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69.結ばれし者たち
しおりを挟むようやくダンジョンの入り口――女神アルテリスの銅像――へ続く道が俺の視界に入ったときには、もうとっくに夕の刻を過ぎてしまっていた。
「まずいな……」
爪先立ちで行列の先を見据えるが、ダメだ。まったく人が動く気配はない。
このままだと入口まで行った時点で夜の刻になっているように思える。そうなると女神像の前に着くまでに朝の刻になってしまって、本当には入れなくなるんじゃないか。《成否率》だとそこまで先のことはまだわからないのでなんとも言えないが、間に合わなくなる可能性は充分あるように感じた。
「もしダメだったら、みんなごめんね……」
バニルがしゅんとしている。
「はぁ? なんでバニルが謝るのよ。ここで教会兵が来るほど暴れたやつが悪いんでしょ!」
「そうですよー」
「仕方ないもん……」
「お、俺もそう思う。バニルは悪くない……」
「……ありがと」
みんなから少し遅れて俺が言うと、バニルは照れたように笑った。可愛いと思ってしまった自分が何故か悔しい……。
「でも、そうでもなくても人気のダンジョンなんだし、年々各地から訪れる冒険者も増えてきてたのはわかってたから、何かしら対策を講じておくべきだったのかなって……」
「ダメならそのときはそのときよ! みんなで狼峠にでも行きましょ!」
「くすくすっ……狼さん、怖いですねぇ」
「あふぅ。ミルウもぉ。セクトお兄ちゃん、守ってね……」
「私も守ってねっ」
「……」
みんなそう言いつつあまり怖くなさそうというか、余裕すらありそうなんだが……。
っていうか、もう完全にダンジョンに行けないみたいな空気になっちゃってる。ここは俺がなんとかしないと。そのための固有能力【変換】じゃないか。下手な弓矢も数射れば当たるっていうし、今まで色んなものをスキルに変化させて獲得してるんだから、その中でこういう場合に使えるものもあるはず……。
「……」
そうだ。《反転》を使って前に並んでる冒険者との位置を逆転させるのはどうだろうか? 少し卑怯かもしれないが手段を選んでる暇はない。
「みんな、迷子にならないように俺のほうにもう少し寄って」
「うんっ」
「わかったわよ」
「はぁい」
「抱き付いちゃうもんっ」
「……うっ」
潰されるんじゃないかと思うくらい、みんな一斉に寄ってきて焦った。
まず、バニルたちを《結合》で俺の体にくっつけて、違和感がないように二列先くらいにいる一人の冒険者と自分たちを入れ替えてみる。
……お、上手くいった……と思ったらすぐ元の位置に戻ってしまった。元に戻っちゃうなら意味がないんだよなあ。その場所で固定さえできれば……あ、そうだ。その手があったか……。
俺は自分にくっついてるみんなを両腕で抱きしめるようにして、三列先の冒険者と位置を交換し、さらに《結合》で地面と自分の足を結び付けた。
「よし……」
成功だ。元に戻らない。《反転》が元に戻るという作用より、《結合》の効果が勝ったということだろう。俺はそれを利用し、とんとん拍子で前の列へと進んでいった。教会兵が見張っているので、目をつけられないように慎重になるのも忘れない。
「――あれ? なんか大分進んだような……」
「ホントだ。なんなのこれ!」
「不思議ですねぇ……」
「変なのお……」
「あれだよ。前のほうで棄権者とかが大量に出たのかもね」
バニルたちは不思議そうにしてたが、俺はあえて知らない振りをしてみせた。順番を守ってない、いわばズルなわけで、誇らしいことでもないしな。ただ、嫌われたくない自分というものから徐々に脱却できつつあるという感触はあった。
「セクト、ありがとね」
「……え?」
「あんたねえ、知らないとでも思ったの? スキル使ってるのバレバレよ!」
「くすくす……それにしても、かなり進みましたねえ」
「セクトお兄ちゃん、お手柄っ。あとでエッチなサービスしてあげるぅ……」
「……」
なーんだ、みんな気付いてない振りをしてただけなのか。またしてもやられてしまった。女の子には勝てそうにないな……。近くまで迫ってきた、露出の多い格好――布切れを腰や胸に巻いただけ――の女神アルテリスの銅像が、悪戯な笑みを俺に向けてきているような、そんな気すらしていた。
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