パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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46.腐った者たち

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 アルテリスの町外れ――森林とは逆方向にある山の麓――には、幾つもの冒険者の宿舎が所狭しと立ち並んで長い行列を作り、広大な湖に臨んでいる。

 それはさながら一つの町といっても遜色はなく、冒険者街と呼ばれるほどパーティーには人気があり、多くの強者だけでなく行商人が行き交うことでも知られていた。

 宿舎の東には、三カ月に一度開く湖のダンジョン――蒼の古城――があり、西には年の初めのみに開く岩のダンジョン――灰の牢獄――が存在しているため、冒険者にとっては立地もよく、主に中級者から上級者にかけてのパーティーが利用していたのだ。

 とはいえ、中級者の中でも住めるのは大金を持つ者か、上級者に伝手があるか、あるいは並外れた力――強力な固有能力や武器――を持っている必要があった。

 最近この宿舎に移住してきた新規パーティー『ウェイカーズ』がまさに大いなる力を持つならず者たちの集まりであり、噂を聞いた中級者パーティーが幾つも逃げ出してしまうほどの影響力を誇っていた。

 そんな彼らが暮らす宿舎一階の広間、煌めく湖を映す窓際のソファで、床にひざまずくパーティーメンバーの前、とても長い黒髪の少女――カチュア――の肩を得意げに抱く者がいた。

「何か変わりはないかぁ? ルベックぅ……」

 一見すれば乞食にも見える長髪の男がニヤリと笑う。

「は、はい。グレスさん、何も――」

「――グレスさんだぁ? グレス様だろボケぇ。喰うぞぉ。喰っちまうぞぉぉ……」

「……も、申し訳ありませんでした、グレス様……!」

 ルベックの顔が見る見る青くなっていく。

「ひひっ……わかればいいぃ。さあ、カチュア。ちゅうぅ……」

「ちゅー」

「……」

 メンバーが見ている前で堂々と唇を重ねるグレスとカチュア。それを薄目で見るルベックの両手は固く握りしめられ、唇には血が滲んでいた。



「――畜生があぁっ! もう我慢ならねえぇっ!」

 ルベックの持つ短剣がひらめき、周囲にあった標的の棒が一瞬で細切れになる。

 固有能力【神速】の基本スキル《電光石火》によるものだった。熟練度が低いためまだほんの少ししか持たないが、使用するとスピードが桁外れに上昇するものだ。

 彼の能力はAランクであり、赤い稲妻と呼ばれるに相応しい充分な強さだったが、今や『ウェイカーズ』のリーダーまで上り詰めたグレスとは立場が逆転してしまっていた。

 蛇男とも呼ばれるグレスの固有能力【聖蛇化】は、姿形を変える系で共通する基本スキル《変身》を覚えた時点ではAランクだったわけだが、派生スキル《神授眼》習得によってSランクとなった。

 これを使用した場合、グレスの視界に入った者は容赦なく動きをしばらく封じられてしまうため、ルベックたちは逆らおうにも手も足も出ない状況になっているのだった。

 また、このスキルは使用せずとも勝手に自分に対する攻撃の意思や動作に敏感に反応して相手の動きを封じてくるため、遠距離から攻撃しようにもできずにいたのである。

「なあ、ラキル。こうなったら俺たちだけで新しいパーティーでも作ろうぜ」

 ルベックが見上げた先には、Aランクの固有能力【悪魔化】を使用し、黒ずんだ青い両翼を広げたラキルの姿があった。

 クールデビルという異名が示す通り、基本スキル《変身》を使用することで身体能力の極めて高い悪魔と化したものの、まだ熟練度も低くて僅かしか体を維持できないため、低い位置から自分の翼で体を抱くように閉じて地に降り立つ。

「僕は賛成だけど……蒼の古城がもうすぐ開かれるんだし、そこでお宝の一つでも手に入れてから離れたって遅くはないよ。それに、上手くやればどさくさに紛れて間接的にグレスを葬り去ることだって可能だろうしね」

「まあな……。難しいがそうするしかねぇか。だがよ……たまらんぜ。ストレスで狂いそうだ……」

「ルベックの気持ちはわかるよ。グレスなんて元々雑魚中の雑魚だったくせにすっかり思い上がってるんだから。それに、カチュアもカチュアだよね」

「黒いオアシスは昔からそういうやつだろ。ビッチだからころころと強いやつに乗り換えやがる。……やつも殺すか?」

「いや、彼女は殺すにはあまりにも惜しい固有能力を持ってるし、大目に見てあげたほうが……」

「……それはそうだな。グレスをぶっ殺したら、カチュアもボコボコにして顔の形を変えてでも俺のパーティーに入れてやるさ。なあ、ラキル。それより今から暇潰しに誰か殺しにいこうぜ」

「ん、まだやめといたら? グレスがリーダーのうちはさ。自信満々で殺しを請け負ってるみたいだし、依頼も受けてない状態で僕らが勝手にやってることがバレたらまずいよ」

「……あー、だりーな。いつものようにあいつで発散するしかねえか」

「だね」

「ひっ――」

「――おっと。逃すわけねえよなあ? 腐ったみかんちゃん、いつものアレ頼むぜー」

「い、嫌だ……」

 ルベックに首根っこを掴まれ、オランドが足をガクガクと震わせる。

「あ……?」

「……た、頼むぅ。こんな役はもう嫌なのだ……。俺よりもっと反応が面白いやつを紹介するから、今回だけは見逃してくれ……」

「アホか。殺しても大丈夫なのはお前くらいだろうが。つべこべいわずとっとと【腐屍化】しろ!」

「……うぐぅ……」

「おいオランド……お前な、固有能力も人生もDランクのゴミってことを自覚しろよ。なんなら本当にぶち殺してやるぞ……?」

「わ、わわ、わかった。わかったから……」

《変身》を使ったオランドの顔は、またたく間に青白くなり腐っていった。
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