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第三二話 傲岸不遜

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 変装したままの俺たちを含む大勢の国民が見守る中、今まさに国王陛下のリヒャルテ十三世――ダビル=リヒャルテ――の国葬が執り行われようとしていた。

 こんな結果になってしまったが、俺としてはやるべきことはやったんだと確信している。

 俺自身、これでいいのかと思うところもあったが、が納得してくれたことだ。なので振り返ることはもうこの辺でやめにしよう。

 国王の葬儀というだけでなく、これから民に対する女王の演説もあるそうで、周囲には山のような人だかりができていた。

 さすがにここからだと、宮殿のバルコニーにいる女王や大臣の表情までは見えないが。

「うがっ……ハワード、あの頭を地面に擦りつけてた変な人間、笑ってます。変なのです」

「……まあそうだろうな」

 あの男が笑顔なのは容易に想像できることだ。ハスナの超視力は羨ましい反面、そういった薄汚い面をわざわざ目に入れなくて済むから、そういうところまで無駄に神精錬してなくてよかったとも思う。

「くんくんっ……。大臣のほうからうっとりするような甘い香りがするの……」

「……香水? いや、そんなガラでもないだろうし、おそらくワインでも浴びるように飲んだんだろうな」

 この距離からそんなことまでわかるとは、さすがシルルといったところか。それがわかるくらい飲んだってことの証明でもあるんだろうが。

「うぬう。よくもこのようなときに酒などたらふく飲めるものだ……!」

 シェリーが軽く地団駄を踏んでる。大臣はあれから王様が亡くなったと聞いて派手に盛り上がったんだろう。そうなれば口元を引き締めようとしても勝手に緩むか。まあ今のうちに喜ばせておけばいい。

 ――お……周囲が一層ざわめき始めたかと思うと、それが最高潮に達したあと、波が引くように徐々に静まっていくのがわかった。どうやらそろそろ女王の演説が始まるみたいだな……。



 ◆ ◆ ◆



「私はリヒル=リヒャルテ。この場に集まってくださった全ての者たちに感謝を述べる。国王陛下が崩御なさった今、副女王であり第一王女でもあるこの私がリヒャルテ十四世として王の座を引き継ぐことになった。至らぬところも多々あるだろうが、どうか王として成長するまでの間、温かく見守っていただきたい……」

 少しの静寂のあと、割れんばかりの拍手が巻き起こる。

「「「「「……」」」」」

 その様子を、ぽかんとした表情で見上げる者たちがいた。

「あ、あれが女王様ってマジッ!? リヒルちゃんのチャームポイントの吃りも咳もないし、なーんか別人みたいだあ……」

「よく似た影武者なんじゃないの?」

「だなあ、女王らしくもねえし」

「ほんとほんとっ」

 そこにいるのは勇者ランデル、魔術師ルシェラ、弓術士グレック、治癒師エルレの四人であり、周りに押し寄せている国民たちとは区別された特等席のテラスでゆったりと寛いでいるところであった。

「――であるからして……コホッ、コホッ……! し、失礼、した……」

「あっ、僕だけのリヒルちゃんが遂に本領発揮っ! かわいー!」

「ハッ……どうやら本物だったみたいね。てかあれも同情を買おうっていう魂胆見え見えだし、全部計算のうちなんでしょ。相変わらず狡賢くて嫌な子ねぇ……」

「まあまあ、ルシェラさん、言わせといてやろうぜ。あんなんじゃどうせ長生きはできねえだろうし」

「そーそー! 折角王様になれたのに、すぐ死んじゃう運命なんてえ……あまりにもかわいそーで惨めだよお! きゃっきゃ!」

 女王の演説について大いに盛り上がるランデルたちだったが、少し経って周囲の異様な静けさに押し出されたかのように沈黙に包まれることとなる。それは、リヒルが再び喋り始めてからまもなくのことであった。

「この通り……私の体は脆弱だ。このような大事なときでさえも、言葉に変調をきたしてしまう。そこで、。家柄にはこだわらず、国を背負って立つことができるような偉大な方を、私は心から求めている。では、これにて……」

 リヒルの演説は反響を呼び、彼女が立ち去ったあともずっと、うねるようなざわめきが民の間をしばらく往復するのだった。

「ねね、今の聞いた聞いたっ? リヒルちゃんってばあ、僕のお嫁さんになるの確定してるのに旦那様募集中だって! これはちょっとばっかしお仕置きが必要かもねえ……?」

「呆れたわ。ランデルとの縁談の話はとっくに来てるはずなのに、それじゃ不満ってわけ? リヒルって本当に傲慢なのね。あるのは血筋だけで、ほかには何もないくせに」

「ま、女王様の最後の悪あがきだと思って生温かく見守ってやろうぜ。ランデルを選んでもらわねえと困るし、邪魔な王様が消えて道筋もできてるしな」

「うんうんっ、無駄なあがきってやつぅー? 赤ちゃんできて追放されちゃったファリアって子みたいにランデルお兄様にやり捨てされてあえなく病死確定っ。チャンチャンッ」

 ランデルたちに焦りの色は皆無だったが、やがて風に乗って国民たちが囃し立てる声が彼らの耳に届いた。

「みんなさ、きっと僕のことを噂してるんだろうねっ」

「そりゃ、迷宮術士なんて相手がいる以上、国民にとってはランデルだけが頼りだもの。当然よ」

「ちょっと黙って聞いてみようぜ」

「だねっ」

 余裕の表情を浮かべるランデルたちだったが、まもなく一様に凍り付くこととなる。

「名前はど忘れしてしまったが……あの伝説の鍛冶師の孫こそ、リヒル様の伴侶として相応しいとわしは思う!」

「爺さん、それはハワードだろ! 確かにあいつなら王になれる素質があるなっ!」

「神の手ハワードッ!」

「「「「「神鍛冶師ゴッドブラックスミスっ!」」」」」

「え、ハワードって……な、なんであの糞無能の名前がここで出るんだよ……!?」

「嘘。あの男は落ちぶれて故郷の町に帰ったはずじゃ……?」

「じゃ、じゃあは本当だったのかよ……」

「ふぇっ!? グレックお兄ちゃん、あの噂ってえ……?」

「それがよ、迷宮術士にダンジョン化されたっていう町を、ハワードに似た男が救ったって言われててよ……」

「「「「なっ……!?」」」」

 グレックの言葉に対し、ランデルたちは互いにこの上なく驚愕した顔を向け合うのであった……。
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