63 / 130
63.縫えない歪み
しおりを挟む額にべっとりと張り付いた髪から覗く眼が、ただ一点を見据えていた。
「可愛いよ、カチュアぁ。ちゅううぅぅ……」
「嬉しいです。ちゅぅー……」
パーティー『ウェイカーズ』の宿舎では、夕食後にメンバーが全員広間に集まり、必ず報告会をする決まりになっていた。
「いっそもう……俺の唇とカチュアの唇を縫い付けてやりたいぃ……。ひひっ……」
「はい、グレス様。私も今すぐにでもそうしたいです。一生離さないでください……」
「「ちゅうぅ……」」
壁に掛けられた竜の燭台に照らされ、新リーダーのグレスとメンバーのカチュアの接吻はしばらく続いた。残りのメンバーの屈折した眼差しを受けながら。
リーダーが報告会を終わると宣言しない限り、メンバーは広間から出ることはおろか、勝手に動くことも許されてはいないのだ。彼に異議を唱えることさえもできないので、黙って情事が終わるのをただじっと待つしかなかったのである。
「……ふうぅ。これから、俺と雑魚のお前たちで蒼の古城の第二層に向かうわけだがぁ……その前に何か俺に報告はあるかぁ……?」
グレスの発言により一層静まり返ったようになる室内の中で、唯一無骨な手を上げた男がいた。
「オランドぉ……何があったぁ……?」
「ソ……『ソルジャーボーンズ』というパーティーから、グシアノさんを介して殺しの依頼が……」
「……ほおぉ。殺しかぁ。でもこれからダンジョンに出発するし、キャンセルだなぁ……」
「そ、それが、俺たちがよく知っているやつで……」
「ほおぉ。まあ一応聞いておくとしよう……。相手は誰だぁ?」
「……『インフィニティブルー』というパーティー所属の……セッ、セ……セクト……」
オランドの発言で、俄かに場内が色めき立つ。
「……な、なんだと? おい、今確かにセクトって言ったな、オランド」
「まさか……そんなのありえないよ……。ねえオランド、ちゃんと確認したの? ただ名前が同じなだけじゃ……?」
ルベックとラキルが血相を変えてオランドに詰め寄る。
「……い、いや、ま、まったく同じ……だっ……」
すぐ目の前にいる二人を前にオランドは完全に怯んでいて、歯をガタガタと鳴らし続けていた。
「マジかよ……。クソセクトのやつ、不死身か? なんで崖から落ちたのに生きてんだ……」
「あはは……打ちどころもよかったのかもしれないけど、それにしても、ねぇ。いやぁ、驚いた。丈夫すぎるオモチャだ……」
「ひひっ……。まさか、ゴミセクトが生きてるなんてなあぁ。カチュアはどう思ううぅ……」
「……なんていうか、信じられない運の強さですねっ。セクトって人、びっくりするくらい格好いいところがまったくなかったし、運に全部偏った人なのかも……」
しばらく広間は動揺という名の空気に包まれていたが、次第に引いてきて代わりに奴隷を自分好みに調教するような、無垢な悪意に満たされようとしていた。
「どんなやつがなんの理由で依頼してきたか知らねえけどよ……あんな面白いのを殺すとか、もったいねえよ。生きたオモチャとして、俺たちで飼育しようぜ!」
「いいねえ、ルベック。僕も賛成だよ」
「……勝手な真似をするな、ルベックぅ、ラキルぅ……」
「「は、はい……」」
「……とはいえぇ、俺もあいつの間抜け顔がそろそろ恋しくなってきたぁ……。裸にして、俺の靴置き台にでもしてやろう。なぁ、カチュアぁ……」
「そうですね。なんなら、四肢を切断してペットにして連れて歩くのはどうです?」
「……それはいいぃ。既に右手もないしなぁ……」
「……」
笑い声が沸き起こるも、オランドの表情は硬いままだった。
「おい腐ったみかん、お前何陰気な面して黙り込んでんだよ。まさか嬉しくねえのか? ああ!?」
「……う、うれじいっ、うれじいっ!」
ルベックに胸ぐらをつかまれたオランドが異様な怯え方をしたので、それまでの空気に拍車がかかって広間は笑いの坩堝と化した。
「……はぁ、笑ったあ……。オランド、まさか勝手なことはしてないよねぇ?」
「……そ、それは違う! 断じて!」
オランドの異様なテンションは、意図せずして周りを盛り上げる形になっていた。
「……面白くなってきたなぁ。オランドぉ……そのパーティー『インフィニティブルー』のことも含めて、わかってることを全部話せぇ。細かい点も、余すことなくなあぁ……」
21
お気に入りに追加
1,702
あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる