パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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36.光が射さない場所

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「――セクト、起きて」

「……う……」

 誰かに肩を揺さぶられて起きると、バニルがいた。それに、スピカ、ルシア、ミルウもいる。

「セクトさん、帰りますよお」

「ほらセクト、とっとと帰るわよ!」

「セクトお兄ちゃん、帰ろー!」

「……な、なんで……」

 わけがわからなかった。

 俺は昨日、同じパーティーに所属している仲間を三人も惨殺したんだぞ。あれだけのことをしたのに、どこに帰るっていうんだ……?

「俺が帰る場所なんてどこにもない。もう放っておいてくれ。金はいずれ返すつもりだ」

 酒を飲もうとしたが、空だった。畜生……。

「酒を――」

「――もうやめて」

 バニルに瓶を取り上げられてしまった。

「な、何するんだよ、バニル。俺にはもう酒しかないっていうのに、それすら奪うのか……?」

「セクト、落ち着いて。ね? 一緒に私たちの宿舎に帰ろう?」

「はあ? 俺は狂戦士症になって仲間を三人もぶっ殺したんだ。教会兵に突き出されてもおかしくないことをしたんだぞ……」

「セクト……あんたは誰も殺してなんかいないわよ!」

「……え?」

 ルシアが妙なことを言い出した。

「あたしは見たのよ。どこかにセクトがいるかもしれないって思って、それで捜してたら見つけたんだけど、ちょうどセクトがあいつらに殴られてペンダントが飛ぶところで……」

「……ど、どういうことだ?」

「セクトが殺したのはアデロの作った幻覚よ! あいつらは速攻で逃げ出してたもの!」

「……そう、だったのか……」

 俺は仲間を殺してはいなかったんだな。そういえば、左手にこびりついてるはずの血が完全になくなっている。いくらか服にも飛び散ってるはずだが、それもなかった。

「さ、セクトさん。わたくしと一緒に帰りますよー」

「ダメッ。セクトお兄ちゃんはスピカじゃなくてミルウと一緒に帰るんだもん」

「まあ。くすくすっ……」

「むー! 大人の余裕、ヤダ!」

「ミルウ、あんたが子供すぎるだけでしょ?」

「あふっ」

「ほら、ルシア。ミルウが泣いちゃうでしょ。そんなこと言わないの」

「……」

 俺はみんなのやり取りを呆然と眺めていた。誰もがまぶしいほど輝いて見える。

 ……確かに俺は誰も殺さなかったのかもしれない。それでも、一歩間違えれば皆殺しにしていた。幻覚とはいえ、狂戦士症がどれほど恐ろしいものなのかもはっきりとわかった。これ以上みんなに迷惑をかけるわけにはいかない。俺みたいな危険分子と関わるべきじゃないんだ。そうだ……ここではっきりと俺を見限らせてやろう。

「さっきから黙って聞いてりゃ……ごちゃごちゃうるせえんだよ!」

 俺はバニルたちを睨みつけた。

「セクト……?」

「いいことを教えてやる……。俺はカルバネの言う通り、ワドルたちを襲おうとしてたんだ。なのにアデロたちが逃げないように俺を見張るとか言い出したから、先に始末しようとしただけだ。あーあ、殺せなかったなら本当にがっかりだな」

「そ、そんなの嘘よ! 何言って――」

「――嘘じゃねえっ!」

 俺はテーブルを強く蹴り上げてひっくり返してやった。周囲からどよめきと悲鳴が上がる。

「お前らの本音はわかってんだよ! 腹ん中じゃ笑ってんだろ! 俺のことを見下してんだろうが!」

「お願い。もう、やめて……」

「やめてよ……」

「セクトさん……」

「嫌だよう……」

 バニルたちの涙が俺の心を掻き乱していく。それでいいんだ。みんなゴミクズの俺のことなんか早く忘れてくれ……。

「お前らは俺をオモチャにしたいだけなんだろうが! できそうにないってわかったならとっとと消えろよ!」

「うるせえなあ」

 とても低いが、よく響く声がした。

「誰だ……?」

 マント姿につばの広い帽子を深く被った男が欠伸する。この男が文句を言ってきたのか。それまで、近くのテーブルで静かに飲んでいた男だった。

「ん、俺か? 俺はな、酒と巨乳と惰眠をこよなく愛するベリテスっていうんだ」

「……」

 ベリテスって……俺たちのリーダーか……。

「これじゃおちおち酒も飲めねえし、妄想にも浸れねえ。イラッときたから俺もちょっと暴れさせてもらうぜ。さあ、表に出やがれ」
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