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29話

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 名前:ミリル(ウルフドッグ)
 モンスターランク:F
 特殊能力:無し

 ……ふう。大体こんなもんでいいかな? これを見ればわかるように、誰かに探られたときのために、僕はミリルのステータスを【フェイク】スキルで弄ってみたところだった。

 それを実行する前に、窓から屋根の上にいる野良猫やカラス等の動物を【開眼】スキルで確認したら大体こんな感じだったので、これで第三者に鑑定系のスキルで調べられたとしても問題ないはず。

 アニマルじゃないのは違和感があるかもしれないけど、調査対象が人間ではない場合、モンスターではなくてもモンスターとして表示される仕様みたいなんだ。

 あと、ミニフェンリルはウルフに似てるけど、一般のペットショップで売られてるウルフドッグにも近い容姿なので、その子供なんだと主張すれば視聴者たちも納得すると思う。なんせ狼はサイズの大きい種族だし、ここまで小さいとウルフの亜種――ユニークモンスター――だってバレる心配はないんじゃないかな。

 時間が経過するにつれて、いつになったら大きくなるのかって誰かに指摘されるかもしれないけど、稀に子犬のような姿のまま成犬になるのもいるらしいし、そのパターンだと言い張れば問題ないね。

「きゃんきゃんっ!」

「ミリルちゃん、待ってぇーっ!」

「ほらほら、そこ、騒がない!」

「……ははっ……」

 居間でニンジンのぬいぐるみを咥えて逃げ回るミリルをリサが追いかけ、それを料理中のサツキがお玉杓子を振り上げて叱るという光景。あのぬいぐるみは僕が枕用として使ってたやつなんだ。

 ぼっちだった頃では考えられない賑やかさだし、こうしてソファに座って追いかけっこを眺めてるだけでも楽しいけど、問題はせんべい並みに壁が薄い遮音性ゼロのボロアパートでこういう騒動が起こってるってことだ。

 近所迷惑だと思われる可能性も大いにあるわけだし、隣人に壁ドンされたり怒鳴り込んで来られたりする前になんとかしなきゃな……って、そうだ。

 僕ってやつは……今日獲得したばかりだっていうのに、そのほかにも色んな出来事が起きたせいかすっかり忘れてた。こういうときのために【異次元開拓】っていう激レアスキルがあるんじゃないか。

 というわけで早速使ってみると、目の前に2メートルほどの扉が現れた。あれ? これじゃ、意味がないんじゃないかと疑問に思いつつも開けてみると、そこは凄く懐かしいっていうか、現在進行形で僕が通ってるダンジョン『虚無の館』っぽい部屋があった。

 そういえば、ダンジョンの攻略度によって開拓の度合いが変わるっていう説明だったっけ?

 恐る恐る虚無の部屋に入ってみると、隅には古びたタンスや傾いたベッドなんかが置いてあって、まさに『虚無の館』そのままの雰囲気を味わうことができた。あそこよりちょっと狭いけど、これから中ボスとか倒していったら、広くなったり部屋が増えたりするんだろうか?

 ん、もう一つ脇に扉があるので開けてみたら、そこもよく見た光景――『青き森』っぽい小さな森があった。ただ、入ればわかるけどそんなに広くはない。最初の虚無の部屋よりはマシだけど、歩いたらすぐに行き止まりになる感じだった。

 もうちょっと発展していったら、霧とかも微妙に出てるし、それこそモンスターとかも出現してきそうな本格的な雰囲気なんだけどね。例の月明かりがない分、オリジナリティもちゃんとあるし。

「――カケル! どこにいるのかと思ったら、なんだここは!?」

「坊や、ここどこお?」

「わおんっ?」

「あ……」

 サツキ、リサ、ミリルも追いかけてきていた。まあそりゃ居間の真ん中に扉があったら普通入るよね……。

「まーたカケルの得体の知れない力が発動したのか……」

「ははっ……」

 サツキが呆然自失といった様子で呟いてる。もうそういうことでいいけど、得体の知れない力で異次元開拓までする僕って一体……って、これくらいの広さなら、何かずっとやりたいと思ってたことをできそうな気が……。

「――あ、そうだ! ここならミリルの特殊能力の《巨大化》が使えるかも!」

「ん、カケル、それはいい案だな!」

「あたしも、おっきいワンちゃん見たいっ!」

「きゃうーんっ!」

 サツキたちも同じ気持ちだったらしいってことで、僕はミリルに向かって《巨大化》するように命じてみた。

「ミリル、《巨大化》を使うんだ。おっきくなるんだよ。わかるね?」

「はっ、はっ!」

 僕を見上げながら嬉しそうに尻尾を振ってクルクル回りつつも、こくこくと何度もうなずくミリル。それからしばらく待っても何も起きないけど、多分ミリルはなんとなくわかってるんだと思う。ここは無理にやらせようとせず、《ムシゴロウ》っていう称号の通り、辛抱強く待つとしよう。

「こう、小さな状態から、ビッグになるんだ。わーって思わず見上げるくらいにね。ほら、こんな感じで!」

「きゃうきゃうっ!」

 言葉じゃ伝わりにくいかもだってことで、僕は両手を大きく広げたりジャンプしたりして、身振り手振りを交えてミリルに説明する。それが滑稽に映ったのか、サツキがおかしそうに口を押えてるけど気にしない。

「――ワォーン……」

 お、ミリルが座り込んでなんか切なそうに鳴いたかと思うと、その姿が徐々に大きくなっていった。す、凄いぞこれ。どこまで伸びるんだ。もう近くの木を追い越して見上げるほどの巨躯になってしまった……。

「おっきなミリル、ふわふわーっ!」

「「あっ……」」

 僕とサツキの声が被る。いつの間にか宙に浮いていたリサが、ミリルの背中に乗ったところだった。

「ず、ずるいぞ、リサ! 私ももふもふしたい!」

「僕もっ!」

「坊やっ、お嬢ちゃんっ、こっこまでおいでーっ!」

「「このーっ!」」

 僕たちはリサの言うことを肯定するかのように、童心に帰ってミリルの背中を目指すのだった……。
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