パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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35.飲まれるもの

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「……オォ、ォ……」

 ……とても、不思議だった。

 今まさに自分が狂戦士になって暴れようとしているのに、心の中じゃいたって冷静だったからだ。

 これから己がやることなすこと、全てが狂気の沙汰だとわかっているにもかかわらず、まるで他人事のように俯瞰していたのだ。止めることが無駄だということを初めから理解しているかのように。

 まだ正常だった自分が、まずいと思って短剣を寸前で投げ捨てていなければ、きっと今頃アデロたちは全員即死していたに違いない。そう確信できるほど自分の体が異様に軽く感じたんだ。

「に、逃げろおっ!」
「早く逃げましょう!」
「逃げ、る……」

 俺が素手で暴れ出したとき、みんなが一斉に逃げようとしたのがわかったので、すぐに桁外れのスピードでアデロの背後に迫り首根っこを掴み、頭を何度も壁に叩きつけてやった。

 そしたら脳漿をばら撒いたので次にザッハを捕まえようとしたんだが、壁に変化されてしまった。それでも、威力抜群の頭突きを何度も食らわせることで亀裂を生じさせて元に戻したあと、血まみれになって逃げるやつの背中を突いてホカホカの心臓を掴み出し、顔面蒼白のピエールの口に押し込んで顔ごと一緒に踏み潰してやった。

「――はぁ、はぁ……」

 気が付くと、俺は荒い呼吸の中で血まみれになった己の左手を眺めていた。足元には変わり果てたアデロたちの遺体が見える。

「……俺が……俺がやったんだな」

 三人も殺してしまった。それも、同じパーティーメンバーを……。

 もう、終わりだ。自分の手で封印のペンダントを外したわけではないとはいえ、俺は狂戦士症を利用してこいつらをぶっ殺したんだから、最低でも追放処分は免れないだろう。

 落ちたペンダントを拾い上げて首に下げると、俺はギルドへと向かった。ワドルたちの姿はもうない。きっと俺が臆病風に吹かれて逃げ出したと思い、どこかへ去ったんだろう。

 ヤケクソで暴れてやろうかとも思ったが、やめた。ルシアから貰った1000ゴーストもあるし、これで朝まで酒を飲み明かすとしようか。そのあと、自分からバニルたちに全てを告白して大人しく処分を受けようと思う。



「――おいおい、もうやめとけよ……」

 俺が飲むのを止めてきたのは、意外にもワドルだった。

 ギルドに足を踏み入れたとき、祝勝会の最中だったワドルたちが一斉に立ち上がってその場は緊張感に包まれたが、俺が酒を奢りつつ例の件について話すと納得してくれたようだった。多分、みんないい具合に酔ってるのもあってすぐ警戒を解いたんだろう。

「別に、あんたのせいじゃなくない? 気持ちはわかるけど、それ以上飲むのは体に毒だよ」

「僕もそう思います」

「うむ」

 ワドルの仲間たちまで同情してくれてる。以前いたネリスという妖艶な女性のほかに、赤いマントに厚みのある鎧を着た銀髪の男クロードと、ランディと名乗った黒いローブ姿の黄金の髭にまみれた男だ。

 補欠とはいえ、俺は彼らと争っていたパーティーの一人だ。なのにこれだけ優しくしてくれるということは、それだけ俺が異常に飲んでるからというのもあるんだろう。

 パーティーの内情といっても過言ではない自分のことを、そうした因縁のあるパーティーに話すのは酔っててもどうかとは思うが、どうせ俺はもう追放される身だからな。

 バニルたちのことだからそれは避けたがるだろうが、俺からも追い出してくれと頼むつもりだ。俺がパーティーから外れれば、話したことも後々には影響しないはずだしな……って、もう何もかもどうでもいいか。

「――すぁっ……酒だあぁ……! もっと……うぷっ……酒を持ってこいっ……!」

 俺は力の限り叫び、周囲から同情以上に顰蹙も買っているようだった。でもやめられない。これで俺はまた独りぼっちだからだ。

 俺が十二歳の頃、イラルサで行われる誕生祭で占い師に前世を占ってもらったことがあるんだが、俺はとことん不幸な男だったらしい。人に裏切られ続けて人間不信になり、他人を疑ってばかりで生涯誰一人愛さず愛されず、晩年は気が狂って自殺したとか。

 当時の俺は前世なんてあるわけないと鼻で笑ってたし、みんなからもバカにされてた占い師だったが、今考えると結構当たってたんじゃないかと思う。運命は繰り返すっていうしな。不幸なやつは世界が変わっても不幸になるって聞いたことがある。

「……ひっく……酒ら……酒しかいるぁないぃ……。すぁけを持ってくぉい……!」

 俺は眠りそうにながらも飲んでいた。俺が酒を飲んでいると思ったが、違った。酒が俺を飲んでいるんだ。
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