パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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107.完全と脆弱

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 バニルたちの動静に俺は勇気を貰いっ放しだった。

 霧の中、大ボスに対して孤軍奮闘するバニル、うつ伏せになって寝込んだまま地面に爪を立てるスピカ、優しさを湛えたルシア、ミルウの寝顔……みんなの真摯な気持ちに胸を打たれる。

 これらの光景が俺の血や肉の一部となり、大きな力として変換されていくのがわかった。今は言葉なんていらなくて、ただ彼女たちのこうした姿を見るだけで充分なんだと感じる。何も言われなくてもそれだけの説得力があるように思えるからだ。

 仲間に裏切られて崖から突き落とされ、人間不信になってもおかしくないあの状況で、俺は彼女たちを信じたいと思う自分を信じられたからこそここまで辿り着くことができたわけで、そうさせてくれるほど彼女たちは優しく接してくれた。

 狂戦士症に対する怖さは凄くあっただろうが、それを感じさせなかったのは病に対する理解もあったからなんだろう。俺は少し弱気になっていたが、みんなの懸命な姿に励まされたからか心が上昇していくのがわかった。

「うっ……」

 まず、俺は《エアクラップ》を自分に使ってさらに気合を入れる。本当に張り手をされてるような感覚で、予想よりとても痛くて驚いた。

「バニル!」

 伝えたいことがある。バニルの動きは悪くなっていく一方だが、それでも凌いでいる。まだ大丈夫なように見えるが、俺にはわかるんだ。最早彼女はギリギリの状態で、切れそうなロープの上で踏ん張っているような危険な状況なんだと。

 ファーストガーディアンの俊敏すぎる攻撃は、バニルに動きを《補正》させる隙さえ与えてくれそうにない。だから……今言わなきゃいけないことがある。

「セクト、私なら大丈夫っ!」

「……」

 さすがはバニルだ。声色に悲壮感がまったく感じられない。むしろ、安心させるかのような明るい声。だからこそ不安なんだ。そんな危うい状況で気配りができるその完璧さが……。

「無理はするな!」

「……え?」

 バニルは、信じられないといった顔をした。ここからじゃ顔は見えないが、気配でわかる。まさか、頑張れという言葉じゃなくてその逆だとは思わなかったんだろう。

「敵は、何もしないことで重圧をかけて、俺たちを焦らそうとしている。だから、逆にそれを利用してやるんだ!」

『ウェイカーズ』に聞こえない程度に音を絞って、俺はバニルに思いの丈をぶつけた。聡明な彼女ならわかるはずだ。俺の言う『敵』が大ボスのことではなく『ウェイカーズ』のことで、逆に利用するということが何を意味しているのか……。

 おそらく、もうすぐ動きがあるはず。今後の展開を左右するような大きな動きが……。そうであれば、やつらとの戦いを占える《成否率》が使えると考えていい。

『ウェイカーズ』は、バニルが明らかにミスを犯して防戦一方に回るようであれば、ルベックを派遣してくるはずなんだ。混乱に乗じて俺を拉致するために。あいつの向かってくる速度は尋常じゃなかった。だから今回もおそらく……。俺はルベックが自分の元に突っ込んでくる確率を調べてみた。

「……えっ……」

 はっとなる。ゼロ、だと……? それに限りなく近い数字が出ている。やつらの狙いは俺じゃなかったっていうのか……?

「――クソセクトオオオオォッ!」

「……」

 ルベックの声はすぐ近くから聞こえてきた。俺は、一か八かバニルのほうに《ワープ》を出現させると、ルベックが一直線に飛び込んで消えたのがわかった。

 危なかった……。まさか、俺じゃなくてバニルが狙いだったとは……。彼女はルベックの固有能力を基本スキルの《調査》で調べただろうから、邪魔だと感じて始末しようとしたんだろうか。あるいは、人質にでもするつもりだったか。俺をオモチャ扱いしてるあいつらのことだし、後者の可能性のほうが大きそうだな。

「セクト、ナイスだよっ!」

 バニルの声が弾んでいるのが逆に心配になる。滅茶苦茶疲れててそれどころじゃないだろうに……。それでも、一気に俺たちとの距離を詰めることが可能なルベックが去ったことがあいつらにとって痛手になったらしく、一斉に引き上げていくのがわかった。これでしばらくはボスとの戦いに専念できるというわけだ。

「……バニル?」

 なのに、どういうわけかバニルの動きは急降下するようにどんどん悪くなっていった。まるで体に力が入らないかのように。一体どうしちゃったんだよ。体力に限界が来たってことか? これじゃ、もう……。

「バ……バニルウゥッ!」

 俺は気付いたら走り出していた。こんな体じゃどうにもならないけど、それでも理屈じゃなかった。バニルをなんとしても助けたくて、体が勝手に動いていた……。
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