パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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88.渦巻くもの

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「……この、辺……」

 茂みの前までルシアに連れてこられたわけだが、そのときには彼女の状態は元に戻っていた。急にしおらしくなっちゃったみたいだが、たまにはこういうのもいいかと思いつつ茂みの中を覗き込むと、確かにあった。

 いかにも豪華そうな――黄金の縁取りをした赤い四角形の――大きな箱。はっきり見るために《導きの手》で火を出すことで、小さな渦のようなものが地面に発生しているのも見て取れる。これがワープトラップか……。

「セクト、気を付けて」

 バニルが追い付いてきた。

「バニル、そう言うけど踏まなきゃいいんじゃ?」

「踏まなくても、渦の上に体の一部が触れただけでもワープしちゃうよ」

「へえ……結構厄介なんだな」

「うん。初心者とか踏むことも多いみたい」

「あふうっ。そーいえば、ミルウも手を伸ばしただけで転送されちゃった……」

 既にミルウが実体験で証明済みってわけだ。

「怖いですけど、なんだかドキドキしちゃいますねぇ……」

 スピカが凄く興味深そうに見てるし、内心ワープしてみたいとか思ってそうだな。もちろん、彼女には《招集》があるとはいえ、ワープ先に『ウェイカーズ』がいる可能性もあるわけだから絶対に踏むべきじゃないが。

「バニル、ほかに罠があるかどうかわかる?」

 俺がバニルに訊ねるのは、彼女が【鑑定眼】を持っているからだ。

「大丈夫だよ。ただ、鍵が掛かってる」

「鍵?」

「モンスターがたまに落とすんだけど、ドロップ率は1割にも満たないくらいはずだしそこそこ倒さないときついかも……」

「そうか……」

 仕方ない。モンスターを探して倒すとしよう……って、そうだ。あの手があったか。

 宿舎の倉庫の鍵穴をスキルに変えてあったんだ。あれで開けられないだろうか? まったく使ってないから熟練度はFと低いが、スキルランク自体はCだしやってみなきゃわからないってことで《エアキー》を試してみる。

「セクト、どうかしたの?」

「宿舎の倉庫の鍵をスキルに変えてたんだ。今から試してみるよ」

 俺はみんなの期待の眼差しをひしひしと感じつつ、さながら鍵職人にでもなったかのような心境でチャレンジを重ねていた。ちなみに《成否率》だと開く確率は0.5だったからそこまでかからないはず。

「――あ……」

 134回目の試行で、ようやくカチッという小気味よい音とともに宝箱の鍵が解除された。開いたことがわかるのかみんな歓声を上げているが、中身がしょぼいものじゃないといいけどな。

 回り込んで開けてみると、中には小さな袋が入っていた。お金かと思ったが、持ってみると異様に軽い。不安を覚えつつ中を覗き込むと灰色の粉が入っていた。なんだこりゃ……。



 ◇ ◇ ◇



「がっ」

「ぎっ」

「いぎっ」

 ほぼ一瞬の出来事だったため、悲鳴さえも切り取られたかのようだった。

 少し前までパーティーが歩いていた場所は、今やおびただしい量の血で染められ、髪の毛や骨や内臓が付着した肉片や、見開かれた両目、あんぐりと開いた口を残した顔の上と下半分等、生前の表情を張り付けた顔の一部が散乱していた。

 陽気な日差しに包まれた大広間だったが、その出入り口付近でならず者パーティー『ウェイカーズ』と遭遇した冒険者たちはいずれも悲惨な末路を辿っていた。闇の世界を震撼させている彼らの前では、ほかの冒険者もモンスターとなんら変わらなかったのである。

「……はぁ、はぁ……お前らはモンスターでしかねえんだよ……」

 呼吸するように淡々とバラバラ死体を作り上げていく赤い稲妻ことルベック。

 その手には、以前に中級の元冒険者を殺して強奪した、グリップ部分に渦状模様が施されたA級武器の短剣――風の力が凝縮された異常な切れ味を持つ嵐渦剣らんかけん――が握られていた。そこにラキルがおもむろに近付いていく。

「おつかれさま、ルベック」

「なあラキル。そんなことよりもよ、グレスにあんなこと言っちまった以上、今度失敗したらまずいぞ……」

「だろうねぇ」

 舌を少し出して悪戯っぽい笑みを作るラキル。その表情には自信の色がありありと浮かんでいた。

「まさか、もう《魔眼》で見つけたのか?」

「うん。僕の《魔眼》はどれだけ遠く離れていても相手がどこにいるかわかるからね。近付いてもぼんやりとしかわからないのが難点だけど……」

「やるなあ。けどよ、向こうもこっちに気付いてるんじゃ? オモチャのくせにやたらと逃げ足が速かったしよ」

「今度はとっておきの秘策があるから大丈夫。色んなことを一気に解決させられるはずだよ」

「へえ……」

「……そ、それは実に楽しみだ。あのウスノロめが、覚悟――」

「――おいオランド。お前の息くっさいんだから近寄るんじゃねえよ」

「……ひっ……」

 ルベックに凄まれたオランドが、自分の後退が加速した髪を反射的に庇う。最早それはゾンビに変身したときのような疎らで頼りない頭髪となんら変わらなかった。

「なんだ? また俺に髪を弄ってほしいってのか?」

「い、いえっ、滅相もございませ――」

「――ひひっ、カチュアぁ、俺の蛇はどうだっ、どうだあぁ……」

「んんぅ……も、もうダメぇ……」

「クソが……。嫌なもん見ちまった。オランド、お前のせいだぞ……」

「ほぇ?」

 ルベックの視線の先――オランドのすぐ後方――では、グレスとカチュアが最高潮の盛り上がりを見せていた。そのため、不運にもオランドは苛立ったルベックによって残り少ない頭髪をほぼ没収されてしまった。

「ひぎいいぃぃっ! ……ひぐぅっ……えぐぅ……俺の、おでの毛が……大事なおでの毛があああぁぁ……」

「それくらいで泣くなよ……。な? 俺が悪かったよ、腐ったみかんちゃん……。けどよ、あんまぐだぐだ言ってっと、今度はお前の頭皮ごと切り取って、一生毛が生えない頭にしてやっから覚悟しとけ」

「しょ、しょれだけはどうかご勘弁を……」

 オランドの両目から大粒の涙が溢れる。

「プッ。まあ今のは面白かったからこれくらいで勘弁しといてやる。とりあえずこれで涙拭け」

「ごぎゃっ」

 ルベックから顔面に拳を貰い、転がり回って身悶えるオランド。

「……お、おにょれ、セクト……ウスノロめがあ……真のオモチャのお前さえここにいれば、俺はこんな目に遭わなかった……。だからお前が一番悪いのだ……」

 笑い声が上がる中、オランドの呪いの呟きはしばらく続いた。
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