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1話 まさかの追放
しおりを挟む「最高の景色だね、アリーシャ」
「だねっ、リューイ」
幼馴染の回復術師アリーシャと俺は笑い合う。
遂に自分たちのパーティーはダンジョンタワーの100階までたどり着いた。思えばここまで、あっという間だった気がする。
1000階まであるとされ、その先は天界へ続くとも噂されるダンジョンタワー、通称『天国の塔』。ありとあらゆる冒険者たちが最後に行き着く場所と言われるほど人気が高いが、その通称通り難易度や死亡率がとても高く、475階が人類の最高到達階層だという。
この記録がおよそ1000年前に刻まれてから現在まで未だに破られておらず、現在進行形で300階が限界だとか。
「確か、2000年くらい前からあるんだっけ、このダンジョン」
「うん、歴史あるよね」
それだけの歴史がある中、475階層が限界だったわけだ。神様が作ったとも言われてるが、詳しいことはわかってない。ただ、自分たちのパーティーが一流の冒険者の証とも言われる100階層まで到達したこと、それだけは確かなんだ。
しかも後半の階層からは最速タイムで攻略したっていうおまけつきで、今いる100階の大広間中央、1000枚並ぶボスルームパネルの71から100までは、いずれも俺たちがボスを倒すシーンが映し出されていた。
1階の大広間でも見られるこのパネルにはどれも最速タイムで攻略したパーティーが映る仕組みで、誰も倒してない場合は何も見られない仕様になっている。
パネルに映ったことで俺たちもかなり有名になったらしく、通りすがりの冒険者たちから『ボスキラー』と祭り上げられたほどだ。このパネルに映る猛者たちの中でも特にボスを倒すスピードが速かったためらしい。
「最初はどうなるかと思ったけど、俺たち急成長したよね」
「そうだね。みんな、頑張ったから……」
アリーシャが微笑む。俺もその中の一人だけど、人一倍頑張ったという自負はあるつもりだ。何故なら、パーティーには戦闘系、回復系、補助系、探索系、生産系、荷物系と役割が色々あるわけだが、錬金術師である俺はこのうち戦闘系、回復系、生産系、荷物系の四つを兼ねていたからだ。
ただ、戦闘に関しては改良を重ねたものの威力の低い劇薬ばかりできるし、回復にしても投げるポーションは普通すぎる効果だし、生産系に至っては栄養満点だがゲロマズとしか言われないドリンクや料理ばかり作ってしまう有様。
それでも荷物系としてはスムーズにやれたんじゃないかと思う。一番軽視されがちな役割だが、錬金術師にはキャパシティを拡張できるパッシブスキルがあり、所持している器に荷物を余分に入れることが可能になるんだ。
さらに異次元ホールというアクティブスキルがあり、ダンジョン内で休憩したいときはそうした安全地帯でテントを張って休むことができる。攻略スピードが速すぎて今までは必要なかったが、今後マップが広くなるにつれて必要になるときは出てくるはずだ。
しかし俺としては今のままで満足してはいけないと思ってるし、もっとみんなの役に立てるように様々な分野で試行錯誤と改良を重ねていくつもり――
「――おーい、リューイー、アリーシャー」
「「あっ……」」
俺の幼馴染の一人、探索係を担当する盗賊のカイルが遠くから声をかけながら近寄ってきた。
「リーダーがお呼びだぜー」
「え、なんだろう……?」
「さあ……」
俺はアリーシャと怪訝そうな顔を見合わせる。確か、200階目指して準備に時間をかけるから三日間は出発しないって言ってたような。
なんせ、転送ポイントは大広間同様に100階ごとにしかなく、戻る場合はとても長い階段を下りていかないとけないので、いちいち戻って補給なんていう手間を省くために念入りに準備をする手筈だったんだ。
あれかな、急遽予定が変わったんだろうか? とにかく向かってみることにしよう。
ホールの片隅にパーティーの溜まり場があって、俺たちはしばらく歩いてそこにたどり着いた。自分の作った魔道具のテントで場所取りしてあるんだ。見た目は小さいが、中はホテルの一室くらいの広さがある。
中に入ると、幼馴染で一番付き合いの長い魔術師のウォーレン、その姉の補助術師セシア、それに……なんだ? 見慣れない子がいる。誰かの知り合いだろうか。目が合ったので俺が会釈すると、普通に無視された。美人だけどなんか感じの悪い人だな……。
「やあ、リューイ。早速だけど、君を追放する」
「あ、うん……って、え……? つ、追放……!?」
「へっ、さも意外そうな反応してんぜ、リューイのやつ」
後ろからカイルの笑い声。いつもの明るい調子じゃなく、陰湿さを感じさせるものだった。
「こいつ、どうしようもない無能なんだから覚悟くらいしてると思ってたわ、あたし」
セシアが目を細めて薄く笑ってる。元々口が悪い人だが、毒の成分がずっと増していた。
「あ、そうそう。リューイ、君の代わりも既に入れておいたよ。錬金術師のレビーナだ」
「よろしくー……って、言う必要はないですかね。リューイさんでしたか、あなたよりずっと役に立てると思いますのでどうかご安心を」
「……」
俺は突然のことに理解が追い付かなかった。そりゃ、みんなに比べたら俺は有能とはいえなかったのかもしれない。けど、足を引っ張ってたわけじゃないし、何よりレビーナという女の人を除いてみんな幼馴染なのに、こうもあっさり追放されるとは思わなかったんだ……。
「いい加減、邪魔」
「……え?」
その台詞が、自分のすぐ隣にいる初恋の相手から発せられたものだと気付くのに少し時間がかかった。
「アリーシャ?」
「早く出ていってよ、リューイ」
「そ、そんな。冗談だろ……?」
今までそんな素振りなんて一切見せなかったのに、どうして……。
「アリーシャ、こっちにおいで」
「うん、ウォーレン、そっちに行くねっ」
「……」
アリーシャがウォーレンのところまで歩いていったかと思うと、躊躇なく体を絡ませながら唇を交わし、周囲からヒューヒューという冷やかしの声が上がった……。
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