16 / 36
16話 両極端
しおりを挟むあれから俺は特殊な鎮静剤を投げ、みんなを落ち着かせてから朝食を済ませたあと、ルディとクレアを箱庭に残して2階層への石板に触れたところだった。周囲の景色が徐々に変わり、腰高の草原へと変化していく。
「お、次は草原ですか」
「わー、草のベッドみたい。きれーい」
「はわわ、本当ですねぇ」
「おで、眠くなりそう……」
「いやいや、ワドルは充分寝ただろ?」
「うぅ……」
1階層のマップも、それまで俺たちがいた箱庭も山の中だったこともあり、一転して視界が開けた感じがして気持ちよかったが、ここから先のモンスターは人を見かけたら襲ってくるアクティブタイプが多いので注意が必要だ。
長閑な景色に騙されやすいが、このマップが腰高の草原なのは理由があって、草むらの中には凶悪なバッタのモンスター、ビッグローカストが大量に隠れていてこれが非常に厄介なのだ。
人の子供ぐらいの大きさで飛び跳ねるスピードがとても速く、草原に紛れて奇襲のように体当たりをしてくるため、相手が膨大な数であることを考えればまともに食らったら途轍もないダメージを受けることになる。
もちろん、そこはシグが索敵スキルで知らせてくれるわけだが、わかっていてもそのスピードは避けるのが難しいほどだし、茂みの中にはグラスウェポンと言われる植物型モンスターが多数紛れ込んでて、足に絡みついてくるので避けることが極めて難しくなるのだ。
ワドルの無尽蔵の体力と俺の特製回復ポーションがあればそれでも普通に耐えられると思うが、高い飛翔力を持つバッタたちの攻撃範囲は広く、攻撃する対象も無差別なので、もしワドルが動きを封じられればこっちに襲い掛かってきた場合に対応できなくなる可能性がある……ってなわけで、俺は特殊な除草剤を撒くことにした。
「みんな、除草剤の準備をするからちょっと待ってて」
「「「「了解っ……!」」」」
ちなみにこの除草剤は元パーティー時代にも散布したわけなんだが、当たり前のようにスルーされたことを覚えている。錬金術師ならできて当然、みたいな空気だった。俺の除草剤は威力抜群なんだけどなあ。それをわざわざ言えばひけらかしてるように思われるから黙ってたんだ。
さあ、準備完了だ。『アンチストロング』もそうだが、こうしたものは出来立てホヤホヤのほうが効き目があるんだ。
「「「「――おおっ……!」」」」
シグたちが歓声を上げる。特殊な除草剤を投薬してやると、あっという間に半径50メートルほどまである草原を一気に枯らしてしまった。ただ、それでも草むらとともに植物型モンスターのグラスウェポンはすぐ復活してしまうが、自分の除草剤なら1分くらいは維持できる上、広範囲だから問題ない。
「さあ、みんな行こうか――」
「――す、凄いっ! さすがリューイ氏!」
「ほんとぉ! リューイさん愛してる!」
「はうぅ、リューイさん素敵ですうぅ……」
「お、おで、リューイさんみたいになりたい……」
「は、ははっ……」
まさかこんだけ褒められるなんて、俺としてはもう照れ笑いするしかなくなる。前のパーティーとは全然違うしまるで蜂蜜漬けにされてるみたいだが、気分は悪くなかった。
俺たちの周囲に居座っていた草の塊がごっそり消えたことでバッタも見つけやすく、しかも除草剤で飛翔力も体力も弱ってるのでサクサク倒せるというおまけつき。
「うおおおおおおおっ! バッタども来かかってこい! 俺様が相手だああぁぁっ!」
「おるぁあああああっ! 焼きイナゴにして食ってやるですううぅぅぅっ!」
ワドルとアシュリーの絶叫が響き渡る中、視界が変わっていく。
おいおい、もうボス部屋行きかよ。体感だが、まだこのマップに来て10分くらいしか経ってないはずだぞ? いくらなんでも早すぎだろ……。
0
お気に入りに追加
705
あなたにおすすめの小説
追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚
ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。
しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。
なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!
このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。
トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。
空
ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。
冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。
その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。
その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。
ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。
新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。
いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。
これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。
そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。
そんな物語です。
多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。
内容としては、ざまぁ系になると思います。
気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。
ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる