回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第四十一話 鳴りを潜めてる

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「……よし、どうやら上手くいったみたいだ」

「「「「「おぉっ……!」」」」」

 僕がそう発言した直後、傍らにいるベホムたちから歓声が上がる。

 自分たち【狼の魂】パーティーがいるのは、エドガータワーの9階層の入り口前だ。

【超越者たち】パーティーが王様に対して無実を証明するべく、本日この階層に挑戦するのは知っていても、その細かい時間までは僕らにとっては不明だ。

 そこで、先回りして9階の入り口前で時間を進める回復術を使うことで、【超越者たち】がそこへ向かう時間を詳細に確認できた。

 ここに挑戦できるパーティーなんて指で数えるほどしかいないから特定には苦労しなかった。

 ディランたちが入る時間がわかった時点で別の場所に待機して、そのときが来たら少し遅れて僕たちも追いかける手筈だった。さらに保険の回復術も使って、それらが上手くいった格好ってわけ。

 僕たちはお互いに神妙な顔を見合わせたのち、9階層へと足を踏み入れた。

「「「「「あ……」」」」」

 素っ頓狂な声が飛び込んでくる。これは、僕たちを見たときに発したディランたちの声だ。

 驚きと怒り、恐怖、困惑、喜び、色んなものが入り混じった視線をひしひしと感じた。

 まあそれもそうか。治ったはずの盗賊ネルムの右手と、魔術師リシャの左足が再び欠損するっていう衝撃と絶望を味わったんだから。

「ピ、ピッケルゥゥッ、お前、俺たちを騙したなあぁぁっ⁉」

 ディランが凄い形相で大声を上げた。今にも掴みかからんばかりの勢いだけど、ベホムたちが睨みを利かせてくれてるのもあってそこまではしてこない。

「ディラン。騙したって、どういうこと? 意味がわからないんだけど……」

「はぁ? 意味がわからねえって、アホかてめえ。しらばっくれるな! ネルムとリシャの欠損を治したと見せかけただろうが! このざまを見てみろ、この鬼畜の詐欺師めが!」

 マリベルを筆頭に、ディランに文句を言いたそうだけどそうしないのは、僕が言い返さないでほしいと事前に訴えたからだ。

 罵倒に罵倒で返したところで泥仕合にしかならないからね。

「……うん、見たけど、なんで詐欺師?」

「は……? ピッケル、詐欺師のお前には、これが治ってるように見えるってのか⁉ それとも、治ってないことすらもわからない無能だってのか⁉ あぁっ……⁉」

 酷く興奮した様子で捲し立てるディラン。まるで、小さな犬がキャンキャンと威嚇して吠えているみたいだ。

 これに対して、感情的になって吠え返しても犬の喧嘩でしかない。

「でも、治ったと思っていたからこそ、ディランたちはここへ来たはずだよ。ボスを倒さないと戻れないってことを知らないはずもないしね」

「ぐっ……」

 たとえ一時であれ、欠損が治ったことを否定できないのか、ディランも一度振り上げた拳をどう振り下ろせばいいのかわからなくなってる様子。

「治ったはずの欠損がどうして元に戻ったか、知りたいなら教えてやるよ。それは、ディランたちが僕らの信用を失ったからだ」

「な、なんだと……?」

「考えたくなかったけど、ディランたちが僕らを裏切る可能性も考えた。だから欠損を治したときに保険をかけていた。君たちが僕らに危害を加えようとした時点で、僕が施した回復術の効果を取り消せるようにしてあったんだ。そのタイミングも自由に決められるってわけ」

「て、てめえ……なんてことしやがるんだ! それでも人間かよ⁉」

「折角治したのに襲撃してきた君たちに言われたくないよ」

「……ず、随分と言うようになったじゃねえか。以前は大人しかったのによ……」

「謙虚になるようにって、師匠に念を押されていたからね。ああして裏切られちゃったけど、今じゃ【狼の魂】パーティーに拾ってもらえて幸せだから、後悔よりも感謝してるくらいだ。リーダーのベホムの言葉を借りる格好になるけど」

「こ、こいつ……」

 ディランは怒りのあまり、しきりに何か言おうとしてるみたいだけど、言葉が出てこないようだった。王様の御前じゃあるまいし、僕たちを襲撃したこと自体を否定はできないだろうしね。

「もちろん、最後のチャンスも与えてあげたつもりだよ。もし王様の前で過ちを認めて罪を償う気持ちがあったなら、この保険を取り消すことも考えた。でも、そうはならなかった。だから、君たちは終わったんだ。死にたくなければ、そこでじっとしてるほうが賢明だよ。そうすれば、手足はなくても命までは取られないからね」

「「「「「……」」」」」

 僕はどんな声であっても聴くつもりだった。最後のチャンスとは言ったけど、ここで涙ながらに謝罪さえしてくれたら、許すことを考えないわけでもなかった。

 それでも、放心状態になったディランたちからは、誰一人謝罪の声は聞こえてこなかった。

 彼らは、その場で佇むだけの障害物になったかのように、あるいは地中奥深くで蠢く生き物のように、鳴りを潜めていたんだ。

 あくまでも自分たちこそが被害者だと思い込むつもりなのか。それなら仕方ない。

「さ、みんな、行こうか」

「「「「「了解っ……!」」」」」

 僕らは眼前に広がる鬱蒼とした大森林の中を進み始める。

 急遽、彼ら【超越者たち】パーティーではなく、僕たち【狼の魂】パーティーが代わりに9階層を攻略することになったってわけだ。

 王様が折角これから天覧するっていうのに、対象となるパーティーがいなかったら失礼だからね。

 もちろん、ディランたちがすぐに追いかけてきて、俺たちこそが攻略するんだって主張してくれれば思い直したけど、どうやら今のところその様子はないみたいだし、僕たちが遠慮なく攻略するとしよう。
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