パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

文字の大きさ
上 下
81 / 130

81.玩具の弄り方

しおりを挟む

 夜の刻には満月と希望が、朝の刻には霧と不安が、昼の刻には広大な面積と疲労が、夕の刻には恐怖のみが支配する。それがダンジョン――蒼の古城第一層――に初めて潜った者たちの間の常識である。

 そんな靄の漂う中庭をもろともせず、ひたすら目指す場所へと行進するパーティーがいた。リーダーのグレスを始めとするルベック、ラキル、オランド、カチュアの計五人で構成されたパーティー『ウェイカーズ』である。

 彼らは不安定な視界とは対照的に、いずれも晴々とした面持ちを携えて闊歩していた。

 ラキルのBランク派生スキル《魔眼》は優れた探知スキルであり、探したい者をイメージするだけで、どんなに距離が離れていても不明瞭ではあるが場所がわかるのだ。

「ひひっ……久々に見るあの男がぁ、どんな間抜け面で迎えてくれるかぁ、実に楽しみだなぁ……」

「ですねぇ、グレス様……」

 グレスの傍ら、微笑むカチュアの目に怪しげな光が宿る。

「あ、この前は四肢切断を提案しましたけど、それに加えてもう片方の目も潰しちゃったらどうですか?」

「んん、それは何故だぁ、カチュアぁ?」

「私、寒気がしてたんですよね。アレにずっと好意の目を向けられていたのは知ってたんですけど、正直気持ち悪くて仕方なくって、今思い出しただけでも鳥肌が立ちます……」

「ひひっ。それならぁ、片方の目もじわじわと刳り抜いてやろうぅ」

「わー、嬉しいですぅ」

「「ちゅー……」」

 グレスとカチュアはたびたび立ち止まってはキスをするので、パーティーの一番後方に陣取る格好になっていたわけだが、そんな様子をちらちらと苦い顔で振り返りつつ、小声で会話する者たちがいた。一部の冒険者の間でそれぞれ赤い稲妻、クールデビルと呼ばれて恐れられているルベックとラキルである。

「で、ラキル。あとどれくらいなんだ?」

「あと少しかかるよ、ルベック」

「このままだとチキンのセクトに逃げられちまうんじゃねえの? 遅れた青春を謳歌してらっしゃるクソグレス様のせいでよ……」

「大丈夫だよ。こっちが近付いてるのはわからないはずだし、ぼんやりとしててどんな顔かまではわからないけど動かないのはわかるし」

「仲間に気配を読めるやつがいるかもしれねえだろ? まあ動かねえんだったら違うか。あいつ、狂戦士症だのあらゆるスキルがどうだの言って調子こきながらハーレム生活してたらしいぜ。あー、早くあのオモチャに生き地獄を見せてやりてえ……」

「あははっ。喉元過ぎれば熱さを忘れるっていうしね。どんな風に料理してあげよっか?」

「決まってんだろ。ハーレムしてたんなら、そいつらの前でクソセクトにとことん惨めなことをさせてやろうぜ」

「いいねー」

「……ク、クククッ。それは最高だ。あのウスノロめが、自分がオモチャだということを自覚してすぐ死人のような無様な面になるはずだ……」

 オランドはいつもより饒舌だった。

「おい、お前みたいにか? 腐ったみかんちゃん」

「うぇ……? お、俺……?」

「お前しかいねえだろうが。おい、お前調子に乗ってんなよ……」

「あっ……た、確かに今のオモチャは俺! マジスマン……ぐぎっ」

 ゾンビとなり、自ら目玉を取り出してニヤリと笑うオランド。

「へっ……まあちょっとは面白かったから許してやる」

「あ、ありがたい……ククッ……。いいぞ、ウスノロセクト……お前のおかげで俺の運も上昇中だ……」

 得意顔でブツブツと呟くオランド。リンチを受けずに済んだ自らの突飛な行為でさえも、セクトをオモチャにできることが生んだものだと好意的に捉えていたのである。



「――もうすぐだっ……。みんな、もうすぐだよ。ついにあのオモチャ箱と再会できるよ……」

 ラキルたちは庭園を抜け、突き当たり付近の階段を上って回廊に差し掛かっていた。この頃にはグレスとカチュアも合流し、セクト捕獲作戦に向けての準備が始まっていたのである。

「オモチャ箱を開けたらどんなのが飛び出すか、ホント楽しみだぜ」

「ククッ……いきなりだとあのウスノロは狂うかもしれん……。だから、少しずつ上手にオモチャ箱を開けて反応を楽しむべきなのだ……」

 オランドの目は見開かれ、真っ赤に充血していた。

「ひひっ。とはいえ、やつは狂戦士症だぁ。早めに何もできなくしてやる必要があるぞぉ……」

 グレスがカチュアの胸元に顔を埋めながらくぐもった声を出す。

「はんっ……狂犬に噛まれないように気をつけないといけないですねぇ、グレス様ぁ……」

「うむぅ。まずはオランドぉ、お前が行けえぇ……」

「え……で、でも、俺では何もできないかと……」

「狂戦士症は時間制限がある上連続では使えない仕様だぁ。だからお前が時間稼ぎしろぉ……」

「そ、そんなぁ……。普通にグレス様がやれば済む話――」

「――んんぅ、逆らうのかぁ……?」

「ひ、ひいぃ……」

 グレスに今にも触れそうなほど顔を近付けられ、ガタガタと震えるオランド。

「そそそ、そういうわけでは……」

「じゃあやれぇ……。殺すのは簡単だがぁ、生け捕りにするんだからぁ、囮で狂戦士症を使わせてから捕まえたほうが楽だろぉ、ボケえぇ……」

「は、はいっ! わかりまし……ぎっ!?」

「わかったならとっとと来いってんだよゴミ」

 後ろからルベックに髪を掴まれて倒され、そのまま引き摺られていくオランド。

「やべでぐれ! いぐから! ちゃんといぐからあぁぁ! 抜けりゅっ……俺の毛が抜けりゅううぅっ!」

 泣き叫びながらゾンビになるオランドは笑いの的であった。

「……ぢっ、ぢくしょう……セクトめが……。お前が……お前が全て悪いのだ……。だが、もうすぐだ……。もうすぐお前は俺が受けた屈辱の何倍もの痛みを味わう……」

 派生スキル《麻痺》によって痛みは和らげることができたオランドだったが、髪の毛が抜けた精神的なショックによるものか、彼のセクトに対する憎悪は何故か増すばかりだった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

処理中です...