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第三話 もう商人になろうかな

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「ふー、いい感じだし、これならいけそう……」

 あれから宿に泊まって食事も済ませてリフレッシュしたのもあって、気力がすっかり全快した僕は雑貨屋を目指すことにした。

「いらっしゃい! ここは色々あるから、見てってくれよ!」

 お、ここの店主は武器屋と違って、結構若い人がやってるんだな。

 僕がこうして雑貨屋に来たのはちゃんと理由がある。ここなら、回復術を試すにしたって色んなものを対象にできるからね。

「あの、これください。あれもこれも」

「あいよ。まいどありー」

 といっても、あんまり使いまくると精神の消耗も激しいので、購入するのは数点に留めておいた。

 お金はそこそこあるので、廉価なものよりもそれなりに高価で値打ちがあるものにする。

 そのほうが、回復術でアイテムを新品に変えたときに高級品になりやすいからだ。回復術を使うのに、気力を著しく消費することを考慮したら、なるべく手間を少なくして儲けたほうがいいからね。

 店を出たあと、買ったものの中で僕がまず手を出したのは絨毯だ。

 模様が見えないくらい隅々まで汚れてて巨大な雑巾みたいになってるけど、これで100ギルスもするんだから元々は相当な高級品だったんじゃないかな?

 というわけで、早速時間を戻す回復魔法で新品に生まれ変わらせた。

 ……ふう。結構古かったみたいで、綺麗になるまでには結構な回復エネルギーを必要としたけど、これなら高く売れそうだ。

 続けて僕が回復術を注ぎ込んだのは、紐が切れてしまっているポシェットだ。巾着部分に施された黄金色の刺繡も剥がれてしまって、何が描かれているかわからない状態になってる。これで50ギルスだから、直せば相当な価格になるはず。

 よーし、あっという間に紐が繋がり、刺繍も元に戻って活き活きとした黄金の竜になった。これは大した消耗もなく治せたのでよかった。

 っていうか、これ気に入ったから売らずに持っておこうかな? うん、そうしよう。お金が必要になったときは売ればいいし。

 さて、ここからが本番だ。

 僕は70ギルスもする高価な赤ワインに、時間を進める回復術を行使する。

「おお……」

 明るかったワインの色が、見る見る熟成されて血のように色濃く、深く淀んでいくのがわかる。それを見ていて思わず喉を鳴らしてしまったほどだ。いわゆるヴィンテージワインってやつだから味わいたくなる。

 ……これも僕のものにしようかなって思ったけど、いや今は酔ってる場合じゃないってことで思い直す。

 最後に、全財産の30ギルスを叩いて購入したテーブルと椅子のセットの時間を進めて、深みのある質感にして同じようにヴィンテージものにしてみせた。

 座ると体に馴染む感じで、触り心地もいい。よしよし、これなら相当に高く売れるぞ。もう商人になっちゃおうかな?

「あのー、これ全部売りたいんですけど」

「お、おぉっ、あんた、凄いのばかり持ってるじゃないか! う、うわっ、特にこの椅子なんて最高だな。わははっ!」

「……」

 雑貨屋の人、めちゃめちゃテンション上がってる。

 いや、そのほうがむしろ都合がいいってことで、僕は今のうちに全部売り払うことにした。もちろん、すべてここで購入したものだとは言えない。

「高級絨毯、ヴィンテージもののワインに椅子テーブルのセットで、この価格でどうかな?」

「えっ……⁉」

 僕は店主が言ってきた値段に呆然としていた。その額なんと、合計5000ギルスだ。

「こんなに……本当にいいんですか?」

「いいとも! こんな良いものを売ってもらったんだからね。おまけで少し色をつけといたよ!」

「おお、ありがとうございます……!」

 ハイテンションの店主に釣られて僕まで気分が舞い上がってきた。ノリノリだ……って言いたいところだけど、安心したのかどっと疲れた……。そういや、回復術を使いまくりだったんだ。

 店を出た僕は、目を擦って大金をしばらく眺めたあと、ベルトに吊り下げた例のポシェットに仕舞い込んだ。

 これだけのお金があれば、僕の回復術を利用して次はもっと大がかりで楽しいことができそうだ。っていうか、疲労困憊で目が回るししばらく休んだら考えよう……。
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