59 / 130
59.回り出す車輪
しおりを挟むその日、俺は夢を見なかった。
覚醒していく意識の中、ぼんやりとそんなことを考える。いつもなら変な夢を見て、それについてあれこれと取り留めのないことを考えるのに、俺の心は着実に前に進んでいることの証左なのか。
「おはようさん!」
「おはよう……って……」
いつの間にやら、ベリテスが呑気に欠伸しつつ俺を見下ろしていた。まったく気付くことができなかった。俺が目を開けたのはついさっきとはいえ意識は普通にあったのに、さすが……。
「今日の夜の刻に出発ってことでな、俺はそれまでたっぷりと休むつもりなんだが、その前にお前さんの寝顔を見て癒されようって思ったわけよ」
「……リーダー、なんか死にに行くみたいな言い方やめてくださいよ。あと、それなら出発寸前でもいいんじゃ……」
「かははっ。起きたときはもうやる気スイッチが入ってるからよ。バトルモードってわけよ」
「なるほど……」
ベリテスはたった一人でダンジョンに行くわけだしな。それも超難関と言われる第二層に。元英雄とはいえ、生半端な覚悟じゃ先に進めないということなんだろう。
……そうだ。言わなきゃいけないことがあった。
「……リーダー、昨日カルバネたちが――」
「――知ってるぜ」
「え……」
「俺は気配隠蔽能力だけじゃなく、気配察知もそこそこある」
「まさか、SSS?」
「いや、Sだ」
「……それでも俺より上だし……」
「いや、気配察知に関していえば、俺はこれが限界だからいずれお前さんに軽く抜かれると思うぜ。俺は固有能力がいまいちな分、ほかの部分で補おうとしてきただけだ」
「なるほど……」
さらっと大したことがないように言ってるが、それが余計にベリテスがいかに血の滲むような努力をしてきたかということを窺わせる。
「あいつらの中には妙なのも混じってたが、お前さんが追い返しててスカッとしたぜ。やつらは俺がいる以上、すぐに襲撃しようなんてことは考えないだろうよ」
「でも……そのうち全面抗争になりそうで……」
俺はオランドが売ってきた喧嘩を買ったわけだから、『ウェイカーズ』総出で押しかけて来られてもおかしくない。仮に喧嘩を買わなくても居場所がバレてる以上、時間の問題なんだろうけど。
「そりゃ面白そうじゃねえか。二度とそういう気が起きないように叩きのめしてやろうぜ」
「……」
ベリテスの明るい顔で色々とごまかされそうだ。
「リーダーがいれば心強いっていうか、そもそも易々と来られないだろうけど、ダンジョンの二層に行ったあとは……」
「なあに、心配しなさんな。今のお前さんは自分が思っている以上に遥かに強い。もちろんバニルたちもな。今のうちに色々試しておけばさらに自信もついてくるだろうよ」
「……うん」
正直、今のでかなり不安は取り除かれた。ベリテスが認めてくれるんだから、俺はもっと自信を持っていいはずなんだ。
「それじゃ、おやすみ。それとな、みんな起こしてあるから、もうすぐ来ると思うぜ!」
「えっ」
ベリテスが高笑いしながら部屋を出ていく。
「――おはよー、セクト」
「あ……」
「セクト、おはようの挨拶に来てあげたわよ!」
「おはようです、セクトさん」
「セクトお兄ちゃん、おはよーなの!」
バニルに続いて、ルシア、スピカ、ミルウもやってきた。以前みたいな寝間着姿じゃなくて、みんなしっかり髪まで整えてきている。リーダーが出発する日だし、朝から気合入れてるみたいだな。
「……おはよう、みんな。どんなスキルに化けたか発表するよ」
「「「「わー!」」」」
みんな目を輝かせてる。修行で話せなかった分、沢山交流するつもりだ。まずはこの場で色んなスキルを見せてやるとしよう。
「――ちょっと! 次はあたしの番でしょ!」
「ミルウだもん!」
「こらこら、ダメですよー。間違いなくわたくしの番ですから……」
「えー、絶対私だよー」
「「「「むうぅ……」」」」
「……」
意外だった。《幻花》や《夢椅子》、それに《忠節》や《成否率》あたりもバニルたちには好評だったが、一番受けがよかったのはエアシリーズの一つ、《エアボックス》というスキルだったからだ。
まだぎりぎり一人しか収納できない上に効果時間も短いが、この中に閉じ込められることで別世界に入り込んだような独特の感覚があるみたいで、みんな競うように入りたがっていた。てっきり《成否率》が一番人気だとばかり思ってたのに、何が受けるかなんて本当にわからないな。
21
お気に入りに追加
1,702
あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる