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第二話 小銭稼ぎのつもりが
しおりを挟む「おい見ろよ、あいつだ」
「回復術師のピッケルだっけ?」
「そうそう。無能のくせに【超越者たち】パーティーに寄生してたろくでなしらしい」
「うあー、詐欺師ってわけね。最低」
「……」
冒険者ギルドでは、僕の噂で持ち切りだった。もちろん、よくないほうに全振りだ。
そりゃ、有名パーティーを追放されたんだからそうなるか。みんな話のタネに飢えてるからなあ。その上、リーダーのディランは顔が広いのもあって、嫌がらせで噂を広められたらあっという間だろうし。
「はあ」
数時間後、僕は溜め息とともにギルドを出る。
僕のジョブは回復術師だし、誰か拾ってくれるのを期待してパーティーを募集したんだけど誰も来なかった。
まああれだけ悪い噂が流れてるような状況じゃ、来るわけもないか……。
さて、これからどうしよう?
パーティーの財産については、全部ディランが管理していたのもあって、僕のお金は手元にはないんだ。
ソロで依頼を受けるにしても、今はかなり消耗しているし、もう夕方という時間帯もあって厳しい。
宿に泊まるお金も食事代ない。
となれば? 残された手段は野宿しかないでしょ……いや、それは本当に洒落にならない。
野宿なんかしたら本当の意味でみぐるみ剥がされる可能性があるし、悪戯だってされるかもしれない。
うーむ、どうしよう。何かいい案がないか思案してみる。
「あ……」
そうだ。早速名案を思いついたこともあって、僕はその足で武器屋へ向かう。
「あのー、おじさん。ジャンク品の中でタダ同然で売ってるようなものはないですか?」
「んー……タダ同然のジャンク品ねえ。それじゃあこいつなんてどうだい? 始末に困ってるんだよ」
「あ、それでお願いします!」
武器屋のおじさんが出してきたのは、柄の部分しかない剣だった。
「こんなもん、なんに使うんだか。まあいい。倉庫を腐らせるだけだから持ってけ泥棒!」
「どうも!」
僕は店から出ると、柄に回復魔法を施した。すると、見る見る元の綺麗な剣に戻っていく。
ふう……よーし、立派なロングソードになったぞ。思えば、仲間たちの刃こぼれや服の綻びもこの回復魔法で修復してたんだ。
それもただの修復じゃなく、時間を戻す作業なので、中古屋も真っ青になるくらい新品同様になるんだ。
「あの、おじさん、これ売りたいんですけど」
「ん? またお前さんか……って、こいつは中々いい得物じゃないか! 100ギルスでどうだい?」
「それで!」
武器屋のおじさんも、まさかこれがさっきの柄だとは夢にも思うまい。
僕はその金で武器屋のジャンク品を買いあさっては、回復して売るということを繰り返して、合計300ギルスも貯めることができた。小銭稼ぎのつもりが、かなり良い稼ぎになった。これで一週間分の宿代、食事代くらいにはなる。
「いやー、こんだけ上等な品、一度に売りにくるのはあんたが初めてだよ……って、あんちゃん。なんかやたらと汗だくだが、大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……だ、大丈夫、です……」
ただ、回復術で気力を使い果たしたことで、おじさんに心配されたのも事実。この辺で僕も店じまいにして宿に泊まるか……。
それにしても、あんまり考えたことはなかったけど、僕の回復術は思ったよりも使えるかもしれない。
「ん、待てよ……」
そこでまた僕は良い考えをひらめいた。部分的に時間を戻して回復するしても、その度合いをもっと深めてみたら面白いことになりそうじゃないか?
あと、僕はその要領で時間を進めることもできる。
切断された傷を治す場合、あるいは猛毒状態を治す場合、時間を戻すという回復術の一択だとして。
パーティーメンバーの一人が毒状態になったとき、免疫をつけるためにと時間を戻すよりも進めることを選択してたんだ。
こういった回復術を色んなものに試したら面白そうだ。ゆっくり休んだあとで試してみるか。
今まではパーティーのためだけに回復術を使ってたけど、これからは自分のためにも使っていけると思うと楽しくなってくる。心地いい疲労感だ。そう考えたら、追放されたのも悪くないのかもしれない
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