18 / 50
第十八話 空白
しおりを挟む「……んっ……」
「お……目が覚めたみたいだな」
まさか、助けた少女のほうがミケより先に起き上がるとは思わなかった。
傷も完全に治ってるし、凄い回復の速さだ。まだ眠いのか締まりのない顔で俺のほうを見ている。
……ん、この子、雰囲気的に誰かに似てるような気がしたが、誰だっけ? どうしても思い出せない……。
「ふわあ……。ここは……どこなのだ……?」
「宿だよ。もうやつらはいないから心配するな」
「……やつら?」
「『サンクチュアリ』だよ」
「んん? それは大手ギルドのことであるな。それがどうかしたのか……?」
「え……お前、あいつらにリンチされてたんだぞ……?」
「……む? なんのことかな……? あなたがどなたかは知らんが……とりあえず、眠いゆえ……もう少し寝させてもらうのだ……」
「……」
あっという間に寝てしまった。よほど眠かったんだろうけど、知らないやつが側にいるのに一切動揺した素振りもなく寝ちゃうなんて、かなり肝っ玉が据わってそうだな。
……というか、やつらについて一切覚えてないってどういうことなんだよ……。リンチされたことによるショックで記憶を失ったとか? あるいは、誰かのスキルで記憶を操作されたとか?
……んー、後者のほうがありうるな。そんな都合よく記憶を失うなんて思えないし。
そういや、やつらの中で一人だけどんなスキルを使ってくるのかわからないやつがいた。ロンとかいう長髪の不気味な男だ。そいつがやったのかもしれない。俺のときは何もしてこなかったが、多分例の掲示板の影響でより慎重になったんじゃないか。
さて、これからどうするか……。『サンクチュアリ』のことは置いといて、まず仲間を作らないとな。助けた子も含めて、あと一人は欲しい。最初のボス部屋にさえたどり着けない状況なんだし。問題は仲間が集まるかどうか。
評判ガタ落ちの俺じゃ厳しいから、ミケにパーティーメンバーを勧誘してもらおうかな。おそらく彼女のスキルが俺たちの中で今一番評価が高いと思うし。
「おーい、ミケ……」
「くぅ、くぅ……」
「……」
ダメだ、起きそうにない。勘が鋭いやつに【転送】のことを嗅ぎ付けられる可能性があるし、なるべく急がないといけないのに。
ん、待てよ……そうだ、眠っている間にミケの中に入るっていうのはどうだろう。スキルの説明にはないが、睡眠中は精神――意識――レベルが低下するわけだから普通に成功するような気がする。というわけで早速ミケの体に向かい、意識が【転送】されるよう念じた。
「――はっ……」
バタンと背後で何かが倒れる音がして、振り返るとルザークだった。思わず自分の手を見る。
……ちっちゃい。子供の手だ。急いで洗面所に向かうと、鏡に呆然とした顔のミケが映っていた。おいおい……俺、可愛すぎだろ。以前の顔がルザークだっただけに余計そう思う。
っとそうだ。ルザークのやつ、放っておいたら意識が戻るんじゃないか?
俺は早速部屋に戻り、ルザークのボロズボンに巻かれてあったベルトで両手両足を縛り上げた。さらに短剣を奪い取ると、その手にタブレットを握らせる。何度か試したことがあるんだが、【回収】というスキルは直前に触ったものを手元に戻す仕様なんだ。だからいくら念じようと短剣を戻すことはできないはず。あとは服で口元を塞ぎ、押入れに収納して完了だ。
◇◇◇
「え……」
意外だった。ミケに対する申込件数が一つしか追加されてなかったからだ。
しかも、男からではなくアザレアという24歳の女性からの誘いだった。やっぱりこれって、みんなの前でルザークの恋人宣言しちゃったからか? しかも、そのルザークの評判は最悪なわけで……。一つ来ただけでも良かったのかもしれない。
早速待ち合わせの公園に向かっているわけだが、正直不安が大きかった。相手の情報でわかるのは名前、年齢、性別くらいで、あとは非公開だったからだ。どんだけ舐められてるんだ。ただ、こっちから色々誘いをかけても間に合ってるやつばかりだったし、藁にも縋る思いなのも確かだ。スキル欄には【回復力増大】に加えて【転送】が追加されているため、非公開設定にせざるを得なかったことも影響しているかもしれない。
王都グラステリアの中央区にはとても狭い公園がある。噴水もベンチも花壇もない、背の高い植木に囲まれただけの通称『秘密の花園』。深夜でなければほぼ誰も寄り付かない、覗きの聖地とも呼ばれる四角いエリアが待ち合わせの場所だった。
「……」
着いたがまだ誰もいない。少し早かったかな。夕方頃ということもあってか、周辺はほんのりと暗く静まり返っている。
「あら。あなたがミケちゃんね」
「は、はい……」
「ウフフ……」
しばらくして入ってきたのは、さっぱりした髪型のスタイル抜群な女性だった。
女王様然とした、やたらと凄みのある笑みを向けてきてる。……って、この人どこかで見たことがあるような。誰だっけ? 喉まで出かかってるんだが思い出せない……。
1
お気に入りに追加
384
あなたにおすすめの小説
コーデリア魔法研究所
tiroro
ファンタジー
孤児院を出て、一人暮らしを始めた15歳の少女ミア。
新たな生活に胸を躍らせる中、偶然出会った魔導士に助けられ、なりゆきで魔法研究所で働くことになる。
未知の世界で魔法と向き合いながら、自分の力で未来を切り拓こうと決意するミアの物語が、ここから始まる。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

崖っぷちGランク冒険者は『VIP』になって無双する
夕凪なぎ
ファンタジー
スキル・『課金』。それは冒険によって得たお金で様々な要素に課金をし、身体能力を高めたり特殊能力を取得したりできる能力。
だが強力なものほど値段が高くなっており、駆け出し冒険者のティルは到底手を出せない。そのせいでティルはしょぼい能力にしか課金できず、大した強化ができないため10年経っても最低ランクであるGランク冒険者のままだった。
ところがある日100回目の課金によってティルは『VIP待遇』となり、高性能な商品が激安価格で並ぶ『VIP専用ショップ』を利用できるようになる。
長年苦労し他の冒険者に虐げられてきた、ティル・ハステス17歳。VIPとなったことで、彼の冒険者人生は劇的に変化してゆくのだった――。
※毎日投稿させていただくつもりですが、体調不良によりお休みさせていただく場合がございます。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。
名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる