パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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87.光と闇

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「ミ、ミルウ、ここから中庭まで下りたのか……」

「あふっ。急いでたからぁ……」

 俺は小部屋から出て回廊を囲む列柱の横に立ったわけだが、ここから見下ろせる中庭まではなんとも高さがあって恐怖を感じるレベルだった。

「ミルウのバカッ。怪我でもしたらどうするのよ!」

 ルシアがミルウの頬を張って緊張が走る。おいおい、また喧嘩か。

「いったーい……。ルシアなんか大嫌い!」

「あたしだってあんたなんか大嫌いよ。ふん!」

 二人とも涙目でそっぽを向き合う。なんだか本当の姉妹に見えてきた。

「まーまー。ミルウはこう見えて身軽だから……」

「バニルう。それだとミルウの見た目が重いみたいな言い方だよう……」

「……」

 確かにミルウの腹はちょっと出てるが、体重自体は軽そうだしいくらか回転して受け身を取れればってところかな。それでも打ちどころが悪いと下手したら死にそうだ。

 それより、脱ぐのに抵抗がない彼女のことだから裸になって列柱を少しずつ滑り降りた可能性のほうがあるんじゃないかと思える。ちょっと想像してしまった……。

「ミルウさんにダイエットさせるために、わたくしが今度から料理を担当しますねぇ」

「えー、ヤダよぉ……」

「あたしも!」

「私もー……」

「まあ。くすくすっ……」

 スピカ、料理が下手なのをネタにしてるんだな。相変わらず平和だ。

「とうっ」

「おおっ……」

 思わず声が出た。いきなりスピカが飛び降りたからだ。丸くなって何度も回転したあと、ピタッと着地した。まさに曲芸といったところか。

「あ、あれ……?」

 急に俺の周りの景色が変わって、ついさっきまでそこが見下ろしていた庭園だったとわかるのに少し時間がかかった。

 みんな側にいるし、どうやらスピカのスキル《招集》が発動したらしい。それにしても彼女は凄い身体能力だな。さすがは元騎士。心が忘れても体が覚えていたというわけか。

「スピカは大したもんだな」

「えぇ? そうですかぁ?」

 のほほんとした笑みを向けられてなんとも悔しい。

「スピカはリーダーに次ぐ実力者として知られてたからね」

「バニルさんのほうこそっ」

 バニルとスピカの言い分、どっちも信じられる話だ。

「どうせセクトがごぼう抜きしちゃうわよ!」

「セクトお兄ちゃんの能力、凄いもんねえ」

「い、いやいや、まだまだだよ」

 正直な話、俺は『ウェイカーズ』を倒すためにもさらに強いスキルを得るべきだと思うし、熟練度だってなるべく上げなければいけないと考えている。

 ただ、あまり固有能力に頼りすぎてほかの部分をおろそかにしてるとベリテスに怒られそうだし、スキル以外の部分――心身の能力――も磨いていくべきじゃないかって思ってるんだ。

「私はセクトを守るお姉さんでありたかったけど、守られる妹でもいいかな? 王子様みたいに守ってくれる……?」

「おいおい、バニル……」

「ふふっ」

「バニルはすぐ俺をからかうんだからなあ」

「からかってないよ?」

「どうだか……」

「ちょっと、二人とも何いい雰囲気になってんの! ほらセクト、とっととお宝のところに行くわよ!」

「え、ちょっ……」

 俺はルシアに腕を引っ張られて転びそうになり、みんなから笑い声が上がった。



 ◇ ◇ ◇



 カルバネを先頭に、パーティー『ソルジャーボーンズ』の面々が古城の大広間を足早に移動していた。

「はぁ、はぁ……カルバネさーん、少し休憩しましょうよぉ……」

「ふぅ、ふぅ……アデロさんの言う通りです。飲まず食わずでずっと歩いてるわけですし……」

「……ぜぇ、ぜぇ……しんどい……」

「お前らなあ……死ねば歩く必要もなくなるぞ……?」

「「「ひっ……!」」」

 振り返ったカルバネの赤みを帯びた眼光に竦み上がるアデロたち。

「……ま、仕方ない。ほんの少しだけ休むとするか」

「「「わーいっ!」」」

 休めるということに彼らが大喜びするのは無理もない話で、ワープトラップを踏んでから大広間に出たカルバネたちは、まず隠れることに全神経を費やした。

 アデロの《幻視》によって誰もいないように見せかけ、ピエールの《呪言》でその方向に向かないように仕向け、さらに床を模した壁に《変身》したザッハの下に潜むという徹底ぶりで、のちにやってきた『ウェイカーズ』の様子をしばらく見ていたのだ。

 彼らの会話内容が理解できる程度の距離にはいたため、カルバネは烈火のごとく怒り、ほとんどまばたきすることなくひたすら前へ前へと歩いてきたというわけだった。セクトが生き延びていることを知ったためだ。

「もうやつらだけに任せてはおけん。俺たちも参戦するぞ……」

「け、けどカルバネさん、『ウェイカーズ』には広範囲でセクトを探し出せる探知能力があるっぽいし、どうあがいたって勝てっこないっすよ……」

「そうですよ。あいつらにとって僕らが眼中に入ってないのはよくわかりましたが、それでももし鉢合わせしちゃったら暇潰し感覚でやられるかと思います……」

「……同意……」

「バカかお前たち。正面からやろうってわけじゃない。今回の件で、認めたくはないがセクトが想像以上に抜け目のないやつなのはわかった。バニルたちも含めて簡単にはやられんだろう。つまり、『インフィニティブルー』と『ウェイカーズ』が潰し合っているところで俺たちが漁夫の利を狙うというわけだ」

「なるほどっ。さすがカルバネさん!」

「天才ですねぇ」

「……賢者……」

「お前ら、いくら褒めたところでこれ以上は絶対に休ませんからな。もう行くぞ!」

「「「……」」」

 大広間は天窓や横窓から入り込む陽射しで明るくなっていたが、対照的にアデロたちの表情は見る見る暗くなっていた。
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