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82.袋の鼠
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「……」
もう、ならず者パーティーの『ウェイカーズ』のやつらは、やや離れた場所にいるグレスとカチュアを除いて回廊、それもこの小部屋につながる通路前に集まっている様子。途中、何故かモタモタしているところはあったが、ほぼまっすぐこっちに向かってきていた。
偶然という少ない望みに賭けたがダメだった。やはり、あいつらには俺がここにいることがわかるのだ。グレス、ルベック、ラキル、オランド、カチュア……あの面子の中に探知スキルか何かを持っているやつがいるということだ。とにかく、このままこの部屋で待っていれば間違いなくやつらはここに来る。
少し経って、オランドが一人だけでこっちに向かってくるのが気配で読み取れた。まもなく、グレスとカチュアも通路前で合流したのもわかる。おそらく、肉壁としてオランドがここに入ったあと、すぐに残りのメンバーがなだれ込んでくる手筈なんだろう。
……追い詰められ過ぎてるせいか、俺は逆に落ち着いてきた。不思議なもんだ。さあ、そろそろ《成否率》が使えるようになる頃だな。
これから俺が『ウェイカーズ』と普通に戦って勝てる確率を占ってみると、やっぱり低くて23だった。その場合、俺とスピカが死ぬ確率はそれぞれ18、25と2割近い数字が出た。意外と低いのは、多分生け捕りにする気だからなんだろう。だが、もしそうなった場合、あの頃に味わった以上の地獄が待っている、そんな気がした。
もしかしたら普通に戦おうとしているからじゃないかと思って、俺が狂戦士症を使ったらと仮定すると、その場合勝てる確率は44とほぼ倍の結果になった。ただ、それだと俺やスピカが死ぬ確率はともに52、66と飛躍的に上昇してしまってるが。
《シール》があるので、狂戦士となった俺がスピカに狙いを定めたとしてもその時点で抑えることができるが、恐れをなした誰かがスピカを人間の盾にした場合はわからない。最悪の場合、自分の手で彼女を殺してしまいかねない……。
それでも100ではないし、4割以上も勝つ確率がある上、5割近くも生存確率がある。スピカも低いが3割の確率で生き残れる。
ちなみに、逃げた場合に俺たちが捕まる確率は86だった。押しても引いても極めて厳しい状況というわけだ。完全に人生の岐路に立たされているといっていい。ここでの選択がその後の人生を左右するだろう。俺がこのピンチを乗り越えて復讐を成し遂げるか、あるいはやつらに捕まってこの上ない辱めを受けるのか……。
うちのパーティー『インフィニティブルー』のリーダーであるベリテスは、命さえあればいいと言っていた。それより大事なものはないのだと……。よくわかるし、色んなことを経験しているからこそ出てくる言葉なのも理解できる。
だけど、それはあくまで人間として生きられればの話であって、あいつらの前だと人として生きることはもう許されなくなるだろう。何より俺の精神が持たなくなるはずだ。もし最悪の事態になりそうなら、そのときは……。俺はベリテスの奥さんが何故自決したのか、このときばかりはよくわかるような気がした。
◇ ◇ ◇
「どうだ、ラキル。クソセクトのやつはまだ動いてねえか?」
「うん」
回廊をしばらく進んだ先の左側にある、小部屋へと続くL字の通路の前に『ウェイカーズ』の面々――ルベック、ラキル、オランド――がいた。グレスとカチュアはそこから離れた場所で抱き合っていたが、彼らとはすぐに合流できる程度の距離しかなかった。
「やつのことだし呑気に寝てやがるのかもな」
「ありえるねぇ。万が一僕たちに気付いてるなら、真っ先に逃げるはずだし……」
「チキンオブチキンだしな」
笑い合うラキルとルベック。
「ククッ。確かに……いでっ!?」
一緒に笑ったオランドだったが、またしても後ろからルベックに髪をわし掴みにされる。
「おい腐ったみかん、何お前まで調子こいて笑ってんだよ。さっさと行け! それともここで死ぬほどボコられてからにするか?」
「い、いえっ!」
オランドが頭部の生え際を撫でながら逃げるように通路を進んでいく。
「――クソクソクソッ……。いちいち髪を掴みやがって……」
ただでさえ髪が後退しているのを気にしていたこともあり、オランドの怒りは膨れ上がるばかりだった。
「これも全部あのウスノロのせいだ。セクトめが……そ、そうだっ」
通路を曲がって扉が見えたところで、オランドはしたり顔で自分の手の平をポンと叩いた。
「やつの毛を全部、一本一本抜いてやろう……。ウスノロセクト、お前は俺より遥かに格下なのだ。常に誰よりも下にいて、生涯人を明るくさせるオモチャとして生きる運命なのだ……クククッ、アヒャヒャッ――」
はっとした表情で口を押さえるオランド。青ざめつつ恐る恐る振り返るが、まだ誰も来る気配はなかった。
「……クッ、ククッ……。あのウスノロめが、以前は俺を相手に強気のようだったが、何もわかっとらん……。やつが赤い稲妻やクールデビル相手に逆らえるはずもないのだ。俺を相手に珍妙な術を使って調子に乗ったところでの逆転劇……クウゥ、ざまぁみろっ……。実に楽しみだなぁ? ウスノロー!」
【腐屍化】したオランドが、至福の笑みを浮かべながら一気に扉を開け放つ。
「……あるぇ?」
オランドの顔から見る見る喜びの色が抜け落ちていく。暖炉に火はついていたが、小部屋には誰の姿も見当たらなかった。
「ど、どこだ! ウスノロ、出てこい! いるんだろう!? ここか? それともここか!? かかってこい! かかってこおおぉぉぉいっ! ……頼む、頼むうぅ……頼むから出てきてくれええぇぇっ……!」
血眼になって捜し回るもセクトは見付からず、オランドの声は次第に萎んでいくのだった……。
もう、ならず者パーティーの『ウェイカーズ』のやつらは、やや離れた場所にいるグレスとカチュアを除いて回廊、それもこの小部屋につながる通路前に集まっている様子。途中、何故かモタモタしているところはあったが、ほぼまっすぐこっちに向かってきていた。
偶然という少ない望みに賭けたがダメだった。やはり、あいつらには俺がここにいることがわかるのだ。グレス、ルベック、ラキル、オランド、カチュア……あの面子の中に探知スキルか何かを持っているやつがいるということだ。とにかく、このままこの部屋で待っていれば間違いなくやつらはここに来る。
少し経って、オランドが一人だけでこっちに向かってくるのが気配で読み取れた。まもなく、グレスとカチュアも通路前で合流したのもわかる。おそらく、肉壁としてオランドがここに入ったあと、すぐに残りのメンバーがなだれ込んでくる手筈なんだろう。
……追い詰められ過ぎてるせいか、俺は逆に落ち着いてきた。不思議なもんだ。さあ、そろそろ《成否率》が使えるようになる頃だな。
これから俺が『ウェイカーズ』と普通に戦って勝てる確率を占ってみると、やっぱり低くて23だった。その場合、俺とスピカが死ぬ確率はそれぞれ18、25と2割近い数字が出た。意外と低いのは、多分生け捕りにする気だからなんだろう。だが、もしそうなった場合、あの頃に味わった以上の地獄が待っている、そんな気がした。
もしかしたら普通に戦おうとしているからじゃないかと思って、俺が狂戦士症を使ったらと仮定すると、その場合勝てる確率は44とほぼ倍の結果になった。ただ、それだと俺やスピカが死ぬ確率はともに52、66と飛躍的に上昇してしまってるが。
《シール》があるので、狂戦士となった俺がスピカに狙いを定めたとしてもその時点で抑えることができるが、恐れをなした誰かがスピカを人間の盾にした場合はわからない。最悪の場合、自分の手で彼女を殺してしまいかねない……。
それでも100ではないし、4割以上も勝つ確率がある上、5割近くも生存確率がある。スピカも低いが3割の確率で生き残れる。
ちなみに、逃げた場合に俺たちが捕まる確率は86だった。押しても引いても極めて厳しい状況というわけだ。完全に人生の岐路に立たされているといっていい。ここでの選択がその後の人生を左右するだろう。俺がこのピンチを乗り越えて復讐を成し遂げるか、あるいはやつらに捕まってこの上ない辱めを受けるのか……。
うちのパーティー『インフィニティブルー』のリーダーであるベリテスは、命さえあればいいと言っていた。それより大事なものはないのだと……。よくわかるし、色んなことを経験しているからこそ出てくる言葉なのも理解できる。
だけど、それはあくまで人間として生きられればの話であって、あいつらの前だと人として生きることはもう許されなくなるだろう。何より俺の精神が持たなくなるはずだ。もし最悪の事態になりそうなら、そのときは……。俺はベリテスの奥さんが何故自決したのか、このときばかりはよくわかるような気がした。
◇ ◇ ◇
「どうだ、ラキル。クソセクトのやつはまだ動いてねえか?」
「うん」
回廊をしばらく進んだ先の左側にある、小部屋へと続くL字の通路の前に『ウェイカーズ』の面々――ルベック、ラキル、オランド――がいた。グレスとカチュアはそこから離れた場所で抱き合っていたが、彼らとはすぐに合流できる程度の距離しかなかった。
「やつのことだし呑気に寝てやがるのかもな」
「ありえるねぇ。万が一僕たちに気付いてるなら、真っ先に逃げるはずだし……」
「チキンオブチキンだしな」
笑い合うラキルとルベック。
「ククッ。確かに……いでっ!?」
一緒に笑ったオランドだったが、またしても後ろからルベックに髪をわし掴みにされる。
「おい腐ったみかん、何お前まで調子こいて笑ってんだよ。さっさと行け! それともここで死ぬほどボコられてからにするか?」
「い、いえっ!」
オランドが頭部の生え際を撫でながら逃げるように通路を進んでいく。
「――クソクソクソッ……。いちいち髪を掴みやがって……」
ただでさえ髪が後退しているのを気にしていたこともあり、オランドの怒りは膨れ上がるばかりだった。
「これも全部あのウスノロのせいだ。セクトめが……そ、そうだっ」
通路を曲がって扉が見えたところで、オランドはしたり顔で自分の手の平をポンと叩いた。
「やつの毛を全部、一本一本抜いてやろう……。ウスノロセクト、お前は俺より遥かに格下なのだ。常に誰よりも下にいて、生涯人を明るくさせるオモチャとして生きる運命なのだ……クククッ、アヒャヒャッ――」
はっとした表情で口を押さえるオランド。青ざめつつ恐る恐る振り返るが、まだ誰も来る気配はなかった。
「……クッ、ククッ……。あのウスノロめが、以前は俺を相手に強気のようだったが、何もわかっとらん……。やつが赤い稲妻やクールデビル相手に逆らえるはずもないのだ。俺を相手に珍妙な術を使って調子に乗ったところでの逆転劇……クウゥ、ざまぁみろっ……。実に楽しみだなぁ? ウスノロー!」
【腐屍化】したオランドが、至福の笑みを浮かべながら一気に扉を開け放つ。
「……あるぇ?」
オランドの顔から見る見る喜びの色が抜け落ちていく。暖炉に火はついていたが、小部屋には誰の姿も見当たらなかった。
「ど、どこだ! ウスノロ、出てこい! いるんだろう!? ここか? それともここか!? かかってこい! かかってこおおぉぉぉいっ! ……頼む、頼むうぅ……頼むから出てきてくれええぇぇっ……!」
血眼になって捜し回るもセクトは見付からず、オランドの声は次第に萎んでいくのだった……。
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