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第十七話 居た堪れない
しおりを挟む「ピッケル様、またお越しくださいませ」
「う、うん。またね、マリベル……」
夜になって、マリベルはようやく帰してくれた。夕食まで用意してるっていうから、それを無碍にするわけにもいかなかったんだ。ご馳走だし美味しかったけど、色んな意味で疲れた。
ただ、僕の家の近くまで馬車で送ってもらえたのでよかった。配下の男たちが周りで目を光らせてたのでちょっと怖かったけど……。
それにしても、こうして自分の屋敷に帰ってみると、ここも公爵令嬢の屋敷に負けず劣らずの豪邸なので圧倒される。
本当に僕の家なのかって疑うレベルの規模だ。
庭とか屋敷とかの見た目は令嬢の家ほど洗練されてないけどね。ただ、その分男性的な力強さを感じさせた。
マリベルはドルーデン侯爵の屋敷だって言ってたっけ。食事の席で、マリベルはこの侯爵の話もしてくれた。
彼はとても人柄がよく、父親同士の付き合いも長かったが、50歳の若さで亡くなり、その跡継ぎの子も病弱で早逝してしまったのだという。建物が強く見えるだけに皮肉な結果だ。
残った屋敷を親戚がしばらく使っていたものの、維持するのが難しくなって不動産に売却し、僕が購入するまでほとんど手入れもされず、お化け屋敷として知られるようになったんだとか。
でも、なんでお化け屋敷なんだろう? お化けが出そうなくらいボロボロっていうのはわかるけど、それだけじゃそう呼ぶには弱いような。まさか幽霊が出るとか?
まあいいや。僕はその足で屋敷まで歩き、その門を潜った。庭の芝生の状態は良好だし、玄関の照明もついていて、メイドのエルシアがちゃんと管理してくれてるのがよくわかった。
お、玄関の戸を叩くと、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「ピッケル……!」
「うわっ……⁉」
ドアを開けた途端、エルシアに飛びつくように抱き着かれて、僕は思わず転びそうになった。
「ひっく……心配したよ……もう、帰ってこないんじゃないかって……」
「エルシア……そんなわけないだろ? それに、僕がいなくても悪いことばかりじゃない。こんなおっきい家を独り占めにできるんだからさ」
「あたいね……どんなに広くても、ピッケルがいない家なんかいらない!」
「エルシア……ごめん。寂しい思いをさせちゃったね」
僕は涙目のエルシアの頭を撫でてやる。思えば、彼女は施設でずっと独りぼっちだったんだ。それをもう少し配慮してあげるべきだった。
「今日は一緒に寝ようか?」
「うん!」
僕は同じベッドでエルシアと寝ることにした。
「ねえ、ピッケル……一つお願いしてもいい?」
「何……?」
「あたいが眠るまで、あれ使って!」
「あれって?」
「ほら、スローになるやつ」
「ああ、あれね……」
「ピッケルも疲れてるのに、ごめん。でも、手を繋いで一緒にこうしてる時間を、少しでも長くしたいって思って……」
「……」
いや、こんなこと言われたら使うしかないって!
かなり消耗するとはいえ、寝る前だしいいだろうってことで、早速使用する。やばい。目が回る。
ふとエルシアのほうを見やると、彼女は僕と手を繋いだまま、いつの間にか眠っていた。とても楽しそうな寝顔で。
僕と一緒にいることが、そんなに嬉しいなんてね。
「――う……?」
どうやらいつの間にか寝ちゃってたみたいだ。エルシアがいないので探すと、玄関近くでとんでもないことになっていた。
なんと、公爵令嬢のマリベルが来ていたのだ。エルシアと舌戦になっている様子で、僕は玄関近くで思わず隠れてしまった。
「お前は誰……⁉」
「使用人の癖して、お前呼ばわりは失礼ですわね。わたくし、マリベルと申しますの。ピッケル様の愛人ですわ」
「あ、愛人⁉ ピッケルは、そんなの作らないもん!」
「はぁ? まさか、あなたが正妻なわけありませんわよね」
「せ、正妻……? あ、あたいがそうだもん……」
「フンッ。まだ子供の使用人の癖いて、すぐにバレる嘘はつくもんじゃありませんわ。で、本物の正妻はどこにおりますの?」
「そんなものいないもん! あ……」
「ほら見たことか、ですわ。それにしても、あれだけ偉大な方なのに、正妻がいないというのは意外ですわね。それとも隠しておられるだけ? もしそれが事実だというなら、わたくしにもチャンスがあるのかしら?」
「あるわけない!」
「……子供は相手になりませんわ。ピッケル様はいずこ?」
「うー……い、今はいないもん!」
「……」
今のところエルシアが一方的に押されちゃってるなあ。
僕は彼女を密かに応援する意味でも、裏口から脱出することにした。これといった用事もないけど、このままじゃ居た堪れないのでベホムたちの宿舎にでも行こうかと思って。
「行ってらっしゃい……」
「うん、行ってくる……って⁉」
思わず返しちゃったけど、振り返っても誰もいなかった。今のは気のせい……だよね?
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