回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

文字の大きさ
上 下
30 / 47

第三十話 不協和音の末に(相手side)

しおりを挟む
「……私の、腕……右腕……どこ……」

「ネルム、さっきから腕腕うるさいわね。あんたの無能な右腕なんかより、あたしの左足のほうが大事よ!」

「……私の、右腕のほうが重要なの……」

「ひぐっ……誰かぁ、早く、誰かあたしの左足を、なんとかしなさいよおおぉっ……!」

【超越者たち】パーティーの宿舎では、右手のない盗賊ネルムの嘆く声と、左足のない魔術師リシャの悲痛な声により、これでもかと陰鬱した空気が蔓延っていた。

 また、彼らは近日中に最高峰のダンジョン、エドガータワーへ赴く予定であり、王様が天覧されるということで、今更自分たちの都合でスケジュールを変更するわけにもいかなかったのである。

「ねえ、ディラン、これからどうするっていうの? あたしに義足をつけてでもエドガータワーへ行けっていうわけ⁉ なら、お望み通り連れていきなさいよ! ほら、早く! 魔法の詠唱中に転んで不発して全滅してもいいっていうなら!」

「うるせーな、リシャ。なんでもかんでも人のせいにするなよ。そもそも、てめえの凡ミスであんなことになったんだろうが!」

「それは違うわよ! ディラン……元はと言えば、あんたが適当にその場凌ぎでネルムに義手なんか渡して、左手のほうで訓練させなかったからこうなったのよ!」

「て、てめえ……アホか! 左手で訓練って……それじゃ時間が足りねえって普通に考えてわからねえのか⁉ 大体、こんなことになったのも、そっちのくだらない友情ごっこに付き合った結果なんだからな! 新しい盗賊を迎え入れてりゃこうはならなかったんだ!」

「あ、それ言っちゃう⁉ 見る目の欠片もない節穴のあんたが、欠損を回復できるピッケルをわざわざ追放して、カインっていう間抜けな回復術師を迎え入れておいて! それが全ての元凶でしょ⁉」

「はあぁ……⁉ リシャ、何度も言うがな、やつを追い出すことにはてめーも全面的に同意してただろうが! 俺だけのせいにすんなよ、この卑怯者がっ!」

「二人とも、もうその辺でいい加減やめにしませんかね?」

 そこで割り込んできたのは、苛立った表情の戦士クラフトであった。

「今、カインさんがギルドに潜入して情報を収集しに行ってくれています。ピッケルさんの行方を捜してくれているのですから、それまで少しは大人しくなさってください。どうせ、頭の弱いピッケルさんのことですから、その辺をブラブラしてるでしょうしすぐ戻ってきてくれますよ」

「「……」」

 戦士クラフトの言葉で溜飲を下げたのか、ディランとリシャの喧嘩は一旦収まるも、小声でブツブツと不満そうに何か言い合っていた。

「――ただいまっす! みなさん、大変なことがわかったっすよ!」

「おお、カインさん、随分と早かったですねえ。で、どんなことがわかったのでしょう?」

「それが、ここの前任者のピッケルっていうのが、おいらがかつて所属していた【狼の魂】に入ったみてえっす」

「は……ウルスリだと? そいつらは結構知られてるパーティーじゃないか。どういうことだ……?」

 そこで立ち上がったのが、信じられないといった顔のディランだった。

「ピッケルの悪評はクレイスを通じて嫌っていうほど流したっていうのに、なんであいつを迎え入れたんだ……?」

「それに関しちゃ、そこに所属してたおいらがよく知ってるっす。あのパーティーは昔から個人主義でやんして、最新の情報には疎い上に、スカウトもギルドじゃやらねえ方針っす……」

「となると、やつらは人目につかないような場所でピッケルをスカウトしたってわけか……クソが。またここに呼び戻して、あわよくば奴隷にしてやる計画だったってのに……ウルスリのせいで台無しじゃねえか!」

 怒号とともにテーブルを蹴り上げるディラン。

「しかも、もう一つ悲報っす。ピッケルはウルスリでも相当な影響力を誇ってるみてえで、公爵令嬢だの聖女だの、高貴な連中を味方につけて、王様も近いうちにその様子を天覧される予定らしいっす……」

「ば、バカな……やつらが王の天覧の対象にされた、だと……」

 カインが発した言葉が止めとなり、ディランは呆然自失とした様子でその場に両膝を落とす。

 それは彼だけでなく、他のメンバーも同様であり、波紋のように衝撃が広がっていた。

「嘘でしょ……。なんであいつなんかがそこまで認められてるのよ。そりゃ、回復術師としてはディランに見る目がなかっただけでマシなほうだったと思うけど、ありえな……い、イダダッ! だ、誰か、幻肢痛を治してよおぉぉ……!」

「フッ……ピッケルさんも闇落ちして、認められるために賄賂でもばら撒いたのでしょうかね?」

「クラフト、やつは身ぐるみ剥がしてやったから、金なんてねえよ!」

「あ……ディラン、そういえばそうでしたね。うぬぬ……」

「もう……こんな現実……嫌なの……右腕、返して……」

「……はあ。おいらもこんなパーティー、早く抜けてウルスリに帰りてえ。あ、今のはただの独り言っす……」

【超越者たち】パーティーはこれでもかと打ちひしがれていたが、ほどなくしてハッとした顔でディランが立ち上がる。

「こ、こうなったら……だ……」

「さ、最後の手段って、何をする気なのよ、ディラン……?」

「リシャ、ネルム、クラフト、カイン。みんな……騙されたと思って俺に耳を貸してくれ」

「「「「……」」」」

 覚悟を決めた表情のディランの傍に寄る四人のメンバーたち。まもなく彼らの目には、うっすらと希望の光が宿ることになるのであった……。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...