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39.縺れた糸

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 その日のうちに、カルバネたちは『インフィニティブルー』を脱退し、新たにカルバネをリーダーとする『ソルジャーボーンズ』を結成した。ベリテスによって新人セクトの追放処分が下されなかったためである。

「胸糞悪いとはこのことだ……。何が、『俺はお前たちを責めないし、セクトも責めるつもりはない』だ。しかも続けて、『これは俺の統率力のなさが生んだ悲劇だ』だと? 偽善者振りやがって。やつらは俺たちだけ追放したいってのが本音だっただろうに。その通りにしてやったから、今頃畜生どもは祝勝会の真っ最中だろうよ」

 カルバネを筆頭に、アデロ、ピエール、ザッハといった新パーティーの面々が冒険者ギルド二階で荒れに荒れていた。周囲には割れた酒瓶や皿、食べ滓等のゴミが散乱し、陰鬱な空気をこれでもかと発していた。

 当然彼らに近寄る者は皆無であり、誰も目を合わせようとはしなかったため、そこだけ独特の世界が築き上げられていた。

「カルバネさん、もっと仲間を集めてやつらの宿舎を襲撃するってのは……」

「面白いが、まだダメだ。向こうにはベリテスがいる。まずやつがいなくなってからだ。幸いにも、蒼の古城の入り口があと一週間で現れる。長期の休止で冒険者ランクがリセットされてる以上、やつは間違いなくそこに向かうはずだから、そのタイミングを狙う。セクトの前で女どもを犯したあと、まとめて血祭りにあげてやる……」

「ヒュー!」

「で、でも、セクトも油断できませんよ。やつが狂戦士になったときはそりゃもう、肝を冷やしましたし……」

「……あいつ、やばい……」

 嬉しそうに舌なめずりするアデロと比べて、ピエールとザッハの顔色は優れないままだった。セクトが暴れたときの恐怖が脳裏に焼き付いていたのだ。

「へっ。ピエール、ザッハ。おめーらが雑魚なだけだろうが! おいらの【幻想】のおかげで助かったんだからありがたく思え!」

「アデロさん、あなたよくそんなことが言えますねえ……。あれだけ都合よく逃げることができたのも、僕の【運勢】のおかげでしょうよ。やつの一歩目が遅れてましたからね」

「……自分の【壁化】で、本物のアデロとピエール、隠した。そのおかげ……」

「「「あぁ?」」」

「黙れ」

「「「……」」」

 睨み合う三人をカルバネが一言で制する。

「お前たち、そう心配するな。確かにセクトが狂戦士になれば俺たちだけじゃ手に負えないだろうよ。だから今度知人に頼もうと考えている。そいつに、とにかく強いパーティーを探してもらうつもりだ。しかも殺しを積極的にやるような連中をな……」

「カルバネさん、それいいっすねえ……」

「いいですねぇ」

「……最高……」

 アデロたちがニヤリと笑う。

「ああ、俺たちが受けた屈辱を倍にして返してやろう」

「……あ、あの、カルバネさん」

「どうした、アデロ」

「え、えっと、バニルって子も犯していいのかなあって……」

「……なんでそんなことを俺に聞く?」

「あっ、いや、幼馴染だって聞いたことが――」

「――黙れ……」

「「「ひぃい!」」」

 カルバネがドンとテーブルを叩き、周囲が静まり返る。

「……バニル、か。確かに幼馴染だが、やつは腹黒い女だ。頑張ったらベリテスに俺をレギュラーとして推薦するとか抜かしていたが、俺がどれだけ頑張ろうと一向に声なんてかからなかった。『いつか一緒にレギュラーになろうね』とか言いながら、やつは腹の中で俺を嘲笑っていたのさ」

「そ、それってカルバネさんに気があるんじゃ?」

「……殺すぞ」

「ひ! すいやせん、すいやせん……!」

 アデロはカルバネに謝罪しつつ、【幻想】の基本スキル《幻視》で自分がテーブルに何度も頭を打ち付けるイメージを作り出す。

「……もういい。以前は俺もそこそこ純粋だったし、相思相愛だとばかり思ってたが……やつはベリテスに夢中だった。俺はバニルの誕生日に高価な花束を買ったんだが、それを届けようとして何を見たと思う? あいつがベリテスに告白しているところだ。俺は帰る途中、自分のあまりの間抜けさ、状況のくだらなさに大笑いしながら花束を足で滅茶苦茶にしてやったよ。だから今度はあいつの番だ。あいつの心を花束のように踏みにじってやるのさ。全員でまわして、最後は俺の手で殺してやる……」
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