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第三十一話 保険をかけてる
しおりを挟むいよいよ本日、僕たち【狼の魂】パーティーは、最高峰のダンジョンのエドガータワーへ出発することになった。
しかも、自分たちがダンジョンで戦う模様を王様が天覧されるみたいだから楽しみだ。
「それじゃ、行ってきます、師匠。エルシアと一緒にお留守番を頼みますよ」
「おお、弟子とその仲間たちよ、行ってくるがよいぞ! エルシアはわしが面倒見るのでな!」
「行ってらっしゃい、ピッケル。ミシェルちゃんはあたいが面倒見るから大丈夫!」
「ぬ……⁉ わしの面倒を見るだと? しかも、ちゃん付けはやめぬか! エルシアよ、わしはなあ、こう見えて25歳なのだから、もう少し敬意を払うべきであろう!」
「ふんだ。いつもお昼寝ばっかしてるくせに」
「う……そ、それはだな、ある種のイメージトレーニングや瞑想というやつでなあ……」
「はいはい、今日もおねんねしようね、ミシェルちゃん!」
「ぬぬ……」
「……」
師匠、すっかりエルシアに翻弄されちゃってる。
そういや、エルフと毛虫が特に苦手だって言ってたっけ。まあ、嫌い嫌いも好きのうちっていうし……。
それに、師匠は好き勝手に行動してることが多かったんだから、しばらくは我慢してもらおう。ずっと寂しそうにしてたエルシアも楽しそうだし。
そういうわけで、屋敷の留守番を二人に任せて、僕たちは冒険者ギルドへと向かった。
なんでエドガータワーへ直接向かわないのかっていうと、事前にギルドで塔に入る前に保険や入場証明等の手続きをする必要があるんだ。
それをやることで、メンバーが重傷を負ったときの備えができるし、パーティーの安否やダンジョンの進行具合をギルド側も確認できるからだ。
ん、なんかギルドの様子がおかしい。噂話とかそういう次元じゃない。
文字通り騒乱状態だったんだ。
まさか、ギルド内で喧嘩でも発生してるんだろうか? 僕らは困惑した顔を見合わせたのち、何が起こっているのか確認することに。
「「「「「なっ……⁉」」」」」
人混みと熱気の中を歩いていくと、とんでもない光景が広がっていた。
なんと、ギルドの中央では【超越者たち】パーティーの面々が並ぶようにしてひれ伏していたんだ。
それを野次馬たちが少し離れたところから見物しているという構図だった。
彼らが有名人だからこそ、こうしてひれ伏しているのが謎行動過ぎて騒ぎになってるのかもしれない。
周囲からは、【超越者たち】はとうとう気が狂ったのか、あいつらに何が起きたんだ等、驚きの声が上がっている。
僕も知りたい。ディランたちは一体、どういうつもりなんだ……?
「ピッケル……久々だな……」
「……え、あ、うん。ディラン、久しぶりだね」
ディランが頭を上げたかと思うと、真っ先に僕に話しかけてきた。
ってことは、これらの謎行動は僕に対するアピールだったのか。
「で、僕になんの用事なのかな?」
「……」
僕の言葉に対し、ディランが返答せずに並々ならぬ眼光で近づいてくる。まさか、謎行動をしていると油断させて、僕たちを襲うつもりだったのか……?
「っと、ピッケル、気をつけてくれ」
「あ……」
リーダーのベホムを筆頭に、仲間たちが次々と庇うように前に立ったので、僕は正直感動していた。普段は個人主義のパーティーとは思えないくらい、まさに一致団結って感じだ。
「この通りだ、ピッケル……!」
「えっ……」
何を思ったのか、ディランがその場にひざまずいた。これには、周りもびっくりしたのかみんな黙り込んでしまった。
「ピッケル……頼む……」
「頼むって、何を……?」
「今更、こっちのパーティーに戻ってこいとは言わねえ。お前のことが役立たずだと思ったから捨てたんだしな……。だが、お前の回復術を過小評価していたことは事実。だから、かつて同僚だったよしみでお願いがある。仲間の欠損を治してくれないか?」
「……」
なるほど。そういうことか。
確かに、魔術師リシャが足を欠損したのはわかってたし、よく見ればネルムの右手も義手なのがわかる。
となると、大方ネルムの索敵が発動せずに、地下水路ダンジョンでキングアリゲーターに奇襲を受け、リシャが足を噛み千切られたってわけか。
……僕は考えた末に、治してやることにした。
師匠がかつて言ってた。相手が誰であろうと、本当に困っているときには一度は手を差し伸べてやるべきだって。
「ピッケル様のお考えは尊重しますけれど、一言だけ言わせてください。いくらなんでもいい人すぎますわ!」
マリベルの怒りはごもっともだ。
「確かにそうかもしれない。だけど、悪態をついてその場で勝った気でいても、後でいいことなんか一つもないんだよ」
そういうわけで、僕はネルムとリシャの欠損に対し、時間を戻す回復術を使って治療してみせた。
すると、見る見る欠損が元の状態に戻っていく。ふう、疲れた……。
「な、治った、のか……?」
「わ、私の右腕、治った、の……」
「あ、あたしの左足もよ……」
「……マ、マジっすか! すげーっす!」
「フッ……な、中々やりますね……」
「「「「「おおぉっ……!」」」」」
周りからどよめきが上がる。
「あ、ありがてえ。ピッケル、少ないが100ギルスがお礼だ!」
「いや、ディラン。お金はいらない」
「な、何?」
「君たちには満場一致で追い出されたわけだからね。お金を受け取らないのは僕の意地だ。そして、今度何かあったらもう助けてやらないから、そのつもりで」
「「「「「う……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉっ!」」」」」
周りから大きな歓声と拍手が上がる。野次馬たちも感動したのならよかった。
「――あの……ピッケル様、私、引っ掛かりがあります」
ギルドで手続きを終えた僕たちが、その足でエドガータワーへ向かっていると、レビテが気になることを言ってきた。
「レビテ、引っ掛かりって?」
「あのディランという男の顔。あれは、何か含みがある顔でした。気のせいかもしれませんけれど」
彼女は剣士なだけあって勘も鋭そうだし、あながち間違ってはいないのかもしれない。
「大丈夫。もし、そういうことがまたあったとしても。一つ保険をかけているから」
「保険、ですか?」
「うん。もし、ディランたちがまた僕を裏切ったときは、彼ら自身に地獄が待っている。彼らの命運は僕が握ってるようなものってわけ」
「「「「「……」」」」」
僕の言葉がよほど恐ろしかったのか、ベホムたちは揃って青ざめた顔をしていた。みんな大袈裟だなあ。
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