外れスキル【転送】が最強だった件

名無し

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第十八話 空白

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「……んっ……」
「お……目が覚めたみたいだな」

 まさか、助けた少女のほうがミケより先に起き上がるとは思わなかった。

 傷も完全に治ってるし、凄い回復の速さだ。まだ眠いのか締まりのない顔で俺のほうを見ている。

 ……ん、この子、雰囲気的に誰かに似てるような気がしたが、誰だっけ? どうしても思い出せない……。

「ふわあ……。ここは……どこなのだ……?」
「宿だよ。もうやつらはいないから心配するな」
「……やつら?」
「『サンクチュアリ』だよ」
「んん? それは大手ギルドのことであるな。それがどうかしたのか……?」
「え……お前、あいつらにリンチされてたんだぞ……?」
「……む? なんのことかな……? あなたがどなたかは知らんが……とりあえず、眠いゆえ……もう少し寝させてもらうのだ……」
「……」

 あっという間に寝てしまった。よほど眠かったんだろうけど、知らないやつが側にいるのに一切動揺した素振りもなく寝ちゃうなんて、かなり肝っ玉が据わってそうだな。

 ……というか、やつらについて一切覚えてないってどういうことなんだよ……。リンチされたことによるショックで記憶を失ったとか? あるいは、誰かのスキルで記憶を操作されたとか?

 ……んー、後者のほうがありうるな。そんな都合よく記憶を失うなんて思えないし。

 そういや、やつらの中で一人だけどんなスキルを使ってくるのかわからないやつがいた。ロンとかいう長髪の不気味な男だ。そいつがやったのかもしれない。俺のときは何もしてこなかったが、多分例の掲示板の影響でより慎重になったんじゃないか。

 さて、これからどうするか……。『サンクチュアリ』のことは置いといて、まず仲間を作らないとな。助けた子も含めて、あと一人は欲しい。最初のボス部屋にさえたどり着けない状況なんだし。問題は仲間が集まるかどうか。

 評判ガタ落ちの俺じゃ厳しいから、ミケにパーティーメンバーを勧誘してもらおうかな。おそらく彼女のスキルが俺たちの中で今一番評価が高いと思うし。

「おーい、ミケ……」
「くぅ、くぅ……」
「……」

 ダメだ、起きそうにない。勘が鋭いやつに【転送】のことを嗅ぎ付けられる可能性があるし、なるべく急がないといけないのに。

 ん、待てよ……そうだ、眠っている間にミケの中に入るっていうのはどうだろう。スキルの説明にはないが、睡眠中は精神――意識――レベルが低下するわけだから普通に成功するような気がする。というわけで早速ミケの体に向かい、意識が【転送】されるよう念じた。

「――はっ……」

 バタンと背後で何かが倒れる音がして、振り返るとルザークだった。思わず自分の手を見る。

 ……ちっちゃい。子供の手だ。急いで洗面所に向かうと、鏡に呆然とした顔のミケが映っていた。おいおい……俺、可愛すぎだろ。以前の顔がルザークだっただけに余計そう思う。

 っとそうだ。ルザークのやつ、放っておいたら意識が戻るんじゃないか?

 俺は早速部屋に戻り、ルザークのボロズボンに巻かれてあったベルトで両手両足を縛り上げた。さらに短剣を奪い取ると、その手にタブレットを握らせる。何度か試したことがあるんだが、【回収】というスキルは直前に触ったものを手元に戻す仕様なんだ。だからいくら念じようと短剣を戻すことはできないはず。あとは服で口元を塞ぎ、押入れに収納して完了だ。



 ◇◇◇



「え……」

 意外だった。ミケに対する申込件数が一つしか追加されてなかったからだ。

 しかも、男からではなくアザレアという24歳の女性からの誘いだった。やっぱりこれって、みんなの前でルザークの恋人宣言しちゃったからか? しかも、そのルザークの評判は最悪なわけで……。一つ来ただけでも良かったのかもしれない。

 早速待ち合わせの公園に向かっているわけだが、正直不安が大きかった。相手の情報でわかるのは名前、年齢、性別くらいで、あとは非公開だったからだ。どんだけ舐められてるんだ。ただ、こっちから色々誘いをかけても間に合ってるやつばかりだったし、藁にも縋る思いなのも確かだ。スキル欄には【回復力増大】に加えて【転送】が追加されているため、非公開設定にせざるを得なかったことも影響しているかもしれない。

 王都グラステリアの中央区にはとても狭い公園がある。噴水もベンチも花壇もない、背の高い植木に囲まれただけの通称『秘密の花園』。深夜でなければほぼ誰も寄り付かない、覗きの聖地とも呼ばれる四角いエリアが待ち合わせの場所だった。

「……」

 着いたがまだ誰もいない。少し早かったかな。夕方頃ということもあってか、周辺はほんのりと暗く静まり返っている。

「あら。あなたがミケちゃんね」
「は、はい……」
「ウフフ……」

 しばらくして入ってきたのは、さっぱりした髪型のスタイル抜群な女性だった。

 女王様然とした、やたらと凄みのある笑みを向けてきてる。……って、この人どこかで見たことがあるような。誰だっけ? 喉まで出かかってるんだが思い出せない……。
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