パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

文字の大きさ
上 下
114 / 130

114.つながりあう世界

しおりを挟む

「スピカアアアアッ!」

「「「スピカッ!」」」

 間に合うはずもなかった。ルベックがしたり顔で投げた短剣は、俺たちの悲鳴すら切り裂くようにしてまっすぐスピカの背中へと向かっていった。ボスに意識が傾いている今の彼女には、いくら余裕があろうと避けるのは難しいだろう。

 俺は仲間を守ることができないというのか。このまま死なせてしまうというのか……。

 スピカと初めて会ったときのことが思い出される。とてもほんわかとした雰囲気で、それでいて不思議な空気を持った少女だった。俺を幼馴染と重ね合わせているところもあったのだろうが、本当に親しくしてくれた子だった。

 ほんの一瞬の間なのに、とても長く感じた。思い出というものは、時間すら超越して心に強く訴えかけてくるものだと改めて痛感させられる。日常における一つ一つの何気ない事柄が、あとからいかに大切なものだったのかこれでもかと気付かされるのが人間だが、俺もそうなってしまうというのか? そんなの嫌だ……。

 おのれ、『ウェイカーズ』め……お前たちだけは何がなんでも許しはしない。俺の心が真っ赤に染め上がろうとしているとき、この目に衝撃的な光景が飛び込んできた。

「……ス、スピカ……?」

 今まさにスピカの背中を貫こうとしていた短剣が寸前で消えたのだ。

「――なん、だと……? どうなってんだよ、畜生……」

 ルベックの顔が見る見る凍り付いていくのがわかる。確かにやつの投げた短剣はスピカの背中に一直線に向かっていったはずだ。

「……あ……」

 俺の近くで何か煌めくものが転がっているのが見えた。これは……間違いない。ルベックの投げた短剣だ。何故そんなものがこんなところに? やつが投げた方向とはまったく違うし、ほぼ逆だぞ……。

「――ク、クソがああぁっ!」

 しまった。ルベックが外したということをようやく理解できたのか、スピカのほうに猛然と向かっていく。

《ワープ》を彼女のほうに出そうとするが、出ない。二つ出ているからか。時間は置いてるわけだから、それ以上は置けない可能性が高い。いや、そんなんであきらめられるか。俺は近くの《ワープ》を《幻草》に変化させると、スピカの背後に新しく《ワープ》を置いた。

「……は……?」

 やはりそうだ。スピカ近くの新しい《ワープ》を踏んだルベックは、最初に置いたワープゾーン――スピカのずっと後方にある古い《ワープ》――から出てきた。

 俺はさっきの要領でスピカの背後付近の《ワープ》を《幻花》に変えて、まもなく古い《ワープ》が消えるタイミングでルベックの足元に最新かつ単一の《ワープ》を置いてやると、あっさり引っ掛かってどこかへ消えてくれた。

 バニルたちからほっとした声や歓声が上がる中、グレスたちが一様に呆れ顔で立ち去るのがわかる。またしてもルベックの元へ合流に向かうんだろう。実にいい気味だ。

「……」

 俺はルベックの短剣を拾う。さっきから、これで何か凄いことをひらめきそうな予感がしていた。《ワープ》と《ワープ》はつながっている。二つのみ出せる。これで何かいいアイデアが生まれそうだったんだ。

「セクト、難しい顔してどうしたの?」

「どうしたのよ、セクト」

 バニルとルシアに心配そうに話しかけられる。

「ちょっとね、考え事」

「そっか……」

「どうせエッチなことでも考えてたんでしょ!」

「ルシア、俺はどんだけ気持ちの切り替えが早いんだよ……」

「ふふっ……」

「お、男の子ならそんなものでしょ! ふんっ!」

「……」

 ん? 待てよ、切り替えが早い……? そうだな、《ワープ》は二つ以上出せないが、さっき俺がやったみたいに《幻草》とかに変えれば、すぐに別の場所に出せる。これを何かに活かせそうな気がするんだが、もうちょっとのところで出てこない……。ん、ミルウが俺の後ろに隠れた。

「セクトお兄ちゃん……ミルウ、さっきは怖かったあ。急にその短剣が近くに飛んできたから……。あんなのボスでも避けられないよお……」

「そうだな、いきなり出てくればボスでも避けられない……」

 俺はミルウの言葉に相槌を打ったとき、はっとなった。

 これはボスの討伐に使えるかもしれないぞ。《ワープ》を通してボスに攻撃すれば《反発》の影響を受けない可能性がある。それどころか、これを上手く応用すれば『ウェイカーズ』の攻略にも使えそうだ。一気に色んな問題が解決し始めたな……。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

処理中です...