上 下
2 / 47

第二話 小銭稼ぎのつもりが

しおりを挟む

「おい見ろよ、あいつだ」

「回復術師のピッケルだっけ?」

「そうそう。無能のくせに【超越者たちトラベラーズ】パーティーに寄生してたろくでなしらしい」

「うあー、詐欺師ってわけね。最低」

「……」

 冒険者ギルドでは、僕の噂で持ち切りだった。もちろん、よくないほうに全振りだ。

 そりゃ、有名パーティーを追放されたんだからそうなるか。みんな話のタネに飢えてるからなあ。その上、リーダーのディランは顔が広いのもあって、嫌がらせで噂を広められたらあっという間だろうし。

「はあ」

 数時間後、僕は溜め息とともにギルドを出る。

 僕のジョブは回復術師だし、誰か拾ってくれるのを期待してパーティーを募集したんだけど誰も来なかった。

 まああれだけ悪い噂が流れてるような状況じゃ、来るわけもないか……。

 さて、これからどうしよう?

 パーティーの財産については、全部ディランが管理していたのもあって、僕のお金は手元にはないんだ。

 ソロで依頼を受けるにしても、今はかなり消耗しているし、もう夕方という時間帯もあって厳しい。

 宿に泊まるお金も食事代ない。

 となれば? 残された手段は野宿しかないでしょ……いや、それは本当に洒落にならない。

 野宿なんかしたら本当の意味でみぐるみ剥がされる可能性があるし、悪戯だってされるかもしれない。

 うーむ、どうしよう。何かいい案がないか思案してみる。

「あ……」

 そうだ。早速名案を思いついたこともあって、僕はその足で武器屋へ向かう。

「あのー、おじさん。ジャンク品の中でタダ同然で売ってるようなものはないですか?」

「んー……タダ同然のジャンク品ねえ。それじゃあこいつなんてどうだい? 始末に困ってるんだよ」

「あ、それでお願いします!」

 武器屋のおじさんが出してきたのは、柄の部分しかない剣だった。

「こんなもん、なんに使うんだか。まあいい。倉庫を腐らせるだけだから持ってけ泥棒!」

「どうも!」

 僕は店から出ると、柄に回復魔法を施した。すると、見る見る元の綺麗な剣に戻っていく。

 ふう……よーし、立派なロングソードになったぞ。思えば、仲間たちの刃こぼれや服の綻びもこの回復魔法で修復してたんだ。

 それもただの修復じゃなく、時間を戻す作業なので、中古屋も真っ青になるくらい新品同様になるんだ。

「あの、おじさん、これ売りたいんですけど」

「ん? またお前さんか……って、こいつは中々いい得物じゃないか! 100ギルスでどうだい?」

「それで!」

 武器屋のおじさんも、まさかこれがさっきの柄だとは夢にも思うまい。

 僕はその金で武器屋のジャンク品を買いあさっては、回復して売るということを繰り返して、合計300ギルスも貯めることができた。小銭稼ぎのつもりが、かなり良い稼ぎになった。これで一週間分の宿代、食事代くらいにはなる。

「いやー、こんだけ上等な品、一度に売りにくるのはあんたが初めてだよ……って、あんちゃん。なんかやたらと汗だくだが、大丈夫か?」

「はぁ、はぁ……だ、大丈夫、です……」

 ただ、回復術で気力を使い果たしたことで、おじさんに心配されたのも事実。この辺で僕も店じまいにして宿に泊まるか……。

 それにしても、あんまり考えたことはなかったけど、僕の回復術は思ったよりも使えるかもしれない。

「ん、待てよ……」

 そこでまた僕は良い考えをひらめいた。部分的に時間を戻して回復するしても、その度合いをもっと深めてみたら面白いことになりそうじゃないか?

 あと、僕はその要領で時間を進めることもできる。

 切断された傷を治す場合、あるいは猛毒状態を治す場合、時間を戻すという回復術の一択だとして。

 パーティーメンバーの一人が毒状態になったとき、免疫をつけるためにと時間を戻すよりも進めることを選択してたんだ。

 こういった回復術を色んなものに試したら面白そうだ。ゆっくり休んだあとで試してみるか。

 今まではパーティーのためだけに回復術を使ってたけど、これからは自分のためにも使っていけると思うと楽しくなってくる。心地いい疲労感だ。そう考えたら、追放されたのも悪くないのかもしれない
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...