただけでこれだ。

 階段とかリビングとかあっちこっちからしきりに咳が聞こえてくるのもわかる。さすがに3年以上放置された宿舎なだけあるな……。

「……ゴホッ、ゴフフッ……。ったくよお、なんで俺たちがこんなことやらなきゃいけねえんだろ。なあ、ケイス……」

 ルザークが螺旋階段の一番下に座って愚痴りつつ、上の段に雑巾を投げては【回収】してバケツに突っ込んでる。中の水はあっという間に真っ黒だ。

「まあまあ……ルザーク、今日からここが俺たちの家になるんだから我慢してくれ」
「それはわかるけどよ……。こんなの女どもに全部やらせておけばいいんだよ」

 ルザークの手元にある雑巾がぱっと煙草に変わる。例の隠し効果か。さぼる気満々だな……。

「これこれ、そこの男たち! 何を休んでいるか。とっととエリンのために掃除するのだ!」
「あ、できれば私のためにもお願いしますね! へへ……」
「お……」

 二階を担当しているエリンとミケが下りてきた。

「エリン、ミケ、まさかもう終わったのか?」
「そんなの、まだに決まってるのだ……ふわあ」
「ここ結構広いんですよ。エリンさんも眠たそうでしたし、それでちょっと休憩に……」
「……なるほど」
「ケイス。どうせだからエリンもミケちゃんも入れて猥談でもしようぜ」
「ええ……?」
「おー!」
「ま、まだお昼ですよぉ……?」

 いいのだろうか、これで……。というかエリンはやたらと楽しそうだし猥談の意味すらわかってなさそうだ。

「こるああぁ! みんなさぼったらお仕置きですよおおぉ!」
「「「うわああっ!」」」

 箒を振り上げながら現れたカトリーヌの一喝で、みんな一気に散ってしまった。まだスキルも貰ってないのに彼女が一番強いからな……。

「もうっ。逃げ足だけは速いんだから……。あ、ファルナス様……いえ、ケイスさん、あとで少しお話があります。よろしいですか?」
「ああ」
「では……さぼらないようにっ」
「あ、ああ」

 話ってなんだろう?

 そういえば、カトリーヌはもうじき15歳になってスキルが貰えるらしいし、もしかしたらそれまでにシルウに対して復讐計画を練っておこうってことなのかもしれないな。彼女からしてみたら、少しでも早くシルウを殺したいだろうし。

 ただ俺としては、ほかの連中はどうでもいいがシルウだけは最悪でも四肢切断程度で収めてもらいたいんだが、どう説得しようか……。
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