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第十六話 刮目

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「――やああぁっ!」

 乱れに乱れていた。

 お下げ髪の乱舞に呼応するかのように、ミケの小さな体躯が小気味よく跳ねる。

「「「おおおっ……」」」

 響き渡る歓声。ここは果たしてダンジョンなのか、それとも劇場か……そう思ってしまうくらい、俺とミケの周りには人だかりができていた。

 それほどまでに彼女のモンスターを打ち砕く様子が見事だったのだ。

 荒っぽく見えて、正確無比にアンデッドを潰していくその姿は紛れもなく師範代クラスの武闘家。少なくとも地下一階で見られるものじゃない。ミケが習得技術を非公開にしてなかったら、とっくに良いギルドに誘われてそうだ。

「親子でダンジョンかな?」
「いいなあ。あんな強い娘さんを持って……」
「しかも可愛い。うちのバカ息子の嫁にどうかな……」
「……」

 親子のパーティーと思われたか。まあそう見えるよな。聞こえたのか、ミケが不満そうに観衆のほうを見やる。

「親子じゃないです! この人は恋人です!」
「「「えええ!?」」」
「ミケ……」
「へへ……ごめんなさい。行きましょう!」

 どよめきに背を向けて俺たちは二階へと下っていった。ロリコン死ねだの通報しただの、なんか物騒な台詞も飛んできてるし、ルザークの評判がまた悪くなりそうだな……。



「――はあ、はあ……」
「……ふう、ふうぅ……」

 見込みが甘かった、というべきか……。

 地下五階の半ばまで来たところで、俺たちは引き返すことを余儀なくされていた。ボーンバット、スケルトン、ゾンビといった、出現するモンスターの種類は変わらないが、その密度が違うのだ。

 下に行けば行くほど数の暴力が牙を剥いてくる。しかも近距離でモンスターの塊が即湧きすることもあるため、精神的な疲労も計り知れない。

「二人だけじゃさすがに厳しかったな……」
「そう、ですね……」

 はっきり言ってボスどころじゃなかった。仲間集めが先だ。それがわかっただけでも収穫があったと思わなければ……。

「とりあえず戻って仲間を集めるか」
「はい! ……あ、ケイスさん、ちょっと待ってください」

 ミケのやつ、道に落ちてる骨とかもいちいち拾ってポーチに入れてる。

「ミケ……そんなの放っておきなよ。売っても1ウェンにもならないやつだろ?」
「そうですが、塵も積もればなんとやらですよ!」
「そ、そうか……」
「故郷で教わったんです。すべてのものに無駄はないって……。こうした少しの努力の積み重ねでも道は開けてくると思います」
「偉いなー、ミケは……」

 ついついミケの頭を撫でてしまった。あまりにも小さいので小動物のような感覚がある。

「へへ……嬉しいです……って、これじゃ、なんだか私ケイスさんの娘みたいじゃないですかあ」
「違った?」
「もー!」

 談笑しつつ、即湧きのモンスターを処理していく。地上に近付くにつれて大分余裕が出てきたな。

 タブレットでパーティーの現在位置を確認したら、もう地下二階まで上がってきているとわかった。道理でモンスターを見なくなったわけだ。ただ、あまりにも少ないような気もする。

 ――ん? 十字路の中央に差し掛かったんだが、右の通路の突き当りにいたモンスターが自然消滅したような……。そんなことがありうるのか? いや、そんなはずはない。だとすると……。

「……」
「ケイスさん、どうしたんです? むぐっ……」

 通り過ぎたところで立ち止まり、ミケの口を封じた。

「静かに。やつらがいるかもしれない」
「も、もごっ……?」

 壁から顔を出してそっと覗き込むと、やはりモンスターが現れては消えていた。姿は見えないが、やつらがあそこにいるのは間違いない。

 となると、新しい玩具を弄り回してる最中か。止めたいが、今の状態でやつらに勝てるとは到底思えない。でもだからって引き下がるのは……いや、待てよ。勝つ必要はない。妨害すればいいだけだ。

「ミケ、上の階に行って、ここまで人を集めてきてくれ」
「……ええ?」
「訳はあとで話す。急がないといけない」
「は、はい!」

 ミケが転びながらも走っていくところを見届ける。よし……『サンクチュアリ』め、見てろ。絶対にお前たちの好きにはさせないからな……。
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