回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

文字の大きさ
上 下
39 / 47

第三十九話 一つの回答を出そう

しおりを挟む

 王城の謁見の間を跡にした僕たち【狼の魂】パーティーは、冒険者ギルドの大広間へと戻ってきた。

 今後どうするべきなのか、作戦会議とまではいかないけど、ここでみんなと話し合いをすることになったんだ。

 王様は僕に友と思って接してほしいと仰ったように、親しみやすい人柄である一方、良くも悪くも好奇心旺盛な方だ。

 そんな性格もあってか、陛下がディランたちの言い分を認めたことより、僕らを妨害した罪に問われた【超越者たち】パーティーの処罰に関しては一旦保留となった。

 つまり、ディランたちが無実を証明するためにこのままエドガータワーの9階層を攻略することを認めたわけで、僕たちにはどうしようもなかった。

 そういう事情もあり、彼らが見せた苦しすぎる言い訳に対してベホムたちも辟易している様子だった。

「まったく、連中は太々しいやつらばかりだ。よくもあんな見え透いた演技ができるもんだな。それと、王様も王様だ。ピッケルを友人だって思うんなら、連中のあんなバカげた主張を認める必要なんてこれっぽちもねえだろうに」

「……うむ。それに関しては、確かにベホムの言う通りだ。彼らは、まるで自分らが被害者とでも言いたげだったな。少しだけ可愛いと思ったのは内緒だが」

「ジェ、ジェシカさん、そりゃあいくらなんでも特殊性癖すぎますぜ!」

「本当に、ロランの言う通りですわ。あんな人たちに可愛げなんて微塵もありはしません。ねえ、レビテもそう思うでしょう?」

「ですねぇ。私は、ジェシカさんがちょっと怖いです……」

「い、いや、君たち。何か誤解しているようだが、それは王様に対してだから、許せ……」

「……」

 なるほど。ジェシカが可愛いと思ったのは王様に対してだったのか。でもあの人に抱き着いてたら、それこそとんでもないことになってたような。

 ジェシカの発言で流れが変わったとはいえ、悪口大会が延々と続くことにならなくてよかった。

 王様についてはともかく、ディランたちに対して不満を持つのは当たり前だし、悪く言う気持ちもわかるけど、悪口を言い続けても何も変わらないからね。

「ところで、ピッケル様。私、危惧していることがあるのですけれど」

「レビテ、危惧していることって?」

「ピッケル様が既に【超越者たち】パーティーに在籍していない以上、彼らがスムーズに9階層を攻略できるとは思えません。それでも、彼らにはそれまでの経験もあり、メンバーの欠損も完治しています。そうなると本当に攻略してしまって、私たちへの妨害行為を有耶無耶にされてしまう恐れもあるのでは……」

「……なるほど。確かにね」

 実際、【超越者たち】は僕と一緒に9階層を攻略したことがあるから、そこがどんな場所なのかは理解しているはず。

 しかも、盗賊ネルムと魔術師リシャの欠損も治って、僕の代わりに新しい回復術師カインを迎え入れてるので、まさに準備万端といえる。

「レビテ、それだけは絶対に許せませんわ。下手をすれば、わたくしは今頃あの世にいたかもしれませんのに。こうなったら……宿舎に乗り込み、火炎瓶を100本――」

「「「「「マリベル!」」」」」

「ちょっ……み、皆様、どうか止めないでくださいまし! わたくしは、一人でも無念を晴らすべく行動してみせますわ!」

 僕らから囲まれて制止されても、なおも進もうとするマリベル。

「いや、マリベル。それだけはやめるんだ。そんな野蛮なことをしてしまったら、【超越者たち】と同類になってしまう」

「ど、同類、ですこと……?」

 僕の忠告が効いたらしく、マリベルは我に返った様子になった。

「うん。ディランたちのやり方に合わせてしまったら、それこそ彼らの思う壺になる。彼らは悪巧みに長けてるし得意分野なんだから、おそらくそれを利用されてしまう」

「な、なるほど。ピッケル様が仰る意味が少しだけですけれど、理解できたような気がしますわ……」

 貴族の世界も当然ドロドロしているはずだから、マリベルだって悪意は悪意によって利用されることもわかっているはず。

「とはいえ……あまりにも悔しすぎますわ! このまま何もせずに、彼らが何食わぬ顔で9階層を攻略するのを指を咥えて見守るのは、歯痒くて歯痒くて、頭が変になりそうですの……!」

 マリベルの発言には、感化されたのかベホムたちも神妙な顔で深く頷いていた。

 そうした【狼の魂】パーティーの不安の声に対し、僕は一つの回答を出す必要があると感じた。

 ただ、これの詳細については結構非道なのであまり積極的に言及したくないんだけどね。

「大丈夫。それについては心配はいらないから。ほら、前にも言ったでしょ。保険をかけてるって」

「「「「「あっ……」」」」」

 みんなも思い出したらしく、マリベルを筆頭にハッとした顔になった。

「彼らの関与については疑う余地がないし、絶対にやり返すから大丈夫。今はそのタイミングを待ってる状態だから」

「「「「「おぉっ……!」」」」」

 そう。僕がかけた保険の回復術については、それが適用されるタイミングも自由に決められるんだ。

 当然、それが【超越者たち】パーティーに最も効き目がある最適なタイミングで仕掛けようと思う。

 っと、そうだ。それだけじゃ不安かもしれないと思ったので保険の効果についても大雑把に話しておくか。

「「「「「……」」」」」

 すると、みんな青い顔をして黙り込んでいた。ちょっと前までは怒り狂っていたマリベルでさえも。

 さあ、後はディランたちがどう動くかを調べるのみだ。

 分析の回復術、すなわち一部の場所に対して時間を進める回復術を行使すれば、今後【超越者たち】がどう動くのかを調べることができる。彼らの足跡を逐一追いかけることが可能になるんだ。

 そして、が来れば僕らもいよいよ動き出す頃合いだ……。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...