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105.靄の中
しおりを挟むグレス、ルベック、ラキル、オランド、カチュア……霧のために目では見えないが、気配察知能力によって『ウェイカーズ』のやつらの姿を確認できた。
目線が低いことから、丘のような高いところで俺たちを見下ろしているようだ。そういや、今気付いたがオランドの髪はどうしたんだ? 完全になくなってる……。傷跡が目立つし、モンスターに頭を噛みつかれたんだろうか。どうでもいいが。
前回はルベックだけで奇襲してきたが、今回は全員揃っているのにこれ以上近付いてくる気配がない。一体何を考えているのやら、首を傾げるばかりだ。
俺はまだあいつらに勝てる方法なんて浮かんでないし、もしやつらが攻めてくるならまた《ワープ》を使いたいところだが、このタイミングではまだ使用できない。
やつらが邪魔をしてこなければ、このままバニルがボスを倒すことだってあるかもしれないからだ。
少しずつカウンターアタックで削っていくやり方なので大したダメージは出てないのかもしれないが、俺が狂戦士症になったことでかなり減らしてるはずだからな。もっとも、それ以上にボスがタフな可能性もあるわけだが……。
「――ルシア、ミルウ。何かあったときに備えてスピカを頼む」
俺は気を失っているスピカを抱えて二人の元に歩み寄った。
「……セク、ト……?」
「セクトお兄ちゃん……?」
「俺たちは今、例のパーティーに監視されてる」
「「ええ……?」」
「だから、何かあったら俺がこの辺に《ワープ》を出す。そのとき、スピカも一緒に乗せていってくれ」
「……で、も……」
「それだと、またバニルが取り残されちゃうぅ」
「大丈夫だ。今回はスピカがこういう状態だって知ってるし、すぐ来てくれる」
「「う、うん……」」
問題は《ワープ》を使うタイミングだ。本当は今すぐにでも使いたいところなんだ。何故なら、バニルも俺のように気配が読めるらしくて『ウェイカーズ』が来たことによる焦りなのか動きが明らかに悪くなってるしな。
けど、だからってここで《ワープ》を使うのはリスクもあるんだ。それだけボスの動きが迅速になっていて、ちょっとしたことがきっかけになってバニルがやられる可能性だってあるわけだから、出すタイミングも重要になってくる。もちろん、今のままでもリスクはつきまとうが。俺は一体どうすればいいのか……。
◇ ◇ ◇
「いやあ、あのバニルっていう子、凄いねえ。一人でボスと対峙できるなんて……」
ラキルが心底感心したように呟く。
「へっ、全然大したことねえよ、あんなの」
広大な墓地の中、少し小高い丘のような場所に『ウェイカーズ』の面々は陣取り、『インフィニティブルー』のバニルと大ボス――ファーストガーディアン――が戦う様子を、ラキルとルベックが対照的な態度で眺めていた。
霧で見えにくい状態ではあったが、時折吹き抜ける風によってバニルがボスと戦う姿やセクトたちの動静も垣間見ることができたのだ。
「んー……確かに動きは悪くなってきちゃったようだねえ。僕たちが来たときは、互角かそれ以上だったのに、どんどん押されてる。こんなに急に変わっちゃうなんて、それだけ僕たちを意識してるってことかな?」
「それが本来の実力なんだろ。重圧に押し潰される程度のクソチキンってことじゃねえか。喧嘩じゃ一番弱いタイプのゴミだ。てかラキル、このまま呑気に構えてていいのか? このままじゃあのクソアマにボスを倒されるかもしれねえだろうが」
「その言い方だと、あの子を認めちゃってるみたいだけど……」
「あ、あくまでもまぐれでだ!」
「あははっ。それなら心配してないよ、ルベック。あの中でどうやらまともに戦えそうなのはバニル一人だけみたいだし、そんな彼女も僕たちが来たせいか露骨に動きが悪くなってる」
「だったら、今突っ込めば……」
「いや、セクトもそれは警戒してるはず。もう少し相手が焦って崩れ始めてからでいいよ。それまで重圧をかけ続けるんだ」
「ったく、じれったいぜ。早くオモチャのクソセクトの前であんのクソアマのハラワタ引き摺りだしてやりてえってのによお……」
「涙が出るくらい、感動的だろうねぇ」
「ククッ、まったくだ……うぎゃっ!」
空気を察してゾンビ化していたオランドの首がルベックに斬られて転がり、墓の前で立ったまま絡み合うグレスとカチュアの足元で止まった。
「ひひっ……カチュアぁ……墓場で抱き合うのも趣があるなぁ……」
「ですねぇ……」
「「ちゅー……」」
「……グ、グレスしゃま……」
オランドの腐った首は、ここが墓地なためにまったく違和感がなく、笑い声や喘ぎ声が上がっていたこともあって二人に気付かれることはなかった。
「……チッキショウ……。俺は必ず逆転する……。セクト……お前は絶対に俺よりも下になる運命なのだ。下にならなければならなあい……クククッ……」
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