17 / 36
17話 叫声
しおりを挟む「さあウォーレン、頼んだよ」
「任せて、姉さん。クローズバリア――レッドウォールッ……!」
セシアからバフを受け取り、さらに自身の魔法によって防御力を一層強化したタンク役のウォーレンが前に出ると、盗賊カイル、錬金術師レビーナ、回復術師アリーシャ、がそれぞれ後衛に回り戦闘、サポート態勢に入る。
「いっちょ行くぜえぇ! 風属性短剣乱れうちっ!」
『グルルァッ……!』
ボスのハーティーが炎の壁に突っ込んできたタイミングで、カイルがありったけの黄色い刃を投げつける。その間、ウォーレンたちはまともな衝突を避けるべくその場を離れるため、ちょうど闘牛士のような戦い方になるのであった。
「いいよ、効いてる効いてる! カイル、相変わらず散財しすぎだけれど、経費は自腹で頼むからね!」
「うへえ!? そりゃねーよ、セシアちゃん……」
「うあー、カイルかわいそー!」
「くすくすっ……みなさん、盛り上がってきたところで私の劇薬を……」
微笑を浮かべるレビーナの試験管が見る見る泡立ち、煙を上げ始めるとまもなくバチバチと小さな閃光が発生した。
「では、行きます……このボスのためだけに用意した劇薬『スペシャルライトニングボトル』の威力、どうぞご覧あれ!」
「「「「おおっ!」」」」
「みなさん、伏せてください――」
「「「「――ッ!?」」」」
『グガアアアアアアァァァァッ……!』
レビーナの投薬とともに衝撃波が生じ、聳え立つ青き狼の咆哮と爆音がこだました。
◇◇◇
『シャシャシャッ……!』
2階層のボス部屋、魔法陣の中心に現れたのは先端が天井に届かんばかりの一本の草だった。根本の一番太い部分に赤黒い口が覗き、挑発するかのように草を揺らしながら笑う姿も印象的だ。
「「ウスノ――」」
「――いや、待つんだ!」
あー、肝を冷やした。シグ、サラのシュバルト兄妹がいつものように例の呪文を唱えようとしたんだが、それを言ってしまうとワドルがボスに突っ込んで玉砕するところだった。
「ど、どうしたんですかね、リューイ氏?」
「びっくりしたぁ。リューイさん、どうしたの?」
「あのボスは弱そうに見えるだろうけど、凶悪な攻撃力を持ってるから下手したら即死する」
「「「「えぇ……」」」」
俺の台詞に対しワドルとアシュリーも混ざって青ざめてるが、それくらい恐れてくれたほうがちょうどいい。なんせ迂闊に近付いたら絶対にダメな相手だからな。
2階層のボス……その名もスラッシュハーブ。近接なら最高クラスの攻撃力と防御力、タフさを誇るとされる植物型ボスだ。途轍もなく固いだけでなく、自身の体を剣のように軽々と振り回し、獲物を切り刻んでから口に運ぶという特徴を持つ。
元パーティーリーダーの魔術師ウォーレンがタンク役で、特に防御力に自信を持っていたがそれでも近寄ることだけは絶対にしなかった。
ただ、物理攻撃には無類の強さを発揮するが所詮は2階層のボス。遠距離の魔法攻撃や薬による攻撃には滅法弱く無抵抗であるため、魔術師か錬金術師をパーティーに入れるのは必須だと考えられている。
そうそう、今思い出した。元パーティー時代、俺はこのボスに対して『アンチストロング』を使おうとしたが、口の悪い補助術師のセシアに火が出るほど怒られて、やつは地属性だからその反属性ってことで渋々火炎瓶を投げ込んだことを覚えてる。
まあ俺自身、当時はこの劇薬にそこまで自信がなかったというのもあるが、相手がボスなんだしもっと主張してどんどん試せていればあそこまで舐められることはなかったんじゃないかな。とはいえ、今となってはこっちのパーティーのほうがずっと居心地いいし、悔いなんてまったくないが。
さて、そろそろ『アンチストロング』が立て続けに完成する。火炎瓶だと100発以上投げてもまだピンピンしてたが、これならどうだろう? 1階層のボスは35発で倒したんだっけか。威力は既に証明済みなだけに、一体何発で倒れてくれるのか楽しみだ。
「――いっけええええぇぇっ!」
豹変したワドルばりに俺は叫び、『アンチストロング』を連続投薬してみせる。
『ジャジャジャジャッ……!?』
悲鳴か笑声か、どっちとも取れるようなスラッシュハーブの奇声が響き渡った……。
1
お気に入りに追加
709
あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる