回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第二十一話 飛躍しすぎ

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「「「……ピッケル……」」」

「う……?」

 僕の名前を呼ばれた気がして、意識が少しずつ覚醒していくのがわかった。

 顔を覗き込んでる人たちがいるみたいだけど、誰なのかわからない。しばらくして、徐々に視界がクリアになっていく。

 心配そうに僕の顔を覗き込んでいたのは、エルシア、マリベル、それに見知らぬ少女だった。青白い顔をした、気品の漂う少女だ。誰だろう?

「ぐすっ……ピッケル、よかった……。もう起きないんじゃないかって思った……」

 エルシアが涙目で抱き着いてくる。そこまで心配してたってことは、結構眠ってたのかな?

「ピッケル様、わたくしもどうなるかと思いましたわ……」

 マリベルの声も若干湿っていた。気がとても強い子に見えるけど、意外と脆いところもあるみたいだ。

「私のために、本当にご苦労をおかけいたしました。ピッケル様……」

「あ……」

 意識が朦朧としてたせいで、見覚えのない子がいるくらいに思ってたけど、この子はまさか……。

「君は、侯爵令嬢のレビテ……?」

「はい、その通りです……」

 やっぱりそうか。ということは、例の回復術が成功したみたいだね。よかった……。

「あの後、私は気づいたらここにいて……でも、ピッケル様はずっと目覚めなかったんです」

「うん。ピッケルはね、丸一日寝てたんだよ」

「ま、丸一日……⁉」

 エルシアの言葉で僕は思わず上体を起こした。まさかそんなに寝てたとは……。どうやら、レビテの幽霊を回復したことであまりにもエネルギーを消耗してしまったらしい。それでこうしてずっと眠っていたってわけだ。

 ただ、自然に目覚めたなら頭痛や腰痛、記憶障害等の後遺症も多少は出るはずなのに、それらの症状がまったくないのはどうしてなんだろう。

「それで、マリベルのところへ助けを呼びにいきました」

「マリベルのところへ?」

「はい、彼女は錬金術師ですから、特製のポーションでピッケル様を回復してもらえると思って……」

「へえ。マリベルって錬金術師だったのか……」

「ですわよ? レビテがわたくしのもとへ参りましたときは、本当に驚きましたわ。けれど、話してみてすぐに本物だとわかって、ここへ馳せ参じましたの。幽霊さえも回復するなんて、本当に、ピッケル様は神ですわ……」

「いやいや、マリベル。そうはいっても普通の幽霊だったら無理だったよ。レビテだからこそ成功したんだ。多分、こういう術はあんまり使うと寿命を縮めそうだから、多用は禁物だけどね……」

「もう、絶対に使ってはいけませんわ!」

「ま、まあそうそう使う機会もないだろうし……」

 単純に考えて、周りを死なせないように頑張るほうがエネルギーの消費は少なく済むはずだしね。

「ピッケル様が、お体を犠牲にしてでも私を生き返らせていただけたので、これからは一生懸命、あなたのために働きたいと思いますっ」

「うん。レビテ、その心意気だよ。でも、病気がちだったんなら、しばらくは静養しないと」

「それなら大丈夫ですよ。マリベルが滋養強壮用の強化ポーションを持ってきてくれましたから」

「へえ、強化ポーションか。そんなものまで作れるなんて凄いじゃないか、マリベル」

「うふふ、照れますわ。わたくしなど、ピッケル様の足元にも及びませんが、レビテが亡くなってからというもの、そうした特製ポーションを作ろうと研究しておりましたの。それがまさか、こういう形で役立つとは思いもしませんでしたわ……」

「ある意味運命かもしれないね」

「それはありますわね! ピッケル様とわたくしとの出会いも、運命かもしれませんわよ?」

「うっ……」

 マリベルの眼から殺気にも似た凄い圧を感じる……。

「むぅー! マリベル、何が運命の出会いよ⁉ ピッケルを助けてくれたことには感謝してるけど、それとこれとは別なんだから!」

「フンッ、エルシアったら、生意気なお子様ですこと」

「ふふっ……。マリベル、それにエルシア、本当にあなたたちには助けられました。でも、ピッケル様は譲りませんよ?」

「上等ですわよ! ピッケル様は絶対に譲りません!」

「あたいも!」

「……」

 かつてお化け屋敷なんて呼ばれたこの家も、ベホムの宿舎同様なんだか賑やかになってきたなあ。

 ……そうだ。マリベルとレビテを戦力として紹介すれば、【狼の魂】パーティーはもっと強くなるかもしれない。

 その話を二人にすると、彼女たちも乗り気で是非入団テストを受けてみたいとのこと。それなら善は急げってことで、僕らは試験のために少しだけ体を動かしたのちウルスリの宿舎へと向かう。

 すると、ちょうどよくベホムが薪割をしているところだった。

「……おう、ピッケルじゃねえか。昨日はこっちへ全然来なかったが、どうした……って、その二人は?」

「初めましてですわ。わたくし、公爵令嬢のマリベル・アスターナと申しますの。これから錬金術師としてそちらのパーティーにお邪魔することにいたしますので、よろしくお願いしますわ」

「どうも、初めまして。私は侯爵令嬢のレビテ・ドルーデンと申します。剣士をやっております。よろしくお願いいたします……」

「……こりゃどうも。俺は【狼の魂】、通称ウルスリのリーダーの戦士ベホムだ……って、どっちもこうしゃくうぅ……⁉」

 ベホムは二人を見比べて目を丸くしていた。身分がやたらと高い上に、どっちもこうしゃく呼びだから、そういう意味でも混乱するかも。

 もちろん、すぐに入るっていうわけにもいかなくて、まずは簡単な入団テストを実施することに。

 まずは錬金術師のテストから。

 錬金術師はやはり基本的にはポーションが重要ってことで、体力や気力の回復の度合いを測る必要が出てくる。

 ポーションは結構な経費がかかるので、使いまくるっていうわけにもいかない。

「問題は被検体をどうするかだな。俺はまだピンピンしてるし……」

「それなら、わたくしの作った毒薬を飲んでくだされば、一発ですわ!」

「い、いやいや! それはさすがに遠慮しとくぜ……っと、手頃な被検体がちょうどよく帰ってきたな」

 そこで帰ってきたのは、ジェシカとロランの二人だった。今まで狩りでもしてたのか、かなり疲れてる感じの足取りだ。

「はー、疲れた。ただいまっす……」

「ふう。ただいまだ……」

「おかえり、ロラン、ジェシカ」

「あれ。ピッケルさん、ようやくボクに会いにきてくれたと思ったら、その二人はなんでやんすか……⁉ まさか、奥さんと愛人⁉」

「ふむぅ……? おやおや、なんだか見慣れない二人がいるな。ま、まさか、ピッケルの隠し子たちか……」

「いやいや……ロランもジェシカも飛躍しすぎ!」

 ベホムがすぐ事情を説明してくれたので、今回は誤解されずに済んだ。そういうわけでマリベルのポーションの効果を試すべく、被検体になってもらう。

「ゴクゴクッ……こ、こりゃいいっす! 体力全快ですぜ……!」

「ン、ングッ……う、うむ。中々良いな……。気力が漲ってきたぞ……!」

「おぉ、こりゃ効果覿面みたいだな。100点、合格だ!」

「オホホッ! 当然ですわ」

「さー、次はそっちのお嬢さんの番だが、剣士なんだろ? なんかやたらと青白いが、大丈夫か……?」

「はい。久々ですけど、なんとかやってみます」

 木剣を握ったベホムとレビテが一定の距離を置いて対峙する。

「よーし。そんなら、遠慮なく行かせてもらうぜえぇ……!」

 ベホムが果敢に突っ込んでいく。それまで薪割で動いていただけに、俊敏な動きだ。

「はぁっ……!」

「え……?」

 勝負は一瞬で決した。すれ違いざまに見せたレビテの驚異的速度の斬撃によって、ベホムが脇腹を押さえながらうずくまっていたんだ。

「だ、大丈夫ですか、ベホム様……⁉」

「ぐ……も、問題ない。ひゃ、100点満点の合格だ……!」

「嬉しいです!」

 ベホムがかなり苦しそうにしてるってことで、僕は彼の脇腹に時間を戻す回復術を使用する。

 それにしても、レビテの剣士としての鋭い嗅覚には驚かされる。ベホムはかつては剣士をやっていたわけで、それでも古傷が治って本来の輝きを取り戻してるっていうのに。

 実はここへ来る前、僕はレビテと体を慣らす意味でも何度か勝負していずれも僕が勝ったんだけど、遅延の回復術をもってしてもヒヤッとさせられただけに、レビテはさすが天才剣士と言われていただけはあると感じた。
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