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第四十三話 たまには休むのも大事

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「――はぁ、はぁ……」

 玉のような汗が額からとめどなく流れ出てきて、頬と顎を伝って足元に零れ落ちる。

 神の塔という異名も持つ超高難度のエドガータワー、しかもその9階層ということもあって、そう簡単に攻略できるわけもなく。

 それでも、無限の大森林を練り歩く旅は、僕が想像していたよりも遥かに上手くいっていた。
 
 僕らのパーティーはお互いの息がぴったりで、楽しくて時間を忘れるほどだったんだ。

 最早、気持ちが通じ合ってるんじゃないかって錯覚してしまうくらいに。僕自身はそんなに変わってないはずなのに。

 これも、僕の周りが大きく変化した影響なんだと思う。

 当時所属していた【超越者たち】パーティと今の【狼の魂】パーティーじゃ面子が全然違うんだけど、メンバーが違うだけでジョブの構成は同じなわけで、ここまで極端に差異が生じるのも珍しい。

 ウルスリはリーダーの戦士ベホムを筆頭に、僕のアドバイスをしっかり聞いてくれるのもあって、小さな変化でも気にしてもらえるから有難かった。

【超越者たち】時代なんて、リーダーのディランは僕の忠告をずっと無視するどころか睨みつけてきたし、古い付き合いの魔術師リシャ、盗賊ネルム、戦士クラフトも生返事を返すのがやっとだった。

 今じゃ、ウルスリが個人主義のパーティーっていうのが本当に信じられない。

【狼の魂】はそこそこ知られていた有名パーティーだけに、もしかしたら個人主義っていう方針が誤解されて、あまり人が近寄らなかったんじゃないかとすら思える。

 だからこそ僕がこのパーティーに入れたんだから、追い出したディランたちとベホムたちの方針には感謝しかないけど……って、なんかベホムの口癖が移ったみたいだ。

「――ふう……。大分歩いてきた感じがするぜ。足が棒になりそうだ……。んで、今の進捗具合はどんな感じなんだ、ピッケル?」

「うん。今のところ、凄く順調だよ、ベホム」

「「「「「おー……!」」」」」

 僕の返答からまもなく、ベホムだけじゃなくその場にいる全員から歓声が上がる。

 とはいえ、みんなここに来て溜め息が増えてきたり、立ち止まることが多くなってきたりと、さすがに疲弊した様子を覗かせるようになっていた。

 それでも、誰一人大きく遅れることもなくここまで来られたので、無理なペースでもなかったみたいだからよかった。

「さて、どうすっか……。次に進むべきか、それとも少し休憩するべきか。俺としちゃ、きちいから休みたいが」

 ベホムが弱り顔で問いかけてくる。

「んー……それなら、多数決でいいんじゃないかな? 僕もちょっと疲れたから休みたいって思ってるけど、みんなどはどう思う?」

「うむ。それならば私も休ませてもらおうか」

「ボクも休みてーですぜ!」

「わたくしも、歩くのに聊か疲れましたので、少々お休みさせていただきますわ」

「そうですね。私も剣を持つ手が痛くて……。そろそろ休憩したいです」

 ジェシカ、ロラン、マリベル、レビテも賛成してるし、全員の意見が一致したからこれで決まりだね。

 回復術を使えばいいんじゃないかって思う人もいるかもしれないけど、どうしたって治せないものもある。

 それは何かって言ったら、根源的な疲労だ。

 気力とかじゃなくて、疲労とはまた別の種類の疲労なんだ。

 以前、師匠がデザートは別腹なのだって言ってたことがあったけど、冗談じゃなくそれと結構似た感覚だ。

 要するに回復術の届かない別腹のような感じで、ある種の疲労が溜まり続けると、そこを回復するには休むしかない状態になるってわけ。

「そんなら、少し休憩するか。体力を温存することも大切だからな」

 そう言って、ベホムは大きな木の下に座り込んだ。他のメンバーも彼に続いて、草の上に座ったり、木陰に背中を預けたりした。

 僕はというと、彼らから少し離れた場所にした。というのも、これくらいの距離ならいつでも集合できるし、ちょっと考え事もしたかったから。

「……」

 休憩中、僕はふと、【超越者たち】パーティーのことを思い出した。あれから、彼らはどうしているだろうか? また妙なことを考えなきゃいいと思うし、そう願ってはいるけど、不測の事態が起きることも頭の中に入れておかなきゃいけない。

 僕の心の中では、ディランたちに対する淡い同情と、ベホムたちへの感謝の気持ちが交錯していた。また【超越者たち】が襲ってきたとき、止めを刺すべきなのか、どうなのか……。

「ピッケルさん、難しい顔しちゃって、疲れてねーですか?」

「あ……」

 ロランの声で僕の思考が中断される。

「あ、うん、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしていただけだから」

「モンスターの心配だったら、ボクが常に索敵してるんで、すぐに知らせやす。というか、ピッケルさんって、恋愛経験とかは……」

「えっ……恋愛経験かぁ。うーん、あるような、ないような。ただ、仲が良かった子はいたよ」

「マジですか⁉」

「うん。故郷の村でね。すぐに引っ越しちゃったから、名前も容姿も忘れちゃったけどね」

「そうなんですね。今は、好きな子とかはいやがりますかね? たとえば、ボクとか、ボクとか……」

「んー……って、どうしてそんなことを聞くのかな、ロラン?」

「あ、いや、ボクはあくまでも代表でして――ハッ……」

「代表……? って、まさか、敵が? あ……」

「「「「……」」」」

 周りをよく見てみると、茂みの中にベホム、ジェシカ、マリベル、レビテの姿があるのがわかった。

 ……なるほど。ロランがみんなの代表で、僕から色んな情報を聞き出す役目を担ってたらしい。

 なんていうか、それだけ僕に興味を持ってくれたってことだろうから、喜ばないとね。

 あと、何故か一部が臨戦態勢に入ってるっぽいから、これならいつモンスターが出ても大丈夫そうだ……。
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