上 下
33 / 47

第三十三話 レクチャーしておこう

しおりを挟む

 僕たちはようやく、エドガータワーの8階層へと足を踏み入れる。

 そこは、縦横に奥行きのある広々とした洞窟のような空間だった。

 塔の中に洞窟があるっていうのは不自然に思えるかもしれないけど、この塔自体が異次元の空間内なので当然普通の洞窟じゃないんだ。

 っと、僕を除けばみんなここへ来るのは初めてってことで、軽くレクチャーしておかないと。

「ここのトラップは見つけにくくて、急に地面がせり上がったり斜面になったり、出入り口が塞がれたりするけど、何かあってもリスタートの回復術でカバーできるから、落ち着いて周りを見ながら対処すれば問題ないよ」

「「「「「了解っ!」」」」」

 一度この階層をクリアしているだけに、僕の言葉にはみんなが頷いてくれた。

 難易度が極めて高いダンジョンということもあって、リスタートの回復術を使っても絶対に安全というわけじゃない。

 失敗すればするほど僕のエネルギーの消費量も増え、その結果エネルギーが足りなくなってミスをカバーできなくなるっていう恐れもあるので、失敗をしないのに越したことはない。

「あともう一つ。出てくるモンスターは岩で作られた岩人間なんだけど、とても精巧で人間そっくりだから、索敵を使ってもすぐ近くにいないと判別はつかないと思う」

「え、えぇっ……⁉ それじゃピッケルさん、岩人間と間違って他のパーティーをやっちまう、なんてこともありそうだし、すげー躊躇しちまいそうですぜ……」

 盗賊ロランが心配そうに言う。索敵係ということもあって、彼女の懸念もわかる。

 岩人間はモンスターといっても、おびただしい魔力によって精妙に作られており、挙動さえも人間そっくりなんだ。

 魔法や剣で攻撃してきたり、弓や回復術を使ってきたりと種類も豊富だ。

 その上、人間かモンスターかどうかの区別は、索敵をもってしてもかなり近づかないと判断し辛い。

「大丈夫だよ、ロラン。思い切ってやろう。もし人間と間違えて皆殺しにしちゃったとしても、僕が即座に回復術で蘇らせるから」

「「「「「……」」」」」

 あれ、みんな唖然としてる。僕なんか変なこと言っちゃったかな? まあいいや。

 モンスターと間違えて人を殺しちゃった場合、すぐに生き返らせれば消費量は大幅に省けるものの、エネルギーの消耗はそれなりにある。ただ、その場合でも気力を回復できる錬金術師マリベルの存在もあるからね。

「――うおっ……⁉」

 出発してからまもなく、ベホムの口から驚嘆の声が上がるとともに、一部の地面が大きくせり上がった。

 天井からツララのように垂れ下がった岩の一部に突き刺さりそうになるも、リスタートの回復術が効いたのか即座に回避してくれた。

「……し、心臓に悪かったぜ、今のはよ……。お、おいロラン、お前な、罠をちゃんと探知しろって!」

「し、してるけど、中々上手くいかねえです……」

「まあしょうがないよ。エドガータワーのトラップは特に見つけにくいっていわれてるから、気づいたときにはこうなってることが多い」

「へえ、厄介すぎやすね……あ、そうだ! ピッケルさん、ボクの指にも、時間を進める回復術ってやつをやってくれねえですか?」

「え……いや、それはやらないほうがいいかも」

「え、それはどうしてなんですか? 教えやがれください!」

「索敵や探知は、単に熟練すればいいってものじゃないから。その場の空気を敏感に感じ取れるようになるには、慣れよりも緊張感のほうが必要なんだよ」

「な、なるほどです。なんとなくではありますが、わかったような気がしやがります……。しかし、わからねえのは、なんでピッケルさんが盗賊についてそんなに詳しいのかってことですが、是非とも教えてほしいですぜ……」

「そりゃ、普段から周りをよく観察してたからね。回復術師は、小さな異変でも見逃さないように気を遣う職業だから」

「な、なるほどです。安心しすぎてもダメだって、よくわかりましたぜっ」

「うん、ロラン。その意気だよ」

 服装とかにはあまり興味ないけど、周りにいる人の挙動とか顔色とかには注意してたから、盗賊が普段どんな動き方をしてるのかも頭には入ってるんだ。

「――トラップですぜ! ボクが解除しやす!」

 そのアドバイス以降、ロランの動きは抜群によくなり、次々と罠を探知して解除することに成功した。

 一つの失敗を次に生かして、緊張を持続させるのが盗賊の成功の秘訣であって、あえて彼女にはリスタートの回復術を使わなかった。

「ふむ。ならば、ピッケル。私にもご指導のほど、賜りたいものだが」

 魔術師ジェシカがそんなことを言い出した。

「んー……それなら、魔法を捨てよう」

「ふむふむ……ってえ……⁉ ま、魔法を捨てるって、一体……」

「決して冗談じゃなくて、そのつもりでやったほうがいいってこと。力みっていうのは、体だけじゃなく心にも表れる。それは焦りだ。それのせいで、ジェシカはモンスターが大量に出現したときに、焦りで詠唱が遅れることがある。だから、魔法を放つんじゃなく、投げ捨てる気持ちでやったほうがいいんだ」

「な、なるほど……ううむ、なんというか、腑に落ちる話だ……」

 彼女も納得してくれたみたいでよかった。

 しっかりと索敵してくれるロランがいるおかげで、こうして最高峰のダンジョンにいながらも会話だってできるようになったしね。

「ピッケル様、わたくしにも是非、錬金術のコツというものを教えてくださいまし!」

「ピッケル様、私にも剣の御指導、お願いします!」

「おいおい、リーダーの俺が先だろう⁉」

「ちょっ……⁉」

 マリベルとレビテ、ベホムまで迫ってきて収拾がつかなくなってきた……。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...