パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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48.開かれし扉

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 俺はもう封印のペンダントを外すしかないのかと思ったが、ほんの一瞬の間に考え直していた。

 もしそれで狼たちを皆殺しにできなかったら、その時点で俺の体がただの骨と化してしまうのは明白だったからだ。

 なので、使うまでになるべく敵の数を減らしておく必要性があった。とはいえ、敵は大量のラピッドウルフ。狂戦士症に頼らずにまともに渡り合えるものなのか。

 それでも今まで考えに考えてきた結果か、早くも一つの案が生まれていた。前向きな逃避というものを、思考だけではなく行動にも当てはめようと考えたのだ。

 俺にはそれができるはず。この狼峠に来る過程で、Fランクだった俺の気配察知能力はCランクにまで達していたからだ。

 だからこそミミクリーラットの気配を感じ取れなかったのは地味にショックだったわけだが、危険と隣り合わせの状況を乗り越えてきたからか飛躍的な向上を成し遂げたのは事実だし、これは確実に武器になる。

 刹那の思考のあと、俺は手の平草の一部を食べた。やつらの気配を読むことでひたすら避けることにしたんだ。

『――ギヤァッ!』

 するとどうだ。やつらは木の枝に引っ掛かったり、仲間同士でぶつかったり縺れ合ったりしてどんどん自滅していった。おそらくこれなんだ。ベリテスが言っていた逃げろという言葉のもう一つの意味は……。

 逃げて勝つというのは、よく考えたらベリテスが狂戦士の俺にやった戦法だ。逃げることによって道を切り開いていくというのは、まさに目から鱗だった。

「くっ……」

 それでも、次から次へと湧いてくるやつらの卓越したスピードと組織力によって俺は動きを封じられ、徐々に追い詰められていった。

 どれだけ気配察知能力が上がろうと、薬草の効果によって体が治ろうと、素の状態であれば身体能力で狼たちに負けているはずだから、こっちの体力が落ちてくればこうなるのは予測できた事態ではあった。

『グルルァ!』

「がああっ!」

 激痛のあまり肩が抉り取られたのかと思った。

 見ると思ったより傷は深くなかったものの血が止まらない。これ以上狂戦士になることを先延ばしにしていたら危険だ。俺は毒にならない範囲で再度薬草を齧って飲み込むと、ペンダントを外した。



 ◇ ◇ ◇



「……ぐぐぐっ……」

 体のあちらこちらが痛々しく変形し、片方の目玉が飛び出たゾンビ――オランド――が、恨めしげにルベックとラキルを見上げていた。

「ふう……。まあこんなもんでいいか」

「だね。オモチャにしては手応えなさすぎな気もするけど……」

「へへっ。そりゃ腐ってるしな。あー、クソセクトが懐かしいなー。幽霊でもいいからもっかいぶん殴りてえ」

「あはっ。……今考えるとあれは本当に上質のオモチャだったねぇ。物理的にも精神的にも弄れる最高の素材だったよ。みんなのオモチャになるためだけに産まれた奇跡的な存在……」

「そう考えたらよ、やつを生かしておきゃよかったな。生きたオモチャとしてよー」

「だねぇ。さ、なんか食べに露店にでも行こっか」

「おう」

 笑い声を上げながらルベックとラキルが立ち去る中、元に戻ったオランドがその場に横たわったまま悔し涙を流していた。

「おのれ……畜生めが……なんでこの俺がこんな目に遭わねばならんのだ……」

 オランドの固有能力は【腐屍化】であり、その間は何をされても死なないという特徴があったわけだが、通常よりも格段に脆くなるという重大な欠陥があるため、基本スキル《変身》を習得した時点でEランクだった。ルベックたちがそれを利用することで、オランドはセクトに代わる新たなオモチャとして重宝されていたのである。

 また、彼には《麻痺》という痛みを軽減させるDランクの派生スキルがあり、そのおかげでなんとか固有能力自体は一つ上がってDランクとなっているが、他人が見ている前で見世物のようにゾンビに変身させられてリンチを受けることも多く、心身ともに大いなる苦痛を伴う屈辱的な日々が続いていたのだ。

「もうこんなパーティー、抜けてしまおうか。いや……もし逃げて捕まったら……」

 死体のように白い顔でブルブルと震えるオランド。

「セクト……元はといえば全てやつが悪いのだ。やつさえいれば、俺を含めてみんな上手にストレスを解消できた……」

 彼の恨みは何故かセクトに向けられていた。

「この怒り……セクトの死体を見つけてミンチにしてやるくらいでなければ収まらん……。やつを生かしておけばよかった。あれは正真正銘のオモチャだが、俺は違う。俺は断じてオモチャなどではない。オモチャは貴様のほうだ、セクト。惨めなウスノロめが――」

「――おーい、オランドー!」

 ブツブツと狂ったように独り言を吐くオランドの元に、モヒカン頭の恰幅の良い男――グシアノ――が小走りに駆け寄ってきた。

「ぐ、グシアノさん。一体何用で……」

「おう。お前のパーティーにいい話を持ってきてやった。実はな……」

 グシアノは自身の固有能力【口無し】のEランク派生スキル《耳打ち》を使用し、目の前にいる者にだけ聞こえるようにする。

(――と、こういうわけよ。リーダーによろしく伝えといてくれ)

「……わ、わわわ、わかりました……」

 わなわなと肩を震わせるオランド。その目は、今にもこぼれ落ちんばかりに見開かれていた。
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