回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第四十話 深淵の闇(相手side)

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「へっ。まさに、してやったりだったな……」

 エドガータワー、9階層にある入口の鏡の前。

 ここぞとばかり、会心の笑みを見せる男がいた。

【超越者たち】パーティーのリーダー、切り込み役の剣士ディランである。

「谷底まで真っ逆さまに転落しそうな最大のピンチを、千載一遇のチャンスに変えてみせたわけだ。これが物語の中の話だっていうなら、主人公はどう見ても俺らだろ。ここで、俺らが9階層を攻略できれば、嫌な流れは完全に払拭できるぞ! それどころか、一気に大逆転だ!」

「うんうん。ディラン、中々格好いいこと言うわね! ピッケルたち、最高にざまあみろよね。ホント、死ねばいいのに、あのカスども……。あたしたちを王様の御前に引きずり出して、罪を暴露したかったんだろうけど、それで墓穴を掘ることになるんだから世話ないわねぇ」

「ププッ……おバカなピッケルたち……ざまみろなの……。王様を味方につけたまでは、どうなるかと思ってヒヤヒヤだったけど、この結果……。いくらなんでもマヌケすぎて笑えてくるの……」

「フッ……。これがいわゆる経験の差、というやつですかねえ。頭の弱いピッケルさんらは、見事に我々の術中に嵌ったというわけです。ヤケクソで宿舎を襲撃してくるような事態になれば、さらに望むような展開になったのですが、それはさすがに叶いませんでしたねえ」

「まあ、クラフトの旦那、そこまで望むのは贅沢ってもんだし、しょうがねえっす。連中もそこまでバカじゃなかったってことっすねえ」

 魔術師リシャ、盗賊ネルム、戦士クラフト、回復術師カインの表情は、ディランほどではなかったがいずれも笑顔だった。

 彼ら【超越者たち】パーティーは昨日、自分たちの主張を受け入れてくれたお礼ということで、王族の関係者を宿舎に招待して盛大に持て成していたのだ。

 もちろん、それは表向きであり、本音としては【狼の魂】パーティーが怒りに任せて実力行使してくることを期待していたのである。

 そうはならなかったものの、彼らにとって上々の結果になっていることに変わりはなかった。

 これから王様の天覧するタイミングで難なくボスを攻略できれば、ピッケルたちを襲った事件を有耶無耶にできるだけでなく、自分たちの株も自ずと上がるはずだからだ。

「さあ、お前ら。準備はできてるか? 約束された勝利を掴みに行くぞ!」

「「「「おーっ!」」」」

 ディランたちは意気揚々とした様子で一斉に武器を掲げると、鏡を通じて9階層の内部へと足を踏み入れた。

「「ぎっ……⁉」」

 ディランの言うように、そこでは約束された勝利が待っているはずだった。

 だが、足を踏み入れてから早々に、彼らは思わぬ絶望に迎えられることになった。

「……ネ、ネルム、リシャ……? おい、何がどうなってんだ、こりゃ……」

「……ど、どうなっているのですかね、これは……」

「……わ、わけがわかんねえっすぅ……」

 ディラン、クラフト、カインの三人が驚きのあまり声を上擦らせる。

 それも当然の話で、治してもらったはずのネルムの右手とリシャの左足が、再び欠損していたのだ。

「……わ、私の、右腕、消えちゃったの……。どこ? どこにいるの……?」

「……そ、そんな……ひぐっ……あ、あたしの大事な左足がああぁっ……!」

 当然、パーティーの空気は最悪なものとなった。

 盗賊ネルムの索敵、魔術師リシャの足が機能しなくなったからだが、それだけではない。

 9階層のボスを倒さない限り、ここからは絶対に出られないという事実が重くのしかかったためである。

「あ、あいつに、してやられたんだ。ピッケルの野郎、治したように見せかけて、卑劣にも細工してやがった……!」

 ディランが片膝を落として拳で地面を叩くも、メンバーの一人、戦士クラフトはそれを冷淡な目で見下ろしていた。

「これで、ボスに挑戦するなど到底できなくなってしまった上、帰還することも叶わなくなりましたね……。この責任は、そこにいるあなたにあります。一体どうしてくれるんですかねええぇっ……⁉」

「ぐっ……⁉」

 クラフトが激高した様子で、ディランの胸倉を掴む。

「ク、クラフト……お前、俺がリーダーだってわかって、こんなことしてるんだろうなぁあ……?」

「ええ、知っていますよ。あなたが最低のリーダーだということをね……」

「な、何……最低のリーダーだと? こ、この野郎……もういっぺん言ってみろおおぉっ!」

「ええ、何度も言わせてもらいますよ! ディラン、あなたはリーダー失格です!」

「おうおう、そんならクラフト。てめえはタンク失格だ。前からずっと思ってたが、ここまで痛みに弱い軟弱な戦士は見たことねえよ。この痛がり屋の弱虫めが!」

「な、な、な、なんという無礼なあぁぁぁっ……!」

「もうやめてよ、ディラン、クラフト! もう嫌っ! こんなパーティー、沢山! 今すぐにでも出て行ってやりたいくらいよ!」

「……私も、そう思うの……ぐすっ。もう、こんなの、懲り懲りなの……」

「……おいらも、もう勘弁してほしいっすねえ。マジ、今すぐにでもウルスリに戻りてえっす……。てか、まだ死にたくねえのに、どうするつもりっすか⁉ これじゃ前にも後にも進めねえし、どうしようもねえっすよ!」

 憤怒、失望、落胆、悲哀、嫉妬、絶望、諦念……様々な負の感情が入り乱れる混沌とした状況。

「「「「「あ……」」」」」

 そんな深淵の闇に包まれた状況下、図ったかのように鏡が光り輝き、中から一組のパーティーが現れるのであった……。
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