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104.反撃の狼煙
しおりを挟む「オォォッ……」
面白いように敵の動きがよくわかる。それまで防戦一方だったが、俺は完全に攻勢に転じることができていた。
獲物に傷を与えるたびに自身にほとばしる痛みさえも心地いい。順調だ。着実にダメージを与えて追い込めているのがわかる。やつの動揺が目に見えるかのようだ。
激痛を恐れるどころか望んでいるかの如く、常に最大限の一撃を打ち込んでいく俺に対して、大ボスでさえも天敵を前にした小動物であるかのように震えているのだ。
実際、俺が狂戦士になってからというもの、ボスはこのままではやられると判断したのか、攻撃ではなく守りに徹している。タフで素早い上に賢さもあるというわけか。
それでも、狂戦士という武器の前ではどんな鎧も意味がないといわんばかりに、俺が体全体で攻撃するたびに双方の血が流れ落ちるのがわかる。
あとは俺の体がというより、狂戦士症がどれだけ持つかだ。もう少しでいいんだ。頼む、維持してくれ……。そうすればやつを倒せるし、バニルたちだって帰還できる。『ウェイカーズ』の討伐は持ち越しになるとはいえ、みんな揃って元の日常に戻ることができるんだ……。
『……』
だが、やつは最後まで倒れなかった。俺が元に戻るまでじっと息を潜めるかのように大人しかったやつが、逆に牙を剥いてきた。
「……セク、ト……!」
「セクトお兄ちゃん!?」
ルシアとミルウが悲痛の声を上げるのも無理はない。俺はもうボロボロの状態であることが誰の目にも明らかだったからだ。しかもファーストガーディアンのスピードはさらに上昇しているのがわかるし、こうなると気配察知能力だけでは到底耐えられるものではない。
「心配、ない……」
俺は笑っていた。再び防戦一方になったことで、どうすればより上手く回避できるかに考えを絞ることができたし、その結果唯一の希望を掴むことができた。アレを使えばいいんだ。
宿舎の倉庫で眠っていたステッキを【変換】することによって得た派生スキル《バランサー》だ。
最早意識さえ朦朧としている状況なのに俺が未だにとどめを刺されていないのは、とにかくこのスキルの使用を繰り返すことでバランスがよくなり、受け身も取れてダメージを最小限に抑えることができているからだ。
これは《シール》のように自身に対して使用されるスキルなので《反動》の影響は当然受けないし、防御に関してはバニルの派生スキル《補正》に近い能力であるといえた。
……ただ、やはり厳しかった。ほんの少しずつとはいってもダメージは受け続けているわけで、俺は徐々に意識を閉ざそうとしていた。とても眠い状況でまぶたが重くなるのと似ている。抗うことさえできそうにない。もう、ダメか……。
「――セクト!」
「……あ……」
これは夢か現か幻か。霧の中からバニルの声が……。
「しっかりして!」
「……バニ、ル……?」
「あとは私がっ!」
ま、まさか……いや、俺にかかる負担が明らかに軽減されているのがわかるし、これは夢でも幻でもないようだ……。
動けなくなった自身の体とは対照的に覚醒していく意識の中、俺はバニルがボスと戦う姿をぼんやりと眺めていた。やはり間違いない。戻ってきたんだ。ってことは……。
「ごめん、なさい……」
汗だくのスピカが立ち上がっていて、いつものように穏やかに微笑むと倒れ込んだ。
「スピカ……!」
「迷惑をかけて、ごめんなさい……」
「いいんだ、もう休め……」
「……はい」
酷い熱だ。こんな状態で《招集》してくれたんだな……。気を失ったスピカに自分の上着をかけてやる。肩口が破けてるし、元々継ぎ接ぎだらけのボロだが何もないよりはいい。
「……ス、ピカ……あり、がと……」
「スピカ、ありがとお……」
ルシアとミルウが涙ぐんでスピカの健闘を讃えている。
「ルシア、ミルウ……二人ともきついだろうが、バニルにも声かけ頼むよ」
動けるようになるまではバニルに頼るしかない。
「……うん。バニ、ル……頑張って……」
「任せてっ。頑張ってえ、バニルうぅっ……!」
「……」
声が小さいな……。立て続けに窮地へ追い込まれたことや怪我をしたことが影響したのか、ルシアは夢想症にならないしミルウも元気がないし仕方ないか。じゃあ俺が代わりに声を振り絞って応援を……ん?
ルシアとミルウは当初懇願するような表情でバニルの戦いを見ていたんだが、まもなく様相が変わり、二人とも呆然とした顔になっていた。一体どうしたのかと思って俺もバニルのほうに視線を預けたわけだが、霧の中に半分ほど隠れているにもかかわらず彼女の世界に引き込まれた。
……とにかく的確だったんだ。それ以上に表現のしようがないくらいに、バニルは相手の攻撃に即座に反応し、カウンターアタックを仕掛けていた。時間はかかるかもしれないが、あれならほぼ確実にダメージを与えつつ、自身に対するダメージ――《反発》――を抑えることができるだろう。
もっとよく観察していると、彼女の動き自体がトラップなんだと気付かされる。単調で派手さもないがこれこそカウンターアタックの基本であり、【反射】という強力な固有能力を持つ大ボスに対する有効な作戦なんだ。
「――なっ……」
だが、そんな状況に水を差すようなことが起きた。
……やつらの気配だ。『ウェイカーズ』の面々がこっちに向かってくるのがわかった。今度はルベックだけじゃなくて全員いる。連中はここから近くも遠くもない、ある程度の距離まで迫ると急に動きを止めた。なんだ……? これ以上近寄らないのか。一体何を考えている……。
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