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4話 様変わり
しおりを挟む「――ただいまー」
「お、早速帰ってきたみたいですね」
「え……」
誰か入ってきたと思ったら、とても背の小さい元気そうな女の子だった。ま、まさか……。
「シグの娘さん……?」
俺の言葉にシグはぽかんとした顔をしたあと、いかにも可笑しそうに口を押さえた。
「ププッ……し、失礼! サラは僕の娘じゃなくて、妹ですよ!」
「え、ええ……」
兄妹なのか。シグとは身長差がかなりあるので錯覚してしまった。
「も、もしかして、お兄ちゃん、仲間を連れてきたの?」
「そうそう。っていうか、サラの憧れてる『ボスキラー』のリューイ氏ですよ!」
「う、嘘……! そういえば、あの人に似てると思ったらあぁ……」
俺を見上げて目を輝かせる少女サラ。なんかこっちまで照れてくるな……。
「サ……サラのお嫁さんになってくださいっ!」
「え……」
「おいおい、サラ。それを言うならお婿さんでしょう?」
「あっ……!」
見る見る顔を赤くするサラ。よっぽど恥ずかしかったのか耳まで真っ赤だ。
「サラは商人でして、主に生産系をやってるんですよ。手芸が得意で、とても小さい椅子やテーブルなんかを作ってお金にしてます」
「えへへ、大きなものを作るのは苦手だけどねっ」
実際見せてもらったら、指先に乗せることができるほど小さな、それでいて精巧な椅子やテーブルで、その上にはさらに極小のコップや皿が置かれていた。ちゃんと水とか野菜らしきものまで入ってるし凄いなあ。商人って現実的な創造が得意なんだっけか。
「――ただいま……」
なんだ、サラとは一転して元気のなさそうな声がしたかと思うと、やたらと体格のいい男が荷物を両手に抱えて中に入ってきた。長細いパンやネギが目立つことから、食料の買い出しに行ってたっぽいな。
「おかえりですよ、ワドル君」
「リ、リーダー、こここ、この人は……?」
「……」
やたらと怯えたような表情を向けられる。こんなに大きな図体なのに気が弱いんだろうか。
「ワドル、凄いんだよ、この人、あの『ボスキラー』の一人、リューイさんなんだから!」
「え、えぇっ……!? お、おで、怖い……!」
ワドルという男の顔が一気に真っ青になり、サラの後ろでうずくまるようにして隠れてしまった。なんで俺、こんなに怖がられてるんだ……? それとも彼が怖がりなだけなんだろうか。
「リューイ氏、気を悪くしないでくださいね。彼はとても大人しくて気弱な騎士なんですが、無尽蔵の体力を持つ頼りになるタンクなんですよ」
「え、えぇ……」
無尽蔵の体力、か。騎士には体力の上がるパッシブスキルがあるようだが、シグがそこまで言うってことは体力が他の騎士よりもずっと抜けてるってことなんだろうな。ただ、これだけ気弱だといくら体力があっても壁役をするときにモンスターから逃げそうで不安になる。
「リューイさん、ワドルはね、いつもこんな調子だけど、ある一言で変貌するんだよ」
「ある一言……?」
「うんっ。ちょっと待ってね」
すーっと息を大きく吸い始めるサラ。なんだ……?
「――ウスノロー!」
「お……俺様がウスノロだと!? バカを言うな! 俺様のどこがウスノロだ! ハッハッハ! リューイとか言ったな、新しき仲間よ、歓迎するぞ!」
ワドルが立ち上がり、会心の笑みとともに言ってのけた。ウスノロって言われただけなのに、なんとも凄い変わり様だ……。
「ただいまぁー」
ほんわかとした声が聞こえてきて、まもなく一人の少女がテント内に姿を見せた。
「アシュリーさん、おかえりですよ」
「おかえりー」
「ハッハッハ、おかえりだ!」
「みなさん、残念ながら今日も成果はありませんでしたぁー……って、あれぇ、この方はぁ……?」
アシュリーと呼ばれた子が俺を見てきょとんとした顔になってる。
「そうそう、アシュリーさん。もう仲間探しはしなくていいですからね。僕が見つけてきたので」
「え、ええ……!? っていうか、この人、どこかで……」
「アシュリー、この人、有名人のリューイさんで、サラたちの仲間になったんだよ!」
「ハッハッハ! リューイは超人である俺様のようなものだ!」
「お、おぉぉ……初めまして! 私はアシュリーと申す者ですぅ!」
「ど、どうも。俺はリューイ。初めまして」
俺はアシュリーと握手を交わした。っていうかまだ仲間になるって決めたわけじゃないが、もうそんな空気になってしまってるな……。
「アシュリーさんは補助術師で、それも仲間全体のあらゆるステータスを均等に超強化できる力があるんですよ」
「おお……」
補助術師は補助術師で、パワーを上げるのが苦手だったりスピードを上昇させるのは得意だったり色々とタイプがあるわけだが、何かしら苦手な分野がある人がほとんどなのにあらゆるステータスをバランスよく、それも仲間全体に対して超強化できるなんて凄いな。範囲強化は特に上昇値に問題が出るはずなんだが……。
「でもアシュリーのバフはすぐ切れちゃうけどね!」
「ハッハッハ! 使えない小娘だ!」
「はうぅ……」
「……」
なるほど、効果時間が極端に短いのか。これだけ良い面ばかりだとやっぱりマイナス面もどこかで必ず出てくるはずだしな。それに、やたらとほんわかとしててこの人もダンジョンで大丈夫なのかと不安になる。
「ねえねえリューイさん、アシュリーもね、ある一言で人が変わるの」
「え、ええ……?」
サラがまた息をいっぱい吸い始めた。
「――追放っ!」
「ぐっ……ざ、ざけんじゃねえです。使えねえからっていちいち追放しやがって……ぶち殺してやるですうぅ……」
「……」
それまでのほんわかとした空気とは一転して、アシュリーが驚くほど邪悪なオーラに包まれていた。なるほど、ワドルと同じようなタイプか。これならすんなりと戦闘に入っていけそうだな。しかし今の一言、地味に俺にも効いたんだが……。
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