パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

文字の大きさ
上 下
34 / 130

34.届かない左手

しおりを挟む
「おい、どうしたんだよセクト。その慌てよう、まさか本当に逃げるつもりだったんじゃねえだろうな?」

「チキン発動ですか?」

「……卑怯者……」

「くっ……」

 アデロたちに凄まれて徐々に距離を詰められていく。どうすれば……どうしたらいいっていうんだ俺は……。

「……きょ、今日は中止にしたいんだ。体の調子が悪くて……」

 俺は中腰になり、苦しそうに腹を抱えてみせた。

 そうだ、これでいい。下手な芝居でもなんでもいいからなんとかこの苦境を乗り切るしかない。

「あ!? 寝言言ってんじゃねえぞボケ!」

「ペンダントを外すまでの間、少し我慢したらいいだけでしょうに」

「……同意……」

「……」

 逃げるなら今のうちだな。ワドルたちのほうに。このタイミングだとちょうど狭い道で鉢合わせする形になってしまうが、戦おうとする姿勢さえ見せなければ大丈夫なはずだ。

「おめー、やっぱり怖気づいたんだな!? でも、そっちに逃げても無駄だぜ!」

「……え?」

「やはり図星ですか。事前に散々こちらがやつらを挑発しておいたんですよ。だから、向こうは人数を揃えてやる気満々であなたの登場を待っているわけです。これで果たして逃げられますかね?」

「……無理無理……」

 アデロ、ピエール、ザッハの笑い声が俺の耳と心を突く。俺はもうどうしたって逃げられないってことかよ……。

「セクト、言っとくがこっちも絶対通さねえからな。てめーにできることはただ一つ! 狂戦士症になってやつらを壊滅させることだ!」

「そうしたら少しは見直してあげてもいいですよ、お間抜けさん?」

「……ククッ……」

「……うぅ……」

 嫌だ。狂戦士になるわけにはいかない。バニルたちを裏切ることになってしまうからだ。

「……おい、早くしろよクソが」

「とっととやってくださいよ、キチガイさん」

「……行け、ゴミ……」

「……お、オランド、ラキル、グレス……」

「「「あぁ?」」」

「……う、あ……」

 ま、まただ。またアデロたちが例の三人と重なって見えた。さらにはルベックやカチュアの姿もぼんやりと見える。畜生どもめ……。

「……はぁ、はぁ……ぐぐぐっ……」

 苦しい……。胸元が今まで以上に強く締め付けられる。呼吸がまともにできない……。

「おい、また仮病かよ! ふざけんなよおめー! 早くしねえとこっちがやべーんだよカス!」

「早くしてくださいよ本当に、もう……!」

「……行け、早く行け……こいつ……」

「……うぐ……?」

 まずい。返事さえまともにできない……。

「おい、カスセクト、聞いてんのか!?」

「キチガイさん?」

「……ゴミ……」

「……う、うぁ……」

 だ、ダメだ。止まらない。トラウマが止まらない……。

「どうやら痛い目に遭いてえようだな! おい、やっちまうぜ、ピエール、ザッハ!」

「承知しました!」

「……任せろ……」

「――ぐがああぁぁっ!」

 アデロたちからの暴行で、あの凄惨なリンチ体験と重なって痛みは増幅していくばかりだった。

 痛い、苦しい。辛い、怖い。嫌い、恨めしい……。

 俺は何故こんなにも苦しまなければならない。ルベック、グレス、オランド、ラキル、カチュア……お前たちさえいなければこんなことにはならなかった。憎い。存在そのものが憎い……。

 このペンダントさえ外せば……。でもそれだけはダメだ。バニルたちを裏切るわけにはいかない。彼女たちとの思い出がそれをさせなかった。些細な日常の記憶の欠片たちが、唯一苦しみを忘れさせてくれた。

「行かねえならここで死んじまえ! カスセクト!」

「あの世がお似合いですよ、ゴミクズさん!」

「……くたばれ、無能……!」

「……うっ……?」

 暴行が激しさを増す中、殴られた拍子に視界の片隅で何かが飛ぶのがわかった。煌めくものが、心と一緒に。ダメだ。あれを手放したら、ダメなんだ……。

 俺は封印のペンダントに手を伸ばしたが、あと少しのところで届かなかった。

「……お、おいピエール、ザッハ、今こいつのペンダント飛ばなかったか?」

「……え? ちょっと待ってください、アデロさん。それって、つまり……」

「……そんな……」

「……」

 なんだ……? 真っ暗で何も見えないのに、妙にはっきりした感覚があった。実にシンプルに、獲物の気配だけがしたのだ。駆除して、肉片にするべきものの臭いが。

「……おお、ォ……?」

 俺は……暴れていい。狂っていいんだ……。

「「「ひいいいぃぃっ!」」」

 ……やっと本当の自由を取り戻した……。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

処理中です...