上 下
43 / 54

43話

しおりを挟む

「僕の正体を知りたいって? そんなのどうでもいいだろ。さあ、ドラゴン、かかってこい!」

『グオオォォッ?(お前、何者かは知らんが、まさかドラゴンに勝てると思っているのか?)』

「ん? もちろん勝てると思ってるさ! 戦ってやるからとっとと来いよ。それとも、僕のことが怖いっていうのか……!?」

『グアァァァッ(くだらん。我は童の遊戯に付き合ってる暇などないのぢゃ)』

「あ、ちょっと……!?」

 また電話が切れちゃった。おっかしいなあ……。一体、何がいけなかったんだろう? やっぱりドラゴンっていうくらいだし、プライドも高そうだから一筋縄じゃいかないみたいだね。普通に挑発なんかしたってまともに相手にされないのかも。

 よーし、それなら罵倒の方向性を変えてみようってことで、僕は電話をかける前の時点にロードして再スタートすることにした。

『――グォォッ?(我に呼び掛けるのは誰ぢゃ?)』

「お前こそ誰なんだよ?」

『ガアアァァァッ!(我こそはドラゴンだ。さあ、正体を名乗るがいい!』

「ドラゴン……? ププッ……」

『グオオオッ?(何がおかしいのぢゃ?)』

「ご、ごめん。笑うつもりなんかなかったけど、つい。だって正直、ドラゴンなんて僕にとっては余裕だからね。ちょっと大きなトカゲみたいなもんだから」

 こうして、まるで当たり前のように冷静に言ったほうが、相手の怒りは増すと思うんだ。

 もう遥か昔のことのように感じるけど、掲示板じゃ僕がいつも《ひきこうもりハンター》で雑魚の代名詞みたいな言い方を普通にされてて、滅茶苦茶むかついてたからそれをヒントにさせてもらった。

『グウウゥッ……?(わ、我が、ちょっと大きなトカゲぢゃと……?)』

 お、なんか声のトーンがいつもと違う。明らかにイラついちゃってるね、これは。もう一押しだ。具体的にトカゲのサイズをイメージさせて侮辱することでもっとむかつくはず。

「うん。アレだよ。僕からしてみたらドラゴンなんて、ワニ以下のサバンナモニターみたいなもんだね。なんか余裕すぎて萎えてきちゃった。戦う前からこっちが勝つのはわかりきってるし、もうそろそろ切ろうかな」

『グオオォォォォッ……!(待つのぢゃ。その台詞、決して後悔せぬようにな……!)』

 おおっ。ドラゴンの怒号が耳元に響くとともに、電話ボックスが跡形もなく消失したかと思うと、まもなく僕たちは黒い影にすっぽりと覆われるのがわかった。え、これって……。

『ガアアアアァッ……』

「……う、うあぁ……」

 探知効果もある【開眼】スキルのおかげで、僕はすぐにそれが超大型のドラゴンだと認識することができた。

 あれは《巨大化》したフェンリルよりも遥かにでかいし、隣にあるビッグサイズの百貨店が小さく見えるレベルなんだけど……? って、今のうちにセーブしておかなきゃ!

「わぁ、ドラゴンだぁ♪」

「きゃんきゃんっ!」

「…………」

 リサとミリルは全然動揺してないどころか、楽しんでるようにすら見えるし化け物だ……って、そういやどっちも元モンスターだったか。あ、珍しくコメントが来たと思ったらいつもの匿名さんだった。

『わわわ……またカケルさんの動画を見に来ましたが……もう私、とっくに夢の中にいるみたいですね』

「ははっ、そうみたいだね……」

 いつもの匿名さんも僕の配信が夢だと確信してるみたいだ。そりゃ、この『炎の電話ボックス』ダンジョンにはドラゴンなんているはずがないのにいるんだからね。僕でさえ、市街地でドラゴンと戦うっていう、なんとも非現実すぎる状況下で呆然としちゃってるんだし。

 とにかく、戦う前にまずはやつのステータスをチェックだ。

 名前:クリスタルドラゴン(ユニークモンスター)
 モンスターランク:S
 特殊能力:(3)
《反射》《擬態》《クリスタルブレス》

 うはっ……やっぱりユニークモンスターで、しかもモンスターランクはSだった。正真正銘のドラゴンということもあって正直足が震えたけど、怖がってばかりもいられないので続けざまに特殊能力をチェックだ。

《反射》は攻撃系スキルを100%、普通の攻撃もダメージの50%を反射するとかで、初っ端からとんでもない効果だ。《擬態》はあらゆるものを真似ることで自分を隠したり変化させたりできるんだとか。

 最後の《クリスタルブレス》は、対象を即座に結晶化(生き物なら即死)させる息を吐く効果とのこと。さすがドラゴンなだけあってどれも凶悪な特殊能力ばかりだった。

『グオオオオォォッ……!』

 って、あれ? ドラゴンが興奮してるのは伝わってくるけど、何言ってるのかさっぱりわからない……って思ったら、そうか。今は電話ボックスを通じて会話してないからだね。

 ん、落ち着いてきたこともあってイベントボードをじっくり確認したら、コメントじゃないメッセージも流れてきてるのがわかった。

『現在、このダンジョンではSRスキルが獲得可能です。獲得方法は、自分の言葉ではなく行動によってモンスターの怒りを鎮めることです』

 自身の行動によってドラゴンの怒りを鎮める? どうやればいいんだろう……って! ドラゴンがいつの間にか口を大きく開けて、中がキラキラ光り始めてるのがわかった。どうやら特殊能力の《クリスタルブレス》をやるつもりらしい。避けようと思えば避けられるけど、どうせなら食らってみようかな?

『――ガアアアアァッ……』

 あ……なんとも生暖かい息が吐き出されて体が動かなくなったと思ったら、もう死に戻りしちゃったみたいだね。

 さあて、仕切り直しだ。とはいえ、まだ倒すつもりはない。その前に、激怒してるドラゴンをなんらかの行動によって宥めてスーパーレアスキルを獲得しないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

天才高校生は異世界で無双する!〜チートスキルと知識チートで異世界を変革するようです〜

ピョンきち
ファンタジー
季節は夏、主人公森崎健太は夏休み家族とともに豪華クルーズ客船に乗って世界一周旅行をしていたが、何者かにより船に時限爆弾が設置されていて、爆発。船底に穴が空き運悪く沈没。目を覚ますと目の前には女神を名乗る幼女がいて… 「君は死んじゃったから別の世界で生きてもらうね!」 見た目はそのまま、頭脳もそのまま、身体能力超強化!? これは世界に影響を与えるある一人の少年の 物語だ。 【読者様へのお願い】 初作品です。ご意見ありましたらビシバシ感想来てください!率直な意見がこの作品をより良くすることができます。よろしくお願いします! 僕の作品『前世が官僚』もよろしくお願いします! 『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿させていただいております。そちらもお願いします。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

処理中です...