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2話 底にある希望
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幼馴染パーティーから追放処分を受け、初恋の人を寝取られて失意のどん底まで落ちた俺は、逃げるようにワープポイントでダンジョンタワーの1階まで戻ってきていた。
何もかも失ってしまって、天国から地獄へと突き落された気分だ。きっと、俺が舞い上がっていたことが悪いんだろう。無知は罪だ。あそこまでコケにされていたのに、追放されるまで気が付かなかったなんてな。
それによくよく冷静になって考えてみると、幼馴染ってだけでそんなに仲が良かったわけじゃないような気がする。所詮は他人なのに、幼馴染というだけで俺が勝手に仲間意識を持ってたのかもしれない。アリーシャに恋心を抱いていたのは本当だが、あんな醜悪な姿を見たら割り切れるしむしろこれでよかったんだと思える。
あいつらより出世することで見返してやりたいという気持ちもあるが、一人で何かできるはずもなく俺のモチベーションは底をついてしまっていた。このまま故郷にでも帰ろうかな。
「……」
大勢の人間が集まる1階の大広間、冒険者たちは目を輝かせてボスルームパネルに見入ってる様子。ここに初めて来たとき、俺もそうだったなあと思い出して感慨にふける。
「――お、おい、あいつがいるぞ! 錬金術師のリューイってやつ!」
「あ、ホントだ。確か『ボスキラー』の一人だよね!?」
「凄いですう!」
参ったな。俺の噂をされてる。けど今の自分は一人だから無力だし、自信を完全になくしちゃってるわけで、有名人だと寄ってこられてもがっかりさせるだけだ。気付かない振りをしてとっとと帰ろうか。
「でもさ、あの錬金術師、なんの役にも立ってなかったよな」
「そ、それは失礼よ! 確かにいてもいなくても一緒っぽかったけど、ただのお荷物系だったんでしょ!」
「なるほどー。一人でここにいるし、追放されちゃったのかもですねえ」
「「「アハハッ!」」」
「……」
なるほど、これが俺に対する本当の評価だったのか。確かに地味だとは思うが、ここまで侮られると悔しいもんだ。お前たちに何がわかる。
81階でウォーレンが瀕死に陥ったときだって俺がポーションを即座に投げてなきゃ死んでるし、セシアを踏み潰そうとした93階のボス、ギガントゴーレムに対しては俺の劇薬でとどめを刺した。これは氷山の一角で、威力は確かに低いかもしれないが所々での判断の早さは誰にも負けてなかったのに……。
まあ、もう何もかも終わったことだ。俺がここに一人でいることを見られたことで、『ボスキラー』のパーティーを追放されたという噂もいずれ大々的に広まるだろうし、俺がこれからどうあがこうと仲間すら作れずに終わることだろう。
俺は失笑が上がる中、ダンジョンタワーの出入口に向かって歩き始めた。100階まで上り詰めることができただけでもよかったんだと前向きに捉え――
「――あの、そこの人、ちょっといいですかね?」
「……」
「そこの錬金術師さん!」
「……」
「あの『ボスキラー』のリューイ氏ですよね!?」
「……ん?」
なんだ、また冷やかしか? 振り返ると、盗賊っぽい格好をした男が感激した様子で駆け寄ってきて俺の両手を握ってきた。な、なんだ……?
「やっぱりそうでしたか! いやぁ、リューイ氏にこんなところでお会いできるなんて誠に光栄ですっ!」
「……」
また上げて落とす魂胆か。あいにくもう相手にする気力もないんだよな。
「でも、なんでこんなところにいるんですかね……?」
わかってるくせに。
「俺は無能だからってパーティーを追放されたんでな。精々仲間内で話の種にして笑ってくれ。じゃあな」
「え、えぇっ……!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「……」
なんだ、やたらとしつこいやつだな。まさか男が好きで俺が好みだったとかじゃないよな……。
「リューイ氏が無能だなんて、とんでもないことです! あなたがいなければあのパーティーは『ボスキラー』とは呼ばれてないし、むしろ圧倒的に有能なのに……!」
「お、俺が圧倒的に有能だって?」
この男のなんともいえない慌てよう、嘘をついてるようにも見えなかった。一体どういうことなんだ……?
何もかも失ってしまって、天国から地獄へと突き落された気分だ。きっと、俺が舞い上がっていたことが悪いんだろう。無知は罪だ。あそこまでコケにされていたのに、追放されるまで気が付かなかったなんてな。
それによくよく冷静になって考えてみると、幼馴染ってだけでそんなに仲が良かったわけじゃないような気がする。所詮は他人なのに、幼馴染というだけで俺が勝手に仲間意識を持ってたのかもしれない。アリーシャに恋心を抱いていたのは本当だが、あんな醜悪な姿を見たら割り切れるしむしろこれでよかったんだと思える。
あいつらより出世することで見返してやりたいという気持ちもあるが、一人で何かできるはずもなく俺のモチベーションは底をついてしまっていた。このまま故郷にでも帰ろうかな。
「……」
大勢の人間が集まる1階の大広間、冒険者たちは目を輝かせてボスルームパネルに見入ってる様子。ここに初めて来たとき、俺もそうだったなあと思い出して感慨にふける。
「――お、おい、あいつがいるぞ! 錬金術師のリューイってやつ!」
「あ、ホントだ。確か『ボスキラー』の一人だよね!?」
「凄いですう!」
参ったな。俺の噂をされてる。けど今の自分は一人だから無力だし、自信を完全になくしちゃってるわけで、有名人だと寄ってこられてもがっかりさせるだけだ。気付かない振りをしてとっとと帰ろうか。
「でもさ、あの錬金術師、なんの役にも立ってなかったよな」
「そ、それは失礼よ! 確かにいてもいなくても一緒っぽかったけど、ただのお荷物系だったんでしょ!」
「なるほどー。一人でここにいるし、追放されちゃったのかもですねえ」
「「「アハハッ!」」」
「……」
なるほど、これが俺に対する本当の評価だったのか。確かに地味だとは思うが、ここまで侮られると悔しいもんだ。お前たちに何がわかる。
81階でウォーレンが瀕死に陥ったときだって俺がポーションを即座に投げてなきゃ死んでるし、セシアを踏み潰そうとした93階のボス、ギガントゴーレムに対しては俺の劇薬でとどめを刺した。これは氷山の一角で、威力は確かに低いかもしれないが所々での判断の早さは誰にも負けてなかったのに……。
まあ、もう何もかも終わったことだ。俺がここに一人でいることを見られたことで、『ボスキラー』のパーティーを追放されたという噂もいずれ大々的に広まるだろうし、俺がこれからどうあがこうと仲間すら作れずに終わることだろう。
俺は失笑が上がる中、ダンジョンタワーの出入口に向かって歩き始めた。100階まで上り詰めることができただけでもよかったんだと前向きに捉え――
「――あの、そこの人、ちょっといいですかね?」
「……」
「そこの錬金術師さん!」
「……」
「あの『ボスキラー』のリューイ氏ですよね!?」
「……ん?」
なんだ、また冷やかしか? 振り返ると、盗賊っぽい格好をした男が感激した様子で駆け寄ってきて俺の両手を握ってきた。な、なんだ……?
「やっぱりそうでしたか! いやぁ、リューイ氏にこんなところでお会いできるなんて誠に光栄ですっ!」
「……」
また上げて落とす魂胆か。あいにくもう相手にする気力もないんだよな。
「でも、なんでこんなところにいるんですかね……?」
わかってるくせに。
「俺は無能だからってパーティーを追放されたんでな。精々仲間内で話の種にして笑ってくれ。じゃあな」
「え、えぇっ……!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「……」
なんだ、やたらとしつこいやつだな。まさか男が好きで俺が好みだったとかじゃないよな……。
「リューイ氏が無能だなんて、とんでもないことです! あなたがいなければあのパーティーは『ボスキラー』とは呼ばれてないし、むしろ圧倒的に有能なのに……!」
「お、俺が圧倒的に有能だって?」
この男のなんともいえない慌てよう、嘘をついてるようにも見えなかった。一体どういうことなんだ……?
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