20 / 47
第二十話 回復術師の集い(相手side)
しおりを挟む「「「「「……」」」」」
【超越者たち】パーティーの宿舎では、これでもかと沈痛なムードが漂っていた。
それもそのはずで、古代地下迷宮で狩りをしている最中、メンバーの一人である盗賊ネルムの右腕が切断される事態になってしまったからだ。
しかも、前任者を追い出してまで迎え入れた新人の回復術師が、その腕を治すこともできなかったため、彼らはその現実を容易には受け止められずにいた。
「ありえねえ。ありえねえよ、クソがよ……」
リーダーのディランが、放心状態で何度も同じ言葉をつぶやく。
「ありえねえありえねえって、さっきからディラン、そればっかりじゃない。聞いてるこっちまでどうにかなりそうよ。いい加減にしてよね!」
「なんだよ、リシャ。お前、ネルムがこんなことになったっていうのに、なんとも感じてねえのか? こんな理不尽な現実を簡単に認められるってのかよ……⁉」
「その気持ちはわかるし、あたしだって目を背けたいけど、これは紛れもない現実でしょ⁉ そこはちゃんと目を向けないと!」
「……ええ。確かに、自分もリシャの言う通りかと思います。ネルムは右腕を不運にも失い、それを回復できない役立たずが来てしまったということです。要するに、あのピッケル以下だったと……」
「いやいや、クラフト。ちょいと待つっすよ! 責任転嫁も甚だしいっす。前任者を追い出してまで、その役立たずをわざわざ迎え入れたのはどこの誰なんっすかねえ……」
カインが苦笑いしながら抗議するも、既に発言権を失っているのかメンバーの反応はとても薄いものだった。
「……で、これからどうすんだ? 新しい盗賊と回復術師を募るにしても、エドガータワーへ潜る日はもう間近に迫ってる。俺たちは最も脚光を浴びるパーティーとして、王様が謁見の間から魔法の鏡で天覧される予定だから、選んでる時間がねえよ……」
「は……? ちょっと待ってよディラン。新しい盗賊を募るって……ネルムを見捨てるわけ⁉ あたしたち古い付き合いなのに!」
「そ、それは仕方ねえだろうが! それに、ピッケルだってお前らの古い付き合いだったろ。それを追放するのに賛成してたリシャに言われたくねえ!」
「うぐぐ……」
「まあまあ、リーダーもリシャも、落ち着いてください」
「「あぁっ⁉」」
「うっ……こ、これは失敬しました……って、今のでネルムさんが起きてしまいましたよ。まったく」
「「あっ……」」
「……うぅ……私の右手が……ないの……ぐすっ、えぐっ……」
「「「「……」」」」
怒声に加えてネルムの泣き声まで上がり、パーティーの雰囲気は悪くなるばかりだった。
「というか、切断がそんなに当たり前に治るっていうなら、ピッケルってのに治してもらえばいいだけじゃ? おいらもこの目で実際に見てみたいし」
「「「「あ……」」」」
カインの言葉でその場のムードがパッと明るくなったが、リーダーのディランが首を横に振る。
「い、いや、それだけはダメだ! 追放した無能に回復してもらうなんてプライドが許さねえし本末転倒だろ! それより、適当にその辺の回復術師に頼めばいい。仲間を募るとかじゃなくて、臨時で金を払って回復してもらうんだ。それなら手っ取り早いだろ!」
「ディラン、それはグッドアイディアね。その手でいきましょ!」
「あのう、リーダー。おいらの立場は……?」
「カイン、てめえはお飾りのメンバーだ。また追放なんてしたらこっちの悪評にも繋がるから、しばらく大人しくしてろ。お前も今出て行ったら、とことん悪い噂を流してやるからな。とにかく、ギルド周辺の回復術師に金を払って切断を治してもらって、俺らの正しさを証明してやる!」
「……」
鼻息荒く宣言するディランに対し、カインは内心忸怩たるものがあった。
(ディランっていうのは、なんとも意固地なリーダーっすねえ。はあ。こんなパーティーに来るんじゃなかった。前の【狼の魂】パーティーに戻りてえ……。つーか、何もないところから切断を治せる回復術師なんているわけねえし、金と時間の無駄としか思えねえけど、まあお手並み拝見ってところっすかねえ……)
彼らは宿舎を出て、冒険者ギルドで回復術師を募集する。盗賊ネルムの腕の怪我を治せば100ギルスを出すというものだった。だが、実際に集まった回復術師たちからは続々と不満の声が上がるのだった。
「は? 腕の怪我って切断のことかよ……⁉」
「何もない状態から切断を治すなんて、そんなの無理無理!」
「回復術で切断を治すなら、その子の右手がないとねぇ……」
「んだな。バカ抜かしやがって。そんなの治せるとしたら、100ギルスじゃ安いくらいだ」
「というか、【超越者】パーティーの人たち。君ら、回復術師をなんだと思ってるの?」
「そうそうだ、おととい来な!」
「そういえば、この人たちに追い出されたピッケルって人も回復術師じゃなかった?」
「そういやそうだな。それなら、あいつも被害者なんじゃ?」
「「「「……」」」」
カインの予感は的中していた。カインを除いて【超越者たち】の望むような結果は何一つ得られなかったのである。
「ププ……あ、失礼。おいら、ついつい思い出し笑いしただけだから、悪気はねえっす!」
799
お気に入りに追加
1,555
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる