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11話 真価

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「「「「あっ……!」」」」

 周りの景色が変わり始めて、シグ、サラ、ワドル、アシュリーの上擦った声が被る。

 合計で100匹目くらいだろうか、木陰に隠れていた猪をシグが探知スキルで発見し、これでもかとみんなでボコって倒した瞬間だった。

 ちょっと寄り道したが、かなりスムーズに事が運んだじゃないかな。とにかくこれでいよいよボス部屋に突入ってわけだ。俺は慣れてるからいいものの、シグたちは一様に口を真一文字にして緊張してる様子。彼らにとってみたらボスを相手にするのは初めてだからそれも当然か。

 それまで山の中だった風景が、たちまち壁に囲まれた殺風景な薄暗い空間へと変貌していき、ここがダンジョンタワーの一部だと再認識させられるとともに、否応なしに緊張感が高まっていく。個人的に慣れたとはいえ、ボス部屋だしやっぱり高揚するものはある。

 しばらくして大きな振動とともに、地面に魔法陣が描き出される。

「もうすぐ、ボスだ。みんな、気をつけろ!」

「は、はい、リューイ氏!」

「サラ、気をつける!」

「あうあうっ」

「お、おで怖い……」

「……」

 二名ほど早くも戦意喪失してる様子だが、今はまだそのときじゃないしスイッチを入れるのはボスが登場してからでも遅くはないだろう。

『――ウゴゴゴゴッ……』

 まもなく魔法陣の中心に現れたのは、暴力的なまでに巨大な猪の化け物、エリュマントスだった。何が出るのかはわかっていたが、それでも圧倒される大きさだ。初めて見たときは死を覚悟したほどだったからな。

「「「ウスノロッ! 追放っ!」」」

 シグ、サラのシュバルト兄妹と俺の台詞が被った。やはり考えてることは一緒か。

「「……」」

 ボス以上に不穏な空気を醸し出したワドルとアシュリーの目が怪しく光る。

「う……うおおおおおおっ! ウスノロだと!? 誰がウスノロだ!? おい、言ってみろ、俺様は人類最強の騎士ワドル様だぞおおおおおおっ!」

「ざけんじゃねえですううう! オラオラッ、追放できるもんならしてみやがれっ、今すぐぶち殺してやるぞですっ! 舐めんじゃねえですううううう!」

 ワドルが猛然とボスに向かっていく。いやあ、いくらタンク役とはいえ、いきなり単身であの巨躯の化け物に立ち向かえるのは凄いし、アシュリーのバフも鬼気迫る勢いで気合入ってて、いつも以上に能力値がグンと伸びてそうだ。

 もちろんその際は俺がコーティング薬を施してやり、例の敵が強ければ強いほどダメージが上がる劇薬――名付けて『アンチストロング』――の投薬準備に入る。

『ウゴオオオオオッ!』

「うぐあぁぁぁぁっ……!」

 エリュマントスの頭突きをまともに食らったワドルが物凄い勢いで壁に激突し、血まみれになるもすぐに立ち上がって向かっていった。バフの効果もあるにしてもこの男、人間離れした体力と根性だ。

「リュ、リューイ氏、あれでワドルの体力が三分の一も削れてますっ!」

「よし、任せろ!」

「おおっ、全部回復するなんてっ!」

「すごーいっ!」

 特製ポーション投げてやると、ワドルの体力が全快するだけでなく煙に巻かれて狂戦士のようになり、今度はボスの頭突きを華麗にかわすと前脚を掴んでみせた。

「うおおおおおっ! 俺様が止めている今のうちに倒せえええ、下民どもおおおおおおっ!」

「とっととぶちのめしやがれですううううっ!」

「――よーし、少しだけ待ってろ……」

 ワドルとアシュリーの雄叫びが重なるカオスな空気の中、俺は量産したばかりの新鮮な『アンチストロング』を、動きの止まったボスに向かって投げまくってやる。同時だと威力が相殺されるため、一つずつぶつけたほうがいいんだ。

「おおおぉぉっ、天才錬金術師リューイ氏の劇薬のトンデモダメージッ、こっ、これは、凄い、凄いなんてもんじゃない! 七千、八千、九千――い……! 一万越えですよっ、遂に、やった……!」

『ウゴオオオオオオォォォォォッ!』

 ボスの断末魔の叫び声とともに眩い光が飛び込んでくる。

 この光景――懐かしいな。最初の頃はこの劇薬をそんなに量産してなかったし、雑魚モンスターで使い果たしてしまってて、ほぼ見てるだけだったからよく覚えてる。これは、紛れもなくクリアだ、俺たちはもうクリアしてしまった……。
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