上 下
7 / 36

7話 バフ

しおりを挟む

 次に俺が取りかかったのは、バフを維持する薬を開発することだ。糊付け、すなわち見えない部分を固定する、ステータス専用コーティング薬である。

 当然接着を意識するわけだが、これが見えない部分となるとかなり難しくなってくる。精神の粘着剤なんてできるはずもなく、これに近い成分を抽出するしかなくなるわけだ。

 抽出方法としては、まず執念とか根性とかそうした強い思いを抱くことが大事になってくる。次に、この能力を絶対に維持してやるんだという熱い気持ちを冷まさないよう持続させていくことが肝要だ。

 さらにもう一つ重要になってくるのが偽薬効果であり、まだ効果が持続していると思い込むことである。

 これらの二つの要素を合わせると精神力の摩耗が酷いので、精神向上薬を試験管に多めに投入し、続けて幻覚を生じさせる成分を少々入れて、最後に強い思いを詰め込んだ夢想種を入れて粘り気が出るまで混ぜ、しばらく寝かせておく。

 ――よし、完成だ。夢想種が溶け、全体的に濃厚な緑色になっているのがわかる。あとはこのコーティング薬を試すだけだ。というわけで俺はアシュリーにバフをかけてもらおうとしたが、まだ眠っていた。

「アシュリー、もうそろそろ起きてもらえないかな?」

「くぅ、くぅ……」

「アシュリー?」

「くー……むにゅうっ」

「……」

 ダメだ……肩を揺さぶってみたがまったく起きる気配がないし、夢でも見てるのかニヤニヤと笑うだけだった。おかしいな、もう昼間だってのに……って、そういや、バフの最大の効果を維持しようと思って、熟睡させることで精神力を回復させるべく強めの睡眠剤を飲んでもらったんだった。

「あっ……」

 しばらく薬が切れるのを待つしかないかと諦めかけた直後、俺は良い考えをひらめいた。彼女の耳元であの言葉を囁いてやれば今すぐにでも起きるんじゃないか……? 正直、これは自分にも効くのであまり言いたくなかったが、早く例の薬を試したいしこの際仕方ない。

「追放、する……」

「うっ……?」

 アシュリーの笑顔が一転して、しかめっ面に変わる。心が痛むが、この様子を見てるともう一押しだな。

「アシュリー、追放する……」

「う、ううぅー!?」

 おお、起き上がった……と思ったら、めっちゃ怖い顔して見下ろされてるし……。

「何が追放ですよ。ざけんじゃねーですよ……!」

「ア、アシュリー、バフ、バフを……」

 胸ぐらを掴んできたアシュリーは凄い迫力だった。な、殴られる……。

「あぁ? パフパフだぁ!? そんなにパイパイが恋しいならくれてやるです、このスケベ野郎!」

「なっ……!?」

 何を思ったのかアシュリーが邪悪な笑みを浮かべて俺の顔を豊かな胸元に押し当てた。や、柔らかいけど呼吸が苦しいし、今の弾みでコーティング薬が大いに零れ、濡れたせいで胸が透けちゃってるんだが……。

「――ただいまー……って、リューイさん、何を……」

「あ……」

 タイミング悪く、買い出しに出かけていたサラが戻ってきてしまった。

「い、いや、これは……アシュリーが豹変しちゃって……」

「あ、あのぅ、なんのことですぅ……?」

「え……」

 俺を不思議そうに見下ろすアシュリー。もちろん俺の顔はまだ胸元にあった。おいおい、バフと同じく人格が元に戻るの早すぎだし、これじゃまるで俺が望んでアシュリーの胸に突っ込んだ変態みたいじゃないか。

「ま、まあ。リューイさんったら、大胆ですねぇ……」

「い、いや、これは……」

 急いで彼女から遠ざかるが、こんなときに限って女性ものの下着が顔に覆い被さってくるという悪循環。もう嫌だ……。

「うぅ、リューイさん、サラがいない間に酷いよ……」

「ち、違うんだ、サラ、これは……」

 気付けば俺はサラに迫られていた。なんなんだ、この展開は……。

「サラの小さな胸で我慢してっ!」

「うっ……」

 今度はサラの平らな胸に俺の顔は押し当てられていた。一体、俺は何をやってるんだ? バフを貰うんじゃなかったのか……?

「「じー……」」

「どわっ!?」

 いつの間にか側にいたシグとワドルに冷たい顔で覗かれてるし……。それから俺は事情を説明したわけだが、みんなの誤解を解くのにしばらく時間がかかった。

 ちなみに、パフパフだけじゃなくバフも気付かない間にかかってたらしく、シグが言うには俺の喋るスピードが異様に速いだけじゃなく、全体的な数値も高かったらしい。興奮してたせいか気付かなかった……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。

ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。 冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。 その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。 その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。 ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。 新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。 いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。 これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。 そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。 そんな物語です。 多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。 内容としては、ざまぁ系になると思います。 気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

処理中です...