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78.頻発する接触
しおりを挟む俺たちは回廊を歩きつつ、どこかに休める場所がないか探すことにする。できればここよりも肌寒くない室内が望ましい。外の寒さはダンジョンの外にいた頃となんら変わらないからな。
そんな中、こういうときに限ってモンスターとの遭遇率が上昇していた。
不安が敵を呼び寄せるんじゃないかと思えるほどで、半漁兵士だけじゃなく、コルヌタートルとかいう、緩慢な動きからいきなり跳躍してくる亀のモンスター、さらには骨だけになった状態で宙に浮いてるボーンフィッシュとかいう魚のモンスターまで出てきた。
亀に関しては二匹だけだったので、気を失ったスピカや《追従》を使うルシアが戦えない状態とはいえ、一匹はバニルが上手く弱点を突いて倒してくれたし、俺のほうに飛んできたもう一匹も、咄嗟に抜いた短剣を《ファイヤーウッド》で薪に変えたことでなんとか身を守ることができた。
さらに亀は自慢の角が薪に刺さって動けなくなり、ミルウに棍棒で殴り倒されていた。見た目は幼いがこの子も結構強いんだよなあ。
また、そのあとに来たボーンフィッシュに関しては十匹もいたので特に肝を冷やした。やつらは主に群れで行動することが多く、幾つかの群れが合流して大群と化すのも珍しくないのだそうだ。
『……』
骨だけの魚たちは無言で宙を飛んで迫ってきて、鋭い牙だらけの大口を開けて襲ってくる。一度噛みつかれたら切断するまで放してくれないらしく、倒しても一回限りだがまたすぐに復活するという厄介なモンスターだった。
しかも飛行しているためか《忠節》が通用せず、ミルウやバニルのように避けながら倒すというわけにもいかず俺は回避するのみになっていた。迂闊に攻撃すれば痛い目を見るから仕方ないとはいえ歯痒い。
しかも結構素早いから、一匹を攻撃してる間にほかのやつにやられてしまう可能性が高い。バニルとミルウも容易には手を出せない様子で、回避のほうが多めになっていた。今あるスキルで対処できないものか……。
「あ……」
そうだ。この手があった。
俺はボーンフィッシュたちが群れてくる習性を利用し、触れ合ったところで徐々に《結合》していって、最終的に一つの塊――巨大魚――にしてやると、一気に《ハンドアックス》で叩き壊してやった。もちろんすぐに復活はしてくるが、みんな同じ場所なためにごちゃごちゃになって合体し、的も大きいのでかわされる心配もなく、即座に俺やミルウの餌食となった。
「セクト、やるね!」
「セクトお兄ちゃん、あったまいいー!」
「……よせって。みんながくれたアイテムのおかげだよ」
今思うと、バニルたちがくれたアイテムを変化することで得た派生スキルは、俺が頻繁に使う主力スキルといっていいからな。
《忠節》《結合》《反転》《成否率》……それぞれ、ミルウ、バニル、ルシア、スピカから貰ったアイテムを変えたものだし。
「……セ、クト。や、やるわ……ね……」
「……」
ルシア、ちょっと無理しちゃったな。かなり棒読みだった。
「――お……」
とはいえルシアからの応援もあったので気をよくして回廊を歩いていると、左側に城の内部へと続きそうな道が見えた。どんなところだろうと思って入ってみたわけだが、L字の細い通路で奥には扉があった。鍵は掛かっていない。
敵の気配もなかったので早速中に入ってみると、とても暗かったので《導きの手》で照らしてみる。……窓はないものの普通の小部屋だった。狭い上に壁にはあっちこっちに赤い手形が幾つもつけられていて不気味だったが、暖炉もベッドもテーブルもある。
俺は暖炉に残っていた本物の薪に火をつけた。あれだけ薄気味悪かった部屋の雰囲気も結構明るくなるな。その間、ルシアがスピカをベッドに寝かせるのがわかる。これで一安心かな。
彼女が目覚めるまで、しばらくここで休むか……。食欲減退、眠気覚ましのために持参してきた、宿舎の庭で栽培していたクラップハーブに加えて、《恵みの手》《エアケトル》のスキルでお茶を作るとしよう。それを《エアウェア》に入れたあと、敵が現れたときに備えて《夢椅子》を使用し、立ったままみんなと飲むことにする。
熟練度が低いためにすぐ消えてしまうが、状態の維持はできるので充分に水の入った《エアケトル》をひたすら使用して暖炉に置くだけだ。
しばらくして、小部屋ではなんとも不思議な光景が広がったが、味は普通に飲むのとなんら変わらなかった。
そういやハーブをスキルにすれば次からこれもいらなくなるんじゃないかと思って早速変えてみたんだが、《エアクラップ》という近くの相手に手を使わず平手打ちができるFランクスキルになった。思ったものとは違うが、確かに眠気覚ましにはなりそうだ……。
「――あ……」
みんなでくつろいでいたところ、パーティーの気配がして俺は息を呑んだ。この小部屋からそう遠くない場所だ。しかもいきなり……。集中力が削がれてた感じはなかったのに気付けなくて不思議に思う。自分が思っている以上に疲れてて気配察知能力が上手く機能しなかったんだろうか……。
「セクト、どうしたの?」
「どうしたのお? セクトお兄ちゃん」
「……どうし、たの……」
「だ、誰かこっちに来る……」
俺の言葉で、みんな緊張した様子で黙り込んだ。謎のパーティーがこっちに徐々に近づいてきているのはわかる。まだどんな面子なのかは読み取れないが、カルバネたちか、あるいは……『ウェイカーズ』である可能性も捨てきれない。
「……はぁ、はぁぁ……」
呼吸が荒くなってきた。もうすぐ、例のパーティーがどんな連中なのか俺の気配察知能力によってわかる距離まで来る。スピカがこんな状態だし、今はまだとてもじゃないが戦える状況じゃない。どうか違ってくれ。俺は藁にも縋る思いだった。
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