パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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68.形を変えるもの

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 三カ月に一度、アルテリスの町に隣接する湖はしばらくの間その姿を大きく変える。

 地鳴りとともに水位が著しく下がり、ぱっくりと湖を割るように中央に道が現れる。その奥――湖のちょうど中心――にはこのダンジョンを作ったとされる女神アルテリスの銅像があり、その腹部に触れると蒼の古城に転送されるという仕組みだ。ただし開くのは夜の刻の間だけであり、朝の刻になれば触れても何も起きないただの銅像となる。

 その最前列に、つい先ほど行列に加わったばかりのはずの新参パーティーがいた。『ウェイカーズ』である。

 彼らは教会兵が派遣されて物々しい空気が漂う中、後方に並ぶ者たちを悠然と眺めていた。

「まぁ、よくやった、ルベックぅ……」

「どうも、グレスさん……いえ、グレス様……」

 ルベックは明るい調子でグレスに頭を下げつつ、何度も何度も殺すと呟く。

 彼の迅速な働きにより、列に並んでいた人の塊が粉砕され、バラバラ死体の山ができあがっていた。これに事態を重く見たダンジョン関係者が教会兵を呼んだのだが、『ウェイカーズ』の面々は既にその場にはいなかった。

「蒼の古城で一花咲かせようとして昇天なんて、どんな気分なんだろうねぇ。ゴミムシの気持ちなんて知る由もないけど……あ、セクトが生きてるのならわかるのかな?」

 ラキルが欠伸しながら退屈そうに声を出す。

「ま、まったくだ……。あのウスノロめに直接聞いてみたい。お、俺の拳を交えながら……」

「おいオランド、お前さっきからなんで震えてるんだよ? なんかやましいことでもあんのか?」

「……あ、なな、なんだか凄く寒くて。かか、風邪かもしれない……」

 オランドが慌てた様子で身震いしながら話すも、それは裏目に出た。

「ひひっ……風邪なら温めれば治るだろうぅ。誰か構ってやれぇ。教会兵どもがいるからなるべく静かになぁ。その間、俺はカチュアと抱き合うぅ……」

「そ、そんな……」

 青ざめつつもゾンビとなるオランド。この流れになればどうなるかはもう体の芯から理解していたのである。

「おい腐ったみかん……もし大声出しやがったら、素の状態でお前の少ない脳みそ踏み潰してやるからな」

「そうそう。オランド、大人しくしたほうが身のためだよ?」

「ぐあっ、ぎええっ」

 ひっそりと仲間に遠慮のない肘打ちや蹴りを急所に入れられて苦しみ悶えるオランド。

「オランドさん、とっても可哀想です……あ、あんっ……」

 徐々に原型を留めなくなっていくオランドに向かって、カチュアは黒髪を振り乱しながら、憐れみの声にも似た嬌声を浴びせかけていた。



 ◇ ◇ ◇



 アルテリスの女神像に臨む行列の中ほどには、『ウェイカーズ』にセクトの殺害を依頼したカルバネを始めとするパーティー、『ソルジャーボーンズ』の姿もあった。

「押すなってんだよ、ピエール!」

「仕方ないでしょう、アデロさん。ああいうことが起こったんですから……。僕だって早く先に進みたいですよ……!」

「……まったく、だ……」

「そう騒ぐな、お前たち……。やつら、どさくさに紛れて俺たちまで殺す気満々だったな。もっとも、虫けら同然と見てるのか執念を感じなかったから助かったが……」

 カルバネたちは見ていた。目前でルベックによる無慈悲な無差別大量殺戮が行われる様子を。

「ま、そのおかげでこうして列を飛ばせたわけだから礼を言わねばな……」

「カルバネさん、笑ってる場合じゃないっすよ。マジ、ヤバかったっすから……」

「僕の派生スキル《方位》のおかげで、良い場所を取れて助かりましたね。ルベックとかいうやつの動きが速すぎて見えなかったから肝を冷やしましたが……」

「……自分、派生スキル《重圧》で、近くまで来たやつの思考を鈍くした。それでやつが一歩遅れたから逃げることができた……」

「バカヤロー! おいらが《幻視》であの殺されたやつらの中に逃げ込むイメージを作ったおかげだろ! ついでに、派生スキルの《幻聴》で架空の悲鳴まで上げてやったから、あいつら完璧に騙されてたぜ!」

「「「あ……?」」」

「お前たち、いちいち張り合うなとあれほど言っただろう。そのうち教会兵に睨まれるぞ」

「「「ひっ……」」」

 アデロたちが極端に恐れるのも無理はなかった。教会兵の中には全てのスキルを無効化できる者もおり、一度睨まれると私生活にまで監視の手が及ぶため、必要以上に恐れられているのだ。列の後方にいるとはいえ、彼らの存在感は際立っていたのである。

「それより……セクトたちの姿が見えんな」

「まさか、びびって逃げたんじゃ?」

「ありえますねえ」

「……チキン……」

「いや、来るだろう。来てもらわねば困る……」

 カルバネの鋭い視線は、しばらく後列のずっと向こうにあった。
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