39 / 130
39.縺れた糸
しおりを挟む
その日のうちに、カルバネたちは『インフィニティブルー』を脱退し、新たにカルバネをリーダーとする『ソルジャーボーンズ』を結成した。ベリテスによって新人セクトの追放処分が下されなかったためである。
「胸糞悪いとはこのことだ……。何が、『俺はお前たちを責めないし、セクトも責めるつもりはない』だ。しかも続けて、『これは俺の統率力のなさが生んだ悲劇だ』だと? 偽善者振りやがって。やつらは俺たちだけ追放したいってのが本音だっただろうに。その通りにしてやったから、今頃畜生どもは祝勝会の真っ最中だろうよ」
カルバネを筆頭に、アデロ、ピエール、ザッハといった新パーティーの面々が冒険者ギルド二階で荒れに荒れていた。周囲には割れた酒瓶や皿、食べ滓等のゴミが散乱し、陰鬱な空気をこれでもかと発していた。
当然彼らに近寄る者は皆無であり、誰も目を合わせようとはしなかったため、そこだけ独特の世界が築き上げられていた。
「カルバネさん、もっと仲間を集めてやつらの宿舎を襲撃するってのは……」
「面白いが、まだダメだ。向こうにはベリテスがいる。まずやつがいなくなってからだ。幸いにも、蒼の古城の入り口があと一週間で現れる。長期の休止で冒険者ランクがリセットされてる以上、やつは間違いなくそこに向かうはずだから、そのタイミングを狙う。セクトの前で女どもを犯したあと、まとめて血祭りにあげてやる……」
「ヒュー!」
「で、でも、セクトも油断できませんよ。やつが狂戦士になったときはそりゃもう、肝を冷やしましたし……」
「……あいつ、やばい……」
嬉しそうに舌なめずりするアデロと比べて、ピエールとザッハの顔色は優れないままだった。セクトが暴れたときの恐怖が脳裏に焼き付いていたのだ。
「へっ。ピエール、ザッハ。おめーらが雑魚なだけだろうが! おいらの【幻想】のおかげで助かったんだからありがたく思え!」
「アデロさん、あなたよくそんなことが言えますねえ……。あれだけ都合よく逃げることができたのも、僕の【運勢】のおかげでしょうよ。やつの一歩目が遅れてましたからね」
「……自分の【壁化】で、本物のアデロとピエール、隠した。そのおかげ……」
「「「あぁ?」」」
「黙れ」
「「「……」」」
睨み合う三人をカルバネが一言で制する。
「お前たち、そう心配するな。確かにセクトが狂戦士になれば俺たちだけじゃ手に負えないだろうよ。だから今度知人に頼もうと考えている。そいつに、とにかく強いパーティーを探してもらうつもりだ。しかも殺しを積極的にやるような連中をな……」
「カルバネさん、それいいっすねえ……」
「いいですねぇ」
「……最高……」
アデロたちがニヤリと笑う。
「ああ、俺たちが受けた屈辱を倍にして返してやろう」
「……あ、あの、カルバネさん」
「どうした、アデロ」
「え、えっと、バニルって子も犯していいのかなあって……」
「……なんでそんなことを俺に聞く?」
「あっ、いや、幼馴染だって聞いたことが――」
「――黙れ……」
「「「ひぃい!」」」
カルバネがドンとテーブルを叩き、周囲が静まり返る。
「……バニル、か。確かに幼馴染だが、やつは腹黒い女だ。頑張ったらベリテスに俺をレギュラーとして推薦するとか抜かしていたが、俺がどれだけ頑張ろうと一向に声なんてかからなかった。『いつか一緒にレギュラーになろうね』とか言いながら、やつは腹の中で俺を嘲笑っていたのさ」
「そ、それってカルバネさんに気があるんじゃ?」
「……殺すぞ」
「ひ! すいやせん、すいやせん……!」
アデロはカルバネに謝罪しつつ、【幻想】の基本スキル《幻視》で自分がテーブルに何度も頭を打ち付けるイメージを作り出す。
「……もういい。以前は俺もそこそこ純粋だったし、相思相愛だとばかり思ってたが……やつはベリテスに夢中だった。俺はバニルの誕生日に高価な花束を買ったんだが、それを届けようとして何を見たと思う? あいつがベリテスに告白しているところだ。俺は帰る途中、自分のあまりの間抜けさ、状況のくだらなさに大笑いしながら花束を足で滅茶苦茶にしてやったよ。だから今度はあいつの番だ。あいつの心を花束のように踏みにじってやるのさ。全員でまわして、最後は俺の手で殺してやる……」
「胸糞悪いとはこのことだ……。何が、『俺はお前たちを責めないし、セクトも責めるつもりはない』だ。しかも続けて、『これは俺の統率力のなさが生んだ悲劇だ』だと? 偽善者振りやがって。やつらは俺たちだけ追放したいってのが本音だっただろうに。その通りにしてやったから、今頃畜生どもは祝勝会の真っ最中だろうよ」
カルバネを筆頭に、アデロ、ピエール、ザッハといった新パーティーの面々が冒険者ギルド二階で荒れに荒れていた。周囲には割れた酒瓶や皿、食べ滓等のゴミが散乱し、陰鬱な空気をこれでもかと発していた。
当然彼らに近寄る者は皆無であり、誰も目を合わせようとはしなかったため、そこだけ独特の世界が築き上げられていた。
「カルバネさん、もっと仲間を集めてやつらの宿舎を襲撃するってのは……」
「面白いが、まだダメだ。向こうにはベリテスがいる。まずやつがいなくなってからだ。幸いにも、蒼の古城の入り口があと一週間で現れる。長期の休止で冒険者ランクがリセットされてる以上、やつは間違いなくそこに向かうはずだから、そのタイミングを狙う。セクトの前で女どもを犯したあと、まとめて血祭りにあげてやる……」
「ヒュー!」
「で、でも、セクトも油断できませんよ。やつが狂戦士になったときはそりゃもう、肝を冷やしましたし……」
「……あいつ、やばい……」
嬉しそうに舌なめずりするアデロと比べて、ピエールとザッハの顔色は優れないままだった。セクトが暴れたときの恐怖が脳裏に焼き付いていたのだ。
「へっ。ピエール、ザッハ。おめーらが雑魚なだけだろうが! おいらの【幻想】のおかげで助かったんだからありがたく思え!」
「アデロさん、あなたよくそんなことが言えますねえ……。あれだけ都合よく逃げることができたのも、僕の【運勢】のおかげでしょうよ。やつの一歩目が遅れてましたからね」
「……自分の【壁化】で、本物のアデロとピエール、隠した。そのおかげ……」
「「「あぁ?」」」
「黙れ」
「「「……」」」
睨み合う三人をカルバネが一言で制する。
「お前たち、そう心配するな。確かにセクトが狂戦士になれば俺たちだけじゃ手に負えないだろうよ。だから今度知人に頼もうと考えている。そいつに、とにかく強いパーティーを探してもらうつもりだ。しかも殺しを積極的にやるような連中をな……」
「カルバネさん、それいいっすねえ……」
「いいですねぇ」
「……最高……」
アデロたちがニヤリと笑う。
「ああ、俺たちが受けた屈辱を倍にして返してやろう」
「……あ、あの、カルバネさん」
「どうした、アデロ」
「え、えっと、バニルって子も犯していいのかなあって……」
「……なんでそんなことを俺に聞く?」
「あっ、いや、幼馴染だって聞いたことが――」
「――黙れ……」
「「「ひぃい!」」」
カルバネがドンとテーブルを叩き、周囲が静まり返る。
「……バニル、か。確かに幼馴染だが、やつは腹黒い女だ。頑張ったらベリテスに俺をレギュラーとして推薦するとか抜かしていたが、俺がどれだけ頑張ろうと一向に声なんてかからなかった。『いつか一緒にレギュラーになろうね』とか言いながら、やつは腹の中で俺を嘲笑っていたのさ」
「そ、それってカルバネさんに気があるんじゃ?」
「……殺すぞ」
「ひ! すいやせん、すいやせん……!」
アデロはカルバネに謝罪しつつ、【幻想】の基本スキル《幻視》で自分がテーブルに何度も頭を打ち付けるイメージを作り出す。
「……もういい。以前は俺もそこそこ純粋だったし、相思相愛だとばかり思ってたが……やつはベリテスに夢中だった。俺はバニルの誕生日に高価な花束を買ったんだが、それを届けようとして何を見たと思う? あいつがベリテスに告白しているところだ。俺は帰る途中、自分のあまりの間抜けさ、状況のくだらなさに大笑いしながら花束を足で滅茶苦茶にしてやったよ。だから今度はあいつの番だ。あいつの心を花束のように踏みにじってやるのさ。全員でまわして、最後は俺の手で殺してやる……」
37
お気に入りに追加
1,702
あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる