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103.無慈悲な真実
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「……バニル、か……」
ステンドグラスに柔らかな朝陽が滲み、神々しい空気に磨きをかける礼拝堂にて、カルバネの小さくも芯のある声が響く。
奥にアルテリスの女神像が飾られた祭壇があり、長椅子が幾つも並ぶ聖域の中心にはおびただしい血痕と魔鉱石が転がり、剣を持ったカルバネが仰向けに倒れていて、傍らではぼんやりとした表情のバニルが床に両手をつく形で座り込んでいた。
「カルバネ、どうして……」
「……げほっ、げほぉっ……。パッ、パーティー、ブレイカーだ……。やつに、やられた……」
「そ、そんな……」
「うぐっ、ぐほぉっ……!」
咳き込むと同時に血を吐き出すカルバネ。
「ゆっくり喋って。お願い……」
「お、俺は……さっきまでお前を殺そうと……そう思ってたのに……こうして会えた途端、急にどうでもよくなった……。なんでだろうなあ? ククッ、お、お前も笑えよ。俺の……このどうしようもなく無様な姿を……」
「そ……そんなことできるわけないじゃない……!」
声を荒げるバニル。
「……バカを言うな。お前は……俺を見捨てたじゃないか……。レギュラーにする、と……そう言ったのに……」
「何を言うの……? あなたが断ったのに……」
「……何……?」
「自分でそう言ったの、覚えてないの?」
「……妙だな。俺はそんなことを言った覚えは……うぐうっ……」
顔をしかめるカルバネ。
「だから、ゆっくりでいいから……」
「……まあ、いい。どうせ、レギュラーになったところで……お前は俺のものにはならなかったのだから……」
「カ、カルバネ……?」
「……覚えてるか、バニル……。お前……誕生日に俺を呼んでおいて……その目の前でベリテスに告白しただろう……」
「え? なんのこと……?」
「……し、しらをきる気か……」
「出鱈目言わないで。私がリーダーに思いを伝えたのはつい最近のことで、あなたが私となんか組めないって言って拒んだ日からずっとあとのことなのに……」
「……なん、だと……?」
カルバネははっとしたように目を見開いたが、まもなく全てを悟ったように穏やかな笑みを浮かべた。
「カルバネ……?」
「……やっと、わかった……。何もかも……幻だったということだ……。俺たちはやつの手の中で、まんまと踊らされていた……。だが、知らないほうがよかったのかもしれんな……」
「やつって……?」
「……もう、どうでもいいことだ。……バニル、お前も悪いんだ……。掴みどころのない性格で、いつも俺を翻弄……していたからな……。この手で掴もうとしても、お……お前はそのたびに消えた。まるで、雲を掴むようだった……ぐぐっ……」
「カルバネ! ……無理しないで。休んでいいから……」
「もう、自分の体のことはわかる。長くないんだ。好きにさせてくれ……」
「……カルバネ……私、忘れてないよ。あなたと過ごした日々のこと、ずっと……」
バニルの涙がカルバネの頬にこぼれ落ちる。
「……バニル、なんで泣くんだ……? 俺は……どうしようもない最低の男だ……。お前に逆恨みして殺そうとしたし、犯そうともした……。なのに、なんで……」
「……カルバネが頑張ってたのは知ってたから……。それに……こうなったのは、私にも何か原因があるかもしれないって思ってて……。たから……」
「……バカだな。泣くな……」
カルバネが薄く笑いながら、バニルの涙を震えた指で拭う。
「……お、覚えてるか……。ガキの頃、お前にちょっかいを出してきたやつがいて……俺がそいつと喧嘩して負けて泣いていたときだ……同じようなことを、してくれたよな……。男の子は泣いたらダメって、こ……こうやって、指で……」
「……」
「お、お……俺はあれから……誰よりも強くなろうとした。バニル、お前を守るために……。なのに、俺はいつの間にか……そんな大事なことさえも……忘れていたんだな……」
「カルバネ……死なないで。お願い……」
「……セクト……俺は……俺はあいつが……羨ましい……」
「……」
「お人よしだが……心が綺麗だ……。俺なんかと違って……うごぉっ……」
大量の血を吐き出すカルバネ。
「カルバネ!」
「……バニル……お人よしのお前にお似合いだよ……。俺も……そんな心であれたら……湖のように、空のように、お前たちのように……綺麗な心であれたら、よかった……」
カルバネがそれ以上口を動かすことはなかった。その顔は、まるで小さな子供が眠っているかのように安らかなものであった。
ステンドグラスに柔らかな朝陽が滲み、神々しい空気に磨きをかける礼拝堂にて、カルバネの小さくも芯のある声が響く。
奥にアルテリスの女神像が飾られた祭壇があり、長椅子が幾つも並ぶ聖域の中心にはおびただしい血痕と魔鉱石が転がり、剣を持ったカルバネが仰向けに倒れていて、傍らではぼんやりとした表情のバニルが床に両手をつく形で座り込んでいた。
「カルバネ、どうして……」
「……げほっ、げほぉっ……。パッ、パーティー、ブレイカーだ……。やつに、やられた……」
「そ、そんな……」
「うぐっ、ぐほぉっ……!」
咳き込むと同時に血を吐き出すカルバネ。
「ゆっくり喋って。お願い……」
「お、俺は……さっきまでお前を殺そうと……そう思ってたのに……こうして会えた途端、急にどうでもよくなった……。なんでだろうなあ? ククッ、お、お前も笑えよ。俺の……このどうしようもなく無様な姿を……」
「そ……そんなことできるわけないじゃない……!」
声を荒げるバニル。
「……バカを言うな。お前は……俺を見捨てたじゃないか……。レギュラーにする、と……そう言ったのに……」
「何を言うの……? あなたが断ったのに……」
「……何……?」
「自分でそう言ったの、覚えてないの?」
「……妙だな。俺はそんなことを言った覚えは……うぐうっ……」
顔をしかめるカルバネ。
「だから、ゆっくりでいいから……」
「……まあ、いい。どうせ、レギュラーになったところで……お前は俺のものにはならなかったのだから……」
「カ、カルバネ……?」
「……覚えてるか、バニル……。お前……誕生日に俺を呼んでおいて……その目の前でベリテスに告白しただろう……」
「え? なんのこと……?」
「……し、しらをきる気か……」
「出鱈目言わないで。私がリーダーに思いを伝えたのはつい最近のことで、あなたが私となんか組めないって言って拒んだ日からずっとあとのことなのに……」
「……なん、だと……?」
カルバネははっとしたように目を見開いたが、まもなく全てを悟ったように穏やかな笑みを浮かべた。
「カルバネ……?」
「……やっと、わかった……。何もかも……幻だったということだ……。俺たちはやつの手の中で、まんまと踊らされていた……。だが、知らないほうがよかったのかもしれんな……」
「やつって……?」
「……もう、どうでもいいことだ。……バニル、お前も悪いんだ……。掴みどころのない性格で、いつも俺を翻弄……していたからな……。この手で掴もうとしても、お……お前はそのたびに消えた。まるで、雲を掴むようだった……ぐぐっ……」
「カルバネ! ……無理しないで。休んでいいから……」
「もう、自分の体のことはわかる。長くないんだ。好きにさせてくれ……」
「……カルバネ……私、忘れてないよ。あなたと過ごした日々のこと、ずっと……」
バニルの涙がカルバネの頬にこぼれ落ちる。
「……バニル、なんで泣くんだ……? 俺は……どうしようもない最低の男だ……。お前に逆恨みして殺そうとしたし、犯そうともした……。なのに、なんで……」
「……カルバネが頑張ってたのは知ってたから……。それに……こうなったのは、私にも何か原因があるかもしれないって思ってて……。たから……」
「……バカだな。泣くな……」
カルバネが薄く笑いながら、バニルの涙を震えた指で拭う。
「……お、覚えてるか……。ガキの頃、お前にちょっかいを出してきたやつがいて……俺がそいつと喧嘩して負けて泣いていたときだ……同じようなことを、してくれたよな……。男の子は泣いたらダメって、こ……こうやって、指で……」
「……」
「お、お……俺はあれから……誰よりも強くなろうとした。バニル、お前を守るために……。なのに、俺はいつの間にか……そんな大事なことさえも……忘れていたんだな……」
「カルバネ……死なないで。お願い……」
「……セクト……俺は……俺はあいつが……羨ましい……」
「……」
「お人よしだが……心が綺麗だ……。俺なんかと違って……うごぉっ……」
大量の血を吐き出すカルバネ。
「カルバネ!」
「……バニル……お人よしのお前にお似合いだよ……。俺も……そんな心であれたら……湖のように、空のように、お前たちのように……綺麗な心であれたら、よかった……」
カルバネがそれ以上口を動かすことはなかった。その顔は、まるで小さな子供が眠っているかのように安らかなものであった。
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