89 / 130
89.悪魔の沙汰
しおりを挟む
「えっと……名称は悪魔の粉といって、これを周囲に振りかけることで、モンスターを一定時間呼び寄せる効果があるんだって。どれくらいかは量で決まるみたい」
「なるほど……」
バニルの基本スキル《調査》で調べてもらったんだが、悪魔の粉っていうのか。名前に比べると効果は地味に見えるが、攻略を目指す上ではかなり頼りになるアイテムだな。
ただ、粉の量自体が少ないので何度か使ったらすぐなくなりそうだ。
「あふぅ。お料理に使えそうな粉かもお」
「ちょっとミルウ、変なの入れないでよね!」
ルシア、いつの間にかまた夢想症になってるし。
「悪魔さんにモテそうなお料理ですねえ」
「そんなの食べて小悪魔のバニルに追い回されるなんて洒落になんないわよ!」
小悪魔か。バニルにはぴったりのあだ名かもしれない。
「あー、ルシアそういうこと言うんだ。いいもん。セクト、少し粉を舐めて私に追い回されるかどうか試してみる?」
「……え、遠慮しとく」
「舐めないんだ……。セクト、私のこと嫌い?」
「え、いや、そんなことは……」
「うふふ……じゃあ、舐めるよね?」
「くっ……」
何故か粉を舐める方向に流されている。早くこの変な空気を変えなくては……。
「……あっ……」
俺ははっとした。変えるといえば、この粉をスキルに変えれば無限に使えそうだと思ったんだ。《成否率》だと2.5の確率だったこともあって、33回という僅かな試行で《スキルチェンジ》に成功した。
派生スキル《デビルチャーム》Cランク
熟練度 Fランク
使用すると一定時間、モンスターの出現確率が通常よりも高くなる。
よし、俺の思った通りの効果だ。熟練度が低いからそこまで遭遇率は上がらないんだろうが、それでも何度でも使えるのは相当なアドバンテージになる。
「「「「すごーい」」」」
石板を確認してたらやっぱりバニルたちも覗き込んできたが、実はわざと見せてやったんだ。みんなに見られたくないなら《ステータス》で確認すればいいわけだからな。
「こういうわけだ、バニル。この悪魔の粉はいらなくなったからペンダント代にしてくれ」
「えー、いいよもう。そのお金はみんなで出し合ったものだし」
「そうよ、セクト。あたしたちは最初から返してもらうつもりなんてないわよ!」
「そうですよぉ。貰ってください、セクトさん」
「気にしないでえ、セクトお兄ちゃんっ」
「いや、義理は果たしたいんだ。必ず返す。わかってくれ、みんな」
「はー。あんたのそういう頑固なところ、あたしのお父さんそっくり……」
ルシアが呆れ顔で、両手を左右に広げてしみじみと言う。多分、亡くなった実の父親のほうだろう。俺が引かないことが理解できたのか、みんなそれ以上突っ込んでくることもなかった。
さて……早速、新スキルの《デビルチャーム》でモンスターをここに呼び寄せるかな。そのほうが歩かなくて済む分、体力を温存できて楽だし……って、待てよ。
その前にまだやるべきことがあるじゃないか。あれをスキルに変えてみたい。
「みんな、《デビルチャーム》っていうスキルをやる前に試したいことがあるんだ。だからそれが終わるまで、少しここで休憩してて」
「「「「はーい」」」」
みんなにとって休憩時間になるとはいえ、なるべく早く済ませるつもりだ。俺がここで目指すのはダンジョン攻略だけじゃないんだ。『ウェイカーズ』の連中がやってくる可能性があるから、それに対する準備でもある。
◇ ◇ ◇
「ゲロロロッ!」
バラバラ死体が転がる古城の大広間、アデロがたまらずしゃがみ込んで嘔吐する。
「ちょっと、アデロさん、吐かないでくださいよ。こっちまで気分が……ゲエエッ!」
「……グエッ……」
「馬鹿だな。お前たちがいちいち見るからだ。不快な思いをしないように目と鼻を切り取ってやろうか?」
【骸化】して剣を構えるカルバネ。
「「「ひいっ……!」」」
「冗談だから落ち着け。しかし、わざわざこうして足跡を残してくれるんだからありがたいもんだな。とっとと行くぞ」
冒険者たちの陰惨な死体の側を通り過ぎていくカルバネたち。『ウェイカーズ』と衝突しないよう、彼らから少し遅れる形で進んでいたのだ。
「まともな連中じゃねえな! 女までバッサリだ!」
「男はいいんですか? アデロさん」
「そりゃそうだろ! 男が少なくなりゃ、俺よりモテるやつを見なくて済む確率が上がる! だからピエールとザッハも今すぐ死ね!」
「アデロさん、それはあなたが今ここで死ねば全て解決する問題では?」
「……同意……」
「けっ! 一人くらい生きた女を残してくれりゃいいものを――ぶはっ!?」
カルバネが急に立ち止まったため、アデロがその背中に顔をぶつける羽目になる。
「ど、どうしたんすか、カルバネさん?」
「お前たち、あれを見ろ……」
「「「あっ……」」」
カルバネが剣で指し示す方向には大広間の出入り口があり、今まさに二人組の男が入ってくるところだった。
「お前たち、あれを見てどう思う?」
「こっち方面で死んでないやつなんて珍しいっす」
「ですねぇ」
「……んだ……」
「そうだ。やつらも『ウェイカーズ』には遭遇しているはず。なのに殺されていないのは、偶然か、あるいはなんらかの意図があるのか……」
「カルバネさん、ちょっとあいつらを痛めつけてから事情を聴いてみたら……?」
「いいですねぇ」
「……腕が鳴る……」
「おいおい……事情が聴けなくなるから、殺さない程度に暴れろよ」
「「「ヒャッホー!」」」
「なるほど……」
バニルの基本スキル《調査》で調べてもらったんだが、悪魔の粉っていうのか。名前に比べると効果は地味に見えるが、攻略を目指す上ではかなり頼りになるアイテムだな。
ただ、粉の量自体が少ないので何度か使ったらすぐなくなりそうだ。
「あふぅ。お料理に使えそうな粉かもお」
「ちょっとミルウ、変なの入れないでよね!」
ルシア、いつの間にかまた夢想症になってるし。
「悪魔さんにモテそうなお料理ですねえ」
「そんなの食べて小悪魔のバニルに追い回されるなんて洒落になんないわよ!」
小悪魔か。バニルにはぴったりのあだ名かもしれない。
「あー、ルシアそういうこと言うんだ。いいもん。セクト、少し粉を舐めて私に追い回されるかどうか試してみる?」
「……え、遠慮しとく」
「舐めないんだ……。セクト、私のこと嫌い?」
「え、いや、そんなことは……」
「うふふ……じゃあ、舐めるよね?」
「くっ……」
何故か粉を舐める方向に流されている。早くこの変な空気を変えなくては……。
「……あっ……」
俺ははっとした。変えるといえば、この粉をスキルに変えれば無限に使えそうだと思ったんだ。《成否率》だと2.5の確率だったこともあって、33回という僅かな試行で《スキルチェンジ》に成功した。
派生スキル《デビルチャーム》Cランク
熟練度 Fランク
使用すると一定時間、モンスターの出現確率が通常よりも高くなる。
よし、俺の思った通りの効果だ。熟練度が低いからそこまで遭遇率は上がらないんだろうが、それでも何度でも使えるのは相当なアドバンテージになる。
「「「「すごーい」」」」
石板を確認してたらやっぱりバニルたちも覗き込んできたが、実はわざと見せてやったんだ。みんなに見られたくないなら《ステータス》で確認すればいいわけだからな。
「こういうわけだ、バニル。この悪魔の粉はいらなくなったからペンダント代にしてくれ」
「えー、いいよもう。そのお金はみんなで出し合ったものだし」
「そうよ、セクト。あたしたちは最初から返してもらうつもりなんてないわよ!」
「そうですよぉ。貰ってください、セクトさん」
「気にしないでえ、セクトお兄ちゃんっ」
「いや、義理は果たしたいんだ。必ず返す。わかってくれ、みんな」
「はー。あんたのそういう頑固なところ、あたしのお父さんそっくり……」
ルシアが呆れ顔で、両手を左右に広げてしみじみと言う。多分、亡くなった実の父親のほうだろう。俺が引かないことが理解できたのか、みんなそれ以上突っ込んでくることもなかった。
さて……早速、新スキルの《デビルチャーム》でモンスターをここに呼び寄せるかな。そのほうが歩かなくて済む分、体力を温存できて楽だし……って、待てよ。
その前にまだやるべきことがあるじゃないか。あれをスキルに変えてみたい。
「みんな、《デビルチャーム》っていうスキルをやる前に試したいことがあるんだ。だからそれが終わるまで、少しここで休憩してて」
「「「「はーい」」」」
みんなにとって休憩時間になるとはいえ、なるべく早く済ませるつもりだ。俺がここで目指すのはダンジョン攻略だけじゃないんだ。『ウェイカーズ』の連中がやってくる可能性があるから、それに対する準備でもある。
◇ ◇ ◇
「ゲロロロッ!」
バラバラ死体が転がる古城の大広間、アデロがたまらずしゃがみ込んで嘔吐する。
「ちょっと、アデロさん、吐かないでくださいよ。こっちまで気分が……ゲエエッ!」
「……グエッ……」
「馬鹿だな。お前たちがいちいち見るからだ。不快な思いをしないように目と鼻を切り取ってやろうか?」
【骸化】して剣を構えるカルバネ。
「「「ひいっ……!」」」
「冗談だから落ち着け。しかし、わざわざこうして足跡を残してくれるんだからありがたいもんだな。とっとと行くぞ」
冒険者たちの陰惨な死体の側を通り過ぎていくカルバネたち。『ウェイカーズ』と衝突しないよう、彼らから少し遅れる形で進んでいたのだ。
「まともな連中じゃねえな! 女までバッサリだ!」
「男はいいんですか? アデロさん」
「そりゃそうだろ! 男が少なくなりゃ、俺よりモテるやつを見なくて済む確率が上がる! だからピエールとザッハも今すぐ死ね!」
「アデロさん、それはあなたが今ここで死ねば全て解決する問題では?」
「……同意……」
「けっ! 一人くらい生きた女を残してくれりゃいいものを――ぶはっ!?」
カルバネが急に立ち止まったため、アデロがその背中に顔をぶつける羽目になる。
「ど、どうしたんすか、カルバネさん?」
「お前たち、あれを見ろ……」
「「「あっ……」」」
カルバネが剣で指し示す方向には大広間の出入り口があり、今まさに二人組の男が入ってくるところだった。
「お前たち、あれを見てどう思う?」
「こっち方面で死んでないやつなんて珍しいっす」
「ですねぇ」
「……んだ……」
「そうだ。やつらも『ウェイカーズ』には遭遇しているはず。なのに殺されていないのは、偶然か、あるいはなんらかの意図があるのか……」
「カルバネさん、ちょっとあいつらを痛めつけてから事情を聴いてみたら……?」
「いいですねぇ」
「……腕が鳴る……」
「おいおい……事情が聴けなくなるから、殺さない程度に暴れろよ」
「「「ヒャッホー!」」」
10
お気に入りに追加
1,702
あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる