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14話

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「カケルさん、おはようございまあす」

「お、おはよう、ユメさん……僕になんの用事なのかな……?」

 まさか、ユメさんが僕の住むボロアパートを知ってるなんて……って一瞬思ったけど、そうか。よく考えたら、自分の住所はパーソナルボードに記載してあるんだった。そういうのは別にギルドの人に見られても問題ないわけだしね。

 ちなみに、探知効果もある【開眼】スキルの影響で、同居してるサツキも玄関近くまで様子を見に来たのがわかったけど、妹のユメさんの姿を見た途端、ぎょっとした顔で横にある物置きのほうに隠れた。

 まあ、そりゃそうか。姉である自分の姿を見られることで、ストーカーに殺されかけたっていう過去の辛い出来事を思い出させてしまう恐れもあるし、そういう展開になるのはできるだけ避けたいだろうから。

「あの~……今日は日曜日で、お休みの日ですので……以前約束した通り、お食事に誘おうかと思いましてぇ」

「あっ……!」

 そうだった、約束してたんだった……。しかも今日は週末だから、第17支部にいるほとんどの受付嬢たちにとっては休日だってこともすっかり忘れてた。

 なので、彼女たちの代わりは愛想の悪い太ったおばちゃんとかサングラスをかけた怖いおじさんとかがやってるんだ。だからなのか、この日だけはギルドにはハンターの出入りも極端に少ないんだよね。

 僕の場合は毎日のように『虚無の館』に通ってたので、その日だけはギルド内の清掃人も違う人に交代するとかそういうこともわかるんだ。そこでよくすれ違うハンターの顔も無駄に覚えちゃってる。

「あのぉ、カケルさん? もしご迷惑でしたなら、失礼しますけど?」

「あ、いや、ちょっと考え事をしてただけだから大丈夫――」

 そのときだった。ガタッと強めの物音がして、サツキが派手に転んだのがわかった。あー、やっちゃったか……。

 物置きの中には、古い掃除機や壊れた炊飯器、カバーの取れた漫画や雑誌の山等、要らないものを適当に放り込んでるのもあって、足の踏み場もないほどごちゃごちゃしちゃってるしなあ。

【瞬間移動】で脱出すればいいんじゃないかって思ったけど、そこで留まって僕とユメさんの会話を聞きたかったんだろうね。

「あれぇ? もしかして中に誰かおられるんですかぁ?」

「……う……」

 家の中に誰かいることがユメさんにバレてしまった。どうしよう。

「カケルさんの彼女さんとかとか……」

「い、いあいあ、そんなのいるわけないって! それどころか、女の子の知り合いとかも、全然っ……!」

 なんか、僕の発言直後、後ろから殺気染みた鋭い視線を感じたけど気にしない。

「それじゃあ、なんなのでしょう?」

「そ、それは……」

 うーん、なんて言おう? よし、ここは無難なやつで、ペットがいるってことにしておこうかな。

「ペットがいるんだ。それで……」

「ペットさんがおられるんですかあ……!? 私、カケルさんが何を飼ってるのか、とっても興味あります……!」

「え、えぇ……?」

 しまった。ペットという言葉がユメさんの好奇心に火をつけてしまったみたいだ……。

「きっと、眺めていたらいかにも眠くなりそうな、そんなもふもふなペットさんですよね……?」

「…………」

 いや、どうしてそうなるんだと。てか、ユメさんの眠たそうな目がいつになくキラキラしちゃってる。

「ってことはあ……日向ぼっこ中のネコさん? お散歩が終わってくたくたになったイヌさん? そうじゃないならあ、ねむねむなお目目の、文鳥の雛さん? それともおぉっ……うたた寝中のパンダしゃん……!?」

 ……いやいや、ほかのはともかく、パンダなんているわけないんだよなあ。ユメさんって、やっぱりテンションが上がると人が変わる感じだ。彼女にスキルを打ち明けたときのことを思い出しちゃった。あのときはすぐにロードしたけど。

 というか、この場面も面倒だから無性にロードしたい気分なんだけど、ここまで期待させちゃうと、全部なかったことにするのも気の毒なような気がしてくる。どうしようか。

 ……そうだ。こっちが見せまいとするから、ユメさんも期待が膨らんで余計に気になっちゃうんだと思う。それならあえて見せればいいんじゃないかな?

「それじゃ、ユメさん。今から僕のペットを見せてあげるから、こっち来て」

「はぁい♪」

「さー、今から開けるよ。、出ておいで!」

「フギャーッ!」

 物置きを開けた途端、中から動物の鳴き声とともに何かが飛び出してきたかと思うと、すぐにいなくなってしまった。

「い、今のはあ……ネコさんです?」

「そ、そうそう。クロは人見知りだし、知らない人がいるからって隠れてたみたい。この物置きが気に入ってるみたいで、よく勝手に入るんだ」

「そうなんですねえ。そういえばネコさんって、狭くてごちゃごちゃしてるところが好きみたいですからぁ……」

「うんうん……」

 僕がクロって呼んだのもあるだろうけど、サツキが気を利かせてネコの振りをしてくれて、なおかつ【瞬間移動】で脱出したみたいでよかった。【フェイク】じゃそこまでごまかせないしね。あれは物の数とか動作とかを違うものに見せかけるだけのものだから。

 それにしても、もう少しのところで姉妹の念願の再会が実現してたんだなと思うと複雑だけど、ユメさんの記憶が自然に戻るまでまだそっとしておいてやったほうがいいか。

「それじゃ、ユメさん、近くの喫茶店にでも行こうか?」

「はぁい、カケルさんっ。それでは、行きましょおー」

 そういうわけで、僕は急遽『虚無の館』ダンジョンへ行くのを取りやめ、ユメさんとのデートを楽しむことにするのだった。サツキはどこに移動したのかは知らないけど、多分すぐに帰ってきてお留守番をしてくれるはずだ。
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