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84.鎮座する輝き

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「う、うう……」

 パーティー『ソルジャーボーンズ』はアデロだけを回廊に残し、外側に面する列柱を乗り越えて中庭へと降り立っていた。

 彼らのいた回廊から、潜伏できる場所の多い中庭まで普通に行くには少々距離がある上、敵に発見されるリスクも高いため近道をしたわけだが、高所恐怖所のアデロだけ取り残される形となっていたのだ。

「……来い……」

 彼が下りやすいようにとザッハが【壁化】したが、そこまで飛び降りるにしても大人二人分ほどの高さがあった。

「よし、ザッハ……そこ、絶対動くなよ。動いたらマジで殺すからな……?」

「……早くしろ、チビ……」

「あぁ?」

「アデロさん……僕の《呪言》で、最悪のことは起きないようにしてあげますから、本当に早くしてくださいよ」

「それが一番こえーんだろ、アホかピエール」

「アデロ、いい加減にしろ」

「は、はいっ」

 不機嫌そうなカルバネに促されたこともあって、《幻視》で高さを少しごまかして飛び降りたアデロだったが、壁になったザッハが少し動いたために足場が不安定になる。

「お、おい揺らすなバカッ――いでえぇっ!」

 結局落下して痛そうに足を抱えるアデロの姿に、呆れ顔のカルバネを除いて押し殺すような笑い声が上がる。

「クソッ……ピエール、ザッハ。ぜってえわざとだろ……!」

「違いますよ? プッ」

「……ククッ……」

「お、覚えとけよカスども。いつか必ずぶっ殺してやる」

「お前たち、静かにしろ。やつらが来るぞ」

「「「……」」」

 カルバネの一言が皮切りとなり、全員近くの茂みに一斉に飛び込んで身を隠した。中庭には霧がかかっているとはいえ、近辺には『ウェイカーズ』のラキル、ルベック、オランドの気配があったからだ。

「――やつら、かなりしつこくさがしているな……」

「おいらたち、とんでもねえ連中に依頼しちまったってわけっすねぇ」

「どうしますか? セクトを見つけた連中だし、いずれここも……。一応、《方位》では逃げるのに最良の場所を指していますが……」

「……ヤバイ……」

「落ち着けお前たち。まだ見つかったわけでもないし、仮にそうなったとしても対処法はある。いざとなれば、こっちだってそう簡単にやられるつもりもない。やつらにしてみても面倒事は避けたいはずだし、それを見越してバニルたちを優先してさがしている可能性だってあるだろう」

「それって、つまり連中がバニルたちがこの辺にいるっていう確証を得ているってわけっすかね?」

「そうだな。それでも見つからんとは、バニルのやつめ……一体どこに上手く隠れ込んだのか……」

「こっちが先にバニルちゃんを見つけられたらいいっすね!」

「……」

「なんせ、カルバネさんのお気に入り――」

「――黙れ、アデロ。それ以上言うな……」

「す、すいやせん」

 カルバネに鋭い眼光を貰ってしゅんとなるアデロ。

「アデロさん? 余計なこと言うのやめましょうねえ。大体、やつらが血眼で駆け回ってる状況でさがすなんて自殺行為ですし」

「……同意……」

「うるせえぇ、こんのゴミどもがっ! あ、やべっ」

 慌てて自分の口を塞ぐアデロ。

「ちょっとアデロさん、やめてくださいよ。折角僕が《呪言》で何か良いことが起こるようにとしているところで、凶を呼び込むようなことは……あっ……」

 ピエールは見つけた。茂みの中、きらりと光るもの――宝箱の一部――が顔を出していることに。

「た、宝箱です。カルバネさん……」

「何?」

「おっ、サボリ魔のくせにやるじゃねーかピエール」

 アデロがしたり顔で真っ先にしゃがみ込んだまま宝箱に近付いたが、その姿が忽然と消えてしまった。

「ア、アデロさん……?」

「……アデロ……?」

「お、おい待て二人とも――」

 カルバネが制止するも、ピエールとザッハは既にアデロの消えた方向に向かっていて、いずれも立て続けに姿を消してしまった。

「待てというのに……って、まさか……そうだ、間違いない。これは――」

「――誰かそこにいるのはわかってるよ。怖がらずに出てきてごらん?」

「はっ……」

 カルバネの頭上には、薄い霧越しに青みがかった黒い歪な翼を広げ、長い漆黒の爪を煌めかせる悪魔――クールデビルのラキル――の姿があった。

「よくここがわかったな」

「お、君は確か、依頼してきたパーティーのリーダーじゃないか。どういうこと? まさか、生意気にも失敗しないかどうか僕たちを監視してたのかな?」

「だとしたらどうするつもりだ?」

「へぇ、随分余裕そうじゃないか。勝算はあるのかい?」

「そんなものはないが、残念ながら俺たちが負けることもない」

「……へ?」

 訝し気なラキルに向かってカルバネは薄く笑うと、宝箱のほうに飛び込むようにして姿を消した。
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