101 / 130
101.希望と自信
しおりを挟む
「あんのクソアマ……逃すかよ――」
「――待てぇ、ルベックうぅ……」
「ぐ、グレス様……?」
「見逃してやれえぇ……」
謁見の間の奥にある玉座、グレスは自身の膝に乗るカチュアの頭を撫でながら、右の口角をグイッと吊り上げた。
「へ? 何を言って……。獲物を見逃せと?」
「あぁん……。そうよ、グレス様ぁ……。ルベックの言う通り、あんな生意気なバカ女、とっとと生きたまま解剖して発狂させちゃえばいいのに……かぷっ♪」
「おっ、おおぅ……いい気持ちだぁ、最高だあぁぁ……」
「グ、グレス……いやグレス様、お楽しみのところ恐縮ですが、正直カチュアの言う通りだろうと俺は思います……。今から追いかけても遅くはねえかなって――」
「――そ、そろそろだぁ。受け止めろおぉぉ、カチュアぁ……!」
「はいっ……うぷっ!? ……けほっ、けほっ……」
「ふうぅ。満足うぅ……」
「クソ……いえ、グレス様……」
「だから待てと言っているだろうクソルベックぅ、次はないぞぉ……」
「す、すみません……クソッ……。ラキル、お前も何か言えって……。あのバニルとかいうクソアマがよお、俺が手を負傷してたから助かったってだけなのに調子こきやがって……。早くこの手でハラワタ引き摺り出してやりてえんだよ……」
「ルベック……多分だけど、グレス様には何かお考えがあるんだよ……」
「はぁ? なんだよそれ……」
「そ、そうなのだ……。グレス様が言うからには、何か深い理由が――」
「――だからてめーは黙ってろってんだよ、腐ったみかん!」
「は、はひっ! ぐびぇっ!」
オランドはゾンビとなった途端ルベックに引き倒され、頭を踏み潰される。
「おそらくうぅ……あの女がいつでも戻れるというのは本当だろううぅ……。やつの目には希望が見えたぁ。だからまたすぐ会えるし殺せるううぅ……」
「グ、グレス……様、どうせ殺すのなら、なんでわざわざ先延ばしにするのかと……」
「ゴミセクトの反応を見るためだぁ。やつのために残ったとするならぁ……一番大事な仲間はあの女だろぉお……? それを目の前でじわじわ甚振ればぁ……ひひっ……天国から地獄うぅ……」
「な、なるほ――ぐえっ!?」
玉座から下りてきたグレスに《神授眼》で動きを止められ、腹を蹴られて苦悶の表情になるルベック。
「俺にわざわざ言わせるなぁ……。さっさと行くぞぉ、クソザコどもぉ……」
◇ ◇ ◇
(まだ、ダメ。ここで泣いちゃダメ……)
夜更けの大広間にて、バニルは涙ぐみながら必死に走っていた。
ここに至るまで、彼女は螺旋階段の途中や踊り場で何度も転びそうになりながらも、倒れずに前へ前へと進んでいたのだ。
(お願い……早く《招集》して……)
それでもバニルは生きた心地がしなかった。
ならず者パーティー『ウェイカーズ』のメンバー全員に囲まれるという、精神がおかしくなりそうな状況で彼女が今まで耐えることができたのは、必ずスピカたちが自分を呼び戻してくれるという希望があったからだ。
『ウェイカーズ』と接することで、バニルはかつてそこに所属していたセクトの気持ちを今までよりもずっと理解できたような気がした一方、彼らの残虐性を思い知って次第に恐ろしくなっていったのだが、それでも自分を失うことはなかった。
自分はこの苦境から必ず脱出できると信じていたからだ。彼女は、自分を信じる心だけはなくしちゃいけないということを幼い頃に姉から教わっていた。自信のない者は卑屈になり、他人も信じることができないから希望すら持てなくなるのだと。
ただ、時間があまり残されていないことにバニルは気付き始めていた。頑張りすぎたことで、いずれ自身の中で重大な災いが生じてしまうことを重々承知していたのだ。それをなるべく遅らせるためにも、彼女は走り続けるだけでなく時折ゆっくりと歩く必要があった。
(これだけ時間がかかるなんて……きっと……スピカに何かあったんだ。無事だといいけど……)
バニルは最悪の事態も想定し、《招集》を待つだけでなく、自分の足でセクトたちを見つけようとも考えていた。セクトには及ばずとも、小さい頃から剣術を学んできたため、気配を察知する能力も養われてBランクまで到達していたからである。
(――こ、この気配は……)
その高い気配察知能力が思わぬところで役立つことになり、バニルは立ち止まった。
(なんで一人、なの……)
大広間の脇からどこかの部屋へと続く通路前で彼女が感じた気配、それは紛れもなくカルバネのものであった。剣を握る手に力が入るバニルだったが、カルバネのほうに近付くにつれてその気配が弱まっていることや、床に点在する血痕に気付く。
「――カ、カルバネ……!?」
大きな扉の向こう側――礼拝堂――の中央で、カルバネは仰向けに倒れていた。バニルが血相を変えて駆け寄るが彼は血だまりの中にいて、まだ息はあったものの誰が見ても手遅れの状態であった……。
「――待てぇ、ルベックうぅ……」
「ぐ、グレス様……?」
「見逃してやれえぇ……」
謁見の間の奥にある玉座、グレスは自身の膝に乗るカチュアの頭を撫でながら、右の口角をグイッと吊り上げた。
「へ? 何を言って……。獲物を見逃せと?」
「あぁん……。そうよ、グレス様ぁ……。ルベックの言う通り、あんな生意気なバカ女、とっとと生きたまま解剖して発狂させちゃえばいいのに……かぷっ♪」
「おっ、おおぅ……いい気持ちだぁ、最高だあぁぁ……」
「グ、グレス……いやグレス様、お楽しみのところ恐縮ですが、正直カチュアの言う通りだろうと俺は思います……。今から追いかけても遅くはねえかなって――」
「――そ、そろそろだぁ。受け止めろおぉぉ、カチュアぁ……!」
「はいっ……うぷっ!? ……けほっ、けほっ……」
「ふうぅ。満足うぅ……」
「クソ……いえ、グレス様……」
「だから待てと言っているだろうクソルベックぅ、次はないぞぉ……」
「す、すみません……クソッ……。ラキル、お前も何か言えって……。あのバニルとかいうクソアマがよお、俺が手を負傷してたから助かったってだけなのに調子こきやがって……。早くこの手でハラワタ引き摺り出してやりてえんだよ……」
「ルベック……多分だけど、グレス様には何かお考えがあるんだよ……」
「はぁ? なんだよそれ……」
「そ、そうなのだ……。グレス様が言うからには、何か深い理由が――」
「――だからてめーは黙ってろってんだよ、腐ったみかん!」
「は、はひっ! ぐびぇっ!」
オランドはゾンビとなった途端ルベックに引き倒され、頭を踏み潰される。
「おそらくうぅ……あの女がいつでも戻れるというのは本当だろううぅ……。やつの目には希望が見えたぁ。だからまたすぐ会えるし殺せるううぅ……」
「グ、グレス……様、どうせ殺すのなら、なんでわざわざ先延ばしにするのかと……」
「ゴミセクトの反応を見るためだぁ。やつのために残ったとするならぁ……一番大事な仲間はあの女だろぉお……? それを目の前でじわじわ甚振ればぁ……ひひっ……天国から地獄うぅ……」
「な、なるほ――ぐえっ!?」
玉座から下りてきたグレスに《神授眼》で動きを止められ、腹を蹴られて苦悶の表情になるルベック。
「俺にわざわざ言わせるなぁ……。さっさと行くぞぉ、クソザコどもぉ……」
◇ ◇ ◇
(まだ、ダメ。ここで泣いちゃダメ……)
夜更けの大広間にて、バニルは涙ぐみながら必死に走っていた。
ここに至るまで、彼女は螺旋階段の途中や踊り場で何度も転びそうになりながらも、倒れずに前へ前へと進んでいたのだ。
(お願い……早く《招集》して……)
それでもバニルは生きた心地がしなかった。
ならず者パーティー『ウェイカーズ』のメンバー全員に囲まれるという、精神がおかしくなりそうな状況で彼女が今まで耐えることができたのは、必ずスピカたちが自分を呼び戻してくれるという希望があったからだ。
『ウェイカーズ』と接することで、バニルはかつてそこに所属していたセクトの気持ちを今までよりもずっと理解できたような気がした一方、彼らの残虐性を思い知って次第に恐ろしくなっていったのだが、それでも自分を失うことはなかった。
自分はこの苦境から必ず脱出できると信じていたからだ。彼女は、自分を信じる心だけはなくしちゃいけないということを幼い頃に姉から教わっていた。自信のない者は卑屈になり、他人も信じることができないから希望すら持てなくなるのだと。
ただ、時間があまり残されていないことにバニルは気付き始めていた。頑張りすぎたことで、いずれ自身の中で重大な災いが生じてしまうことを重々承知していたのだ。それをなるべく遅らせるためにも、彼女は走り続けるだけでなく時折ゆっくりと歩く必要があった。
(これだけ時間がかかるなんて……きっと……スピカに何かあったんだ。無事だといいけど……)
バニルは最悪の事態も想定し、《招集》を待つだけでなく、自分の足でセクトたちを見つけようとも考えていた。セクトには及ばずとも、小さい頃から剣術を学んできたため、気配を察知する能力も養われてBランクまで到達していたからである。
(――こ、この気配は……)
その高い気配察知能力が思わぬところで役立つことになり、バニルは立ち止まった。
(なんで一人、なの……)
大広間の脇からどこかの部屋へと続く通路前で彼女が感じた気配、それは紛れもなくカルバネのものであった。剣を握る手に力が入るバニルだったが、カルバネのほうに近付くにつれてその気配が弱まっていることや、床に点在する血痕に気付く。
「――カ、カルバネ……!?」
大きな扉の向こう側――礼拝堂――の中央で、カルバネは仰向けに倒れていた。バニルが血相を変えて駆け寄るが彼は血だまりの中にいて、まだ息はあったものの誰が見ても手遅れの状態であった……。
11
お気に入りに追加
1,647
あなたにおすすめの小説
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。
ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す
名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる